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もう一つの楽園  作者: 村野夜市


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たくさんの光に囲まれて、僕は、ふわふわと浮かんでいた。

僕自身もその光と同じモノだった。

精霊も人も、元は同じモノでできている。

いや、それ以外のモノも、全部。

木も草も。家も街も。炎も水も。この世界のすべてが。

みんな元は同じモノだ。

命も魔法も、元はといえば、同じモノなんだ。


意志を持った光は、精霊や、生き物や、人になった。


精霊は、生まれやすいけれど、消えやすい。

泡のように生まれては、消えてしまう。


それを避けるために、精霊は、物に宿る。

石にも。水にも。

風や炎も、目に見えない小さな小さな物でできているから。

精霊は、そこに宿る。


木や草になることもある。

花や虫になることもある。

鳥や獣にも。

それから、人にもなる。


だから、木も草も。人も虫も。獣も街も。

みんな元は同じモノだ。


世界は光り輝いていた。

どこもかしこも。


森も。街も。荒れ地も。

等しくどこも輝いていた。


そっか。


なんだか、すとん、と腑に落ちた。


なぁんだ。


荒れ地にエエルはいないんじゃない。

ただ、人である僕にとって、親しいエエルがいないだけ。


だけど、そこに宿るエエルも、ちゃんといたんだ。


荒れ地にエエルを増やせば、人の棲みやすい土地になる。

それは、単に、人にとって都合いいってこと。


もちろん、それは、悪いことじゃない。

そうやって助かる人もたくさんいるんだから。


生き物は自分たちの棲みやすい場所を増やそうとする。

それも、多分、宿命なんだ。


だけど、荒れ地には荒れ地のエエルがいる。

そこにむやみにエエルを送ることは、間違いなのかもしれない。


森には、森のエエル。

街には、街のエエル。

荒れ地には、荒れ地のエエル。

それで、いい。

それが、いい。


しばらくはそのままのんびり世界を眺めていた。

けれど、そのうちに、ところどころ、ぷち、ぷち、と小さなエエルが消滅するのに気付いた。


あれは、なんだろう?


じっと見ていても、なかなかその瞬間を見ることはできない。

あちこち、視線をさ迷わせていると、ときどき、ほんの目の端にそれが映ることもあったけど。

なかなか、はっきりと見ることは難しかった。


それでも、根気よく、見ていたら。

ふいに、ぱちん、と弾けたその瞬間を、目の当たりにした。


だけど、見てしまってから、僕は、それをひどく後悔した。

見なければよかった、と思った。


失われたエエルは、二度と戻る気配はなかった。

それは、ほんの小さな小さな光の粒にすぎなくて、消滅したその穴も、すぐに、周りから埋められてしまったけど。

エエルの失われたその小さな小さな穴が、とてつもなく深い暗闇のように、僕の心の中に残った。


消えたエエルは、二度と、戻らない。

そのことは、もうとっくに知ってたはずなんだけど。

なんだか、今やっと、それを実感した、というか。


それに気付いた途端に、僕の目には、ぷち、ぷち、と消滅するのが、さっきよりもっとたくさん、映るようになった。

多分、消滅している速さも数も、変わったわけじゃないんだろうけど。

僕が、それに気付いた、ってだけなんだろうけど。

気付いた僕は、もう、それを、見ずにいられなくなっただけなんだろうけど。


エエルの消滅は、とにかく、恐ろしかった。

本能的な恐怖、というのは、こういうのをいうんだと思う。

世界が足元から崩れていく。

それを、実際に見て、感じて、知ってしまった。


この世界は、エエルでできている。

人も。獣も。森も。大地も。風も。光も。

たくさんのエエルが集まってできている。

そのエエルが、ほんのほんの小さな粒だけど、消滅していってるんだ。


これが、滅びの正体だった。

この世界そのものを、消し去ってしまう。

エエルの消滅はそこに繋がっていく。

だから、これほどに恐ろしい。


限りなくエエルの生まれ出ずるアマン。

そこから溢れたエエルが、この世界を創った。

この世界を創るモノも、元はアマンと同じなのに。

こちら側では、エエルは、生まれ出ずるより、消滅するほうが多い。


そうして、少しずつこの世界はエエル不足に陥って。

今までも何度も滅びかけたんだ。


そのたびに、どうにかして、なんとか切り抜けてきたわけだけれど。

このエエルの消滅することを止められなければ、また、いずれ、この世界は滅びへとむかうだろう。


大精霊は、約束してくれた。

この世界の守護者となり、未来永劫、世界を護る、って。

精霊は、絶対に嘘を吐かない。

だから、大精霊は、多分、その約束を守ってくれるだろう。

その存在の続く限りは。


だけど、この世界の人たちは、その大精霊の宿る木を伐ってしまった。

だから、彼女は、もはや、ここに留まることはできなくなった。

人になって、留まろうとはしたけれど。

その存在は、今どこにあるのか、分からない。


失われてはいないはずだ。

と、信じたいけど。


だけど、そのことを、愚かしい所業だ、と切り捨てることもできない。

それを招いたのは、僕の失態があったからだし。

なにより、彼らも僕も、同じ世界に生きているのだから。

この世界の存続そのものを守らなければならないのは、誰にとっても変わらないのだから。


僕らがもっとうまくやれば、共に大精霊の存在を守れていれば。

今も、これから先も、未来永劫、この世界の存在は、保てたはずなのに。


大きな悲しみ。無力感。

そういったものに、心が埋め尽くされる。

その途端、僕の周りのエエルたちの光の色が、少し変わった。

どこか暗く、淋しい、頼りない光に。

それから、ぽつり、ぽつり、といくつかの光が、そのまま消滅していった。


はっとした。

しまった、と思った。

焦った。

ほんの少し、絶望した。


そうしたら、また、ぽつりぽつり、消えていった。


いけない。


僕は、両手をもみ絞った。

そうして、ただひたすらに、心を集中した。


大丈夫。大丈夫。

大丈夫。大丈夫。


辺りの光が、わずかに回復する。

僕は、もっともっと、心を込めて、願った…


どうか、どうか、エエルたちが消滅することのない、穏やかな世界でありますように…









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