↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
もう一つの楽園  作者: 村野夜市


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
534/555

534

目を覚ますと、とても疲れていた。

ずっと眠っていたのに、疲れてたなんて、変なんだけど。

とにかく、僕は、ぐったりしていた。


ぼんやりと開いた目に、まん丸い目が映った。

今度はもう、驚かなかった。


「また、君か…

 君は、少しは休んだの?」


うん、と小さく答えるのが聞こえる。

僕は目を開けて何かを見るのもけだるくて、もう一度目を瞑った。


「…僕は、どのくらい、眠っていた?」


「三日。」


「そっか。」


何気なく返したら、くすくすと笑う声が聞こえた。


「???

 何がおかしい?」


「みっか、そっか、って。」


は?

あ、言葉の響きがおかしかった、ってこと?


チビ勇者はくすくすと笑ってる。

子どもって、何が面白いのか、よく分からないところあるなあ。


「水、もらっても、いいかな?」


「あ!」


チビ勇者は、慌てたみたいに、水差しを差し出した。

枕元に用意はしてあったみたい。


からだを起こそうとしたら、慌てて起きるのも手伝ってくれた。


口に含むと、すっと、水がからだに馴染む。

エエルのたっぷり入った特別製の水だった。


「これ、わざわざ用意したの?」


「この郷には、特別な泉があるんだ。

 その水は薬になると言って、ここの人もみんな飲んでる。

 その水だよ。」


「へえ~。」


薬の泉か。

そういうものもあるんだなあ。


水を飲んだら少し元気になったけど、まだじっと座っているのは辛い。

ごそごそと横になろうとしたら、また、チビ勇者は慌てたみたいに手伝ってくれた。


「…有難う。」


お礼を言ったら、黙って首を振る。

僕はそのチビ勇者をじっと見た。


「僕ならもう、大丈夫だよ。

 しばらくの間は、ほとんど眠ってるだろうから。

 ついていてくれなくてもいいよ。」


なんでチビ勇者がそんなことをするのかは謎だけど。

寝顔をただじっと見ているのも、退屈だろう。


「君は、君のことをすればいい。」


チビ勇者は黙って何かを考えていたけれど、しばらくして、無言のまま首を振った。


「その水をそこに置いておいてくれればいいから。」


僕は何故だか、チビ勇者を、ここから追い出したいみたいだった。


「あとは、自分でやるから。」


だけど、チビ勇者は、頑なに首を振った。


「なんで、言うこと、聞いてくれないの?」


なんだか、言い争うのにも疲れて、僕はため息を吐いた。

体力がないってのに、こんなこと言い争ってるのも、しんどいんだけど。


チビ勇者は、からだを乗り出すようにして僕の顔をじっと見つめると、ごめんね、と言った。


予想外の反応に、僕は、困惑した。

そんなふうに、謝られると、僕も強く言えなくなる。

だけど、チビ勇者に、謝るような理由なんか、何もないじゃないか。


「なんで、ごめん?

 何が、ごめん、なの?」


そう言ったら、チビ勇者は大真面目にしばらく考えてから、言った。


「心配だから、見てる。」


「心配しなくていいよ?」


そう返したら、いきなり寝ている僕の上に突っ伏してしまった。


「え?どうしたの?」


はねのける力は、今の僕には、ない。


「………やだ………」


なにそれ。

なにが、やだ、なの。

まったく、チビ勇者ときたら、普段は、割と聞き分けのいい素直な子どもだと思うんだけど。

ときどき、ものすごく頑固になって、そういうときは、何を言っても、ムダなんだよね…


梃子でも動かされないぞ、という意思表示みたいに、両手両足ぴんと伸ばして、ぺったりと僕に覆いかぶさっている。

なんだか、ずずっ、と小さく鼻をすする音も聞こえてきた。

どうしてだろう。

小さい子のこの声を聞くと、むしょうに、胸がずきっとするんだよね。

いや、それ、だけど…


「ちょっと、苦しい…」


思わず言ったら、慌てて飛び退いた。

ふう。


退いてくれて、ほっと、は、したけど。

なんだか、ちょっと、すぅ、と寒くなって。

チビ勇者って、ムダに体温高くて、あったかいんだな、って思った。


「…分かった。ここにいてよ。」


チビ勇者の顔は見えないけど。

多分、べそをかいてる、ってのは、気配で分かった。

泣くほど心配?

それとも、どこかへ行け、って言われたのが、そんなにショックだった?

子どもの気持ちって、分からないなあ。


チビ勇者は、僕の手をぎゅっと握った。

やっぱりすごくあったかくて、ぷにぷにと柔らかくて、ちょっと湿った手だった。


この小さい手で、僕を運んでくれたんだっけ。

いくら飛行円盤があったとはいえ。

そんなに簡単な作業じゃなかったはずだ。


「青い鳥たちは、どうしたかなあ?」


ふと思い出した。


「いっちゃんたちは、研究院に残った。」


まあ、そうだよね。

彼らは、所長代理、なんだから。

あの場所にいなきゃ、なんだ。


「あっちの様子を、伝えてくれてるよ。」


「そっか。」


青い鳥たちは、もう完全に研究院の中のことは把握してるだろうし。

こちらにとってはもう、王の動向は、完全に丸見え、筒抜け状態、ってわけか。


「交渉自体は失敗したけど。

 あの鳥たちを解放できたのは、すごい功績だ、って。

 お師匠様が言ってた。」


お師匠様、ってのは、フォルティスのことかな。


「お師匠様は、僕を褒めてくれた。

 だけど、青い鳥を解放したのは、僕じゃなくて、笛使いだ。

 そう言ったら、その笛使いを、その場所へ導いたのは、僕なんだ、って。」


まあ、そうだよね。

あのとき、チビ勇者が行くって言い出さなければ、そのついでに、ご初代様が、それをあおらなければ、僕は、絶対に、自分からは行くなんて言わない。


「状況は、変化した、けど。

 悪くは、なってない、んだって。」


ちょっとたどたどしくなったのは、チビ勇者も、その言葉の意味が、よく分からなかったからかもしれない。


それから、僕は、もう一度、きょろきょろと、辺りを見回した。

あれ?

ここ、最初に目を覚ました場所、じゃないな。

同じように、木の造りの部屋だけど。

微妙に配置が違うし。

それに、僕の寝ている寝台も、二台を継ぎ足してあるんじゃなくて、ちゃんと僕のからだの大きさに合ってる。


「ここは?どこ?」


「ルクス王とお師匠様のいる本陣だよ。

 ルクス王が、眠ってる君を運んだんだ。」


そうか。

眠っている間に、僕は、運ばれていたんだ。


「君も、夜はちゃんと、フォルティスとソフォラのところに帰っているの?」


チビ勇者は、小さく頷いた。


「そっか。それならいいよ。」


なんといっても、君はまだ小さいんだから。

ちゃんと、夜はお家に帰って休むんだよ。

いいね?


ちょっとお説教臭い台詞を、僕は、実際に口に出せたかどうか分からない。

僕はまた、そのまま眠りに落ちていた。

 







評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。