↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
もう一つの楽園  作者: 村野夜市


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
529/555

529

もう少し休むように、とお使者さんは僕に言って、部屋を出て行こうとした。

そのお使者さんに、僕は追い縋るように言った。


「あの。

 眠ろうとしても、いろいろ気になっちゃって、眠れないから。

 もう少し、話しをしてもらえませんか。」


お使者さんは、ほんの一瞬、迷うように目を動かしたけれど、そんなのは嘘だったみたいににっこりと微笑んでみせた。


「分かりました。

 でも、おからだに障るといけませんから。少しだけですよ?」


分かりました、と僕も頷いた。


お使者さんは、寝台の脇に置いてあった椅子を引き寄せて腰掛けた。

それから、立ちっぱなしのチビ勇者にむかって言った。


「むこうの部屋に予備の椅子があったから。

 君もここにいるなら、それを持ってきてもらえないかな。」


チビ勇者は、うんうん、と何回も頷いてから、つむじ風みたいに大急ぎに椅子を取りに行った。


「あの子はね、誰より、あなたのことを心配してね?」


お使者さんは、チビ勇者の背中を見ながら言った。


「本当に。

 かわいそうなくらい、憔悴してて。

 大丈夫だから、と誰が言っても、一切信用しなくてね。

 あなたの傍から絶対に離れようとしなかった。」


…そうなんだ。


僕は、チビ勇者には、まだあまり気を許していない。

どうしても、嫌い、という気持ちを消し去れないままだ。


チビ勇者をかわいそうだと思う気持ちがないわけじゃないんだ。

だけど、それでも、どうしても、チビ勇者のことを、仲間だ、とか、大切な人だ、とは思えない。


チビ勇者のしたことを、どうしたって、認められない。受け容れられない。

もしかしたら、永遠に、僕は、この気持ちからは逃れられないのかもしれない。


チビ勇者だけが悪いんじゃないとか。

あの状況で、チビ勇者はただ必死に勇者になろうとしていただけだとか。

そんな言葉は、いくらでも思い付くけれど。

それでも、それは全部、僕の身長よりちょっと高いところを、すらすらと素通りするだけで。

僕の中には、まったく入ってこないんだ。

ああ、あんなところを、漂っている、って、見えてはいるけど。

手を伸ばせば、そこにだって、届きそうなんだけど。

僕は、頑なに、手を伸ばすことを拒み続けている。


多分、それは、チビ勇者にも伝わっていて、きっと、チビ勇者を今も傷つけ続けていると思う。

それでも、チビ勇者が僕から離れていこうとしないのは、もしかしたら、それを償いだと思っているからだろうか。


もうずっと、そんな歪な気持ちのまま。

僕はチビ勇者と一緒にいる。


お使者さんは、黙っている僕を、静かに見つめていた。

彼は、いつも、何もかも分かっている人の目をしている。

僕はだから、ズルをして、正直な気持ちは打ち明けなかった。

多分、それを言ってしまうには、自分の弱さだとか、狡さだとかを、さらけ出さないといけなくなるから。

お使者さんは、本当に何もかも分かっているのか、それとも、単に元からそういう顔をしているのかは分からないけど。

僕は勝手に、言わなくても分かってくれているだろう、ということにしておいた。


「…ここは、どこですか?」


少し考えてから、僕はそう尋ねた。

話しを変えるきっかけに、当たり障りのないことを言おうとしたんだ。


お使者さんは、すぐに答えてくれた。


「わたしの故郷の郷です。

 ここに帰る魔法通路なら、わたしにも開けるので。」


お使者さんは、いわゆる第四の民、だ。

第四の民は、みんな、何かの魔法の力を持っている。


お使者さんは、そのまま、僕が尋ねる前に、僕の尋ねたかったことを話してくれた。


「ルクス王には、無事帰還したことを報告してあります。

 ルクス王も、よくやった、と、言ってくださいました。

 ただ、魔法の消耗で、あなたが眠っているとも伝えましたから。

 あなたが目を覚ましたら、会いにこられるとおっしゃいました。

 さきほど、あなたのお目覚めも伝えましたから、じきに会いにこられるでしょう。」


「ルクスのいるところは、ここから遠いんですか?」


「ええ、多少は。

 ただ、魔法通路もありますから。

 移動に問題はないと思いますよ。」


第四の民は、郷と郷の間に、魔法通路を開く力がある。

その通路の行き来は、だいたいどこも、一日くらいだ。

なら、ルクスには、明日か、明後日くらいには会えるかもしれない。

そのころには僕のほうももう少し回復するだろうし。

なんなら、こっちから会いに行ってもいいかな。

なにせ、ルクスは、とにかく忙しいだろうから。


「僕は、どうやってここに連れてきてもらったのでしょうか。」


本当に尋ねたいのは、それではなかったけれど。

なかなか核心を口に出せなくて、僕は、回りくどい尋ね方をした。


「わたしたちみんなで運びました。

 というより、ほとんど、あの子が、あなたを抱えて戻りました。」


「チビ勇者が?

 あんなに小さいのに?」


「大人たちが、手を貸そうとしたのですけれどね。

 頑なにそれを拒んで。

 もっとも、飛行円盤もありましたから。

 それほど、無茶なことでもありません。

 だから、わたしたちも、あの子の気の済むようにさせていました。」


そっか。

やっぱり、じゃあ、次に顔を見たときには、お礼くらい、言わないといけないな。


「あの王との、交渉は?」


そう尋ねると、お使者さんは、初めて僕からちょっと目をそらせた。

それから、深々と頭を下げた。


「申し訳ありません。

 わたしの力不足です。」


「交渉は、うまくいかなかった?」


少し考えれば分かることなのに、僕はわざわざ確認した。

すると、お使者さんは、視線を落としたまま言った。


「大変、申し訳ありません。」


「あの。僕に謝る必要はありません。

 というか。

 うまくいかなかったのは、僕のせいでしょう?」


僕はため息を吐いた。


「僕は、あの場で、何をしてしまったんだろう。」


よく覚えてない。

それは正直なところ。

だけど、なにか自分が大きな間違いを犯したような。

そんな気がしてならない。


お使者さんは、言い難そうに、次の言葉を呑んだ。

それが、僕の推測が当たっているという答えにもなっていた。


お使者さんは、少し考えてから、改めて言った。


「申し遅れました、大変失礼をいたしました。

 わたしは、まず、あなたにお礼を言うべきでした。

 あの場所からわたしたちを救出してくださり、本当に有難うございます。」


「あの。

 いや。

 それじゃなくて。」


お使者さんは、僕の言葉を遮るように言った。


「ルクス王の望んでおられたことは、親衛隊隊長とわたしの、消息の確認だった、と聞いております。

 あなた方は、それを果たし、その上、わたしたちの救出まで、成し遂げられました。

 立派に使命を果たされました。」


人の言葉を遮るなんて、そんな無作法なこと、お使者さんが理由もなしにやるはずがない。

だけど、お使者さんはあえてそれをやった。

僕はちょっとびっくりして、そのまましばらく、黙っていた。













評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。