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ばんっ、と大きな音がして、扉が開いた。
騒いだら、王は目を覚まして、魔法装置を使うだろう。
だけど、それは、こっちの狙いでもあった。
まずは、魔法装置の無力化。
それさえ果たしてしまえれば、あとは、なんとかなるだろう。
僕は、もうさっきからうずうずして仕方なかった力を解放した。
一気にじゃない。
少しずつ、少しずつ。
いっぺんにやってしまいたいのを、ぐっとこらえて小出しにする。
それはなかなか、苦しい作業でもあるんだけど。
なんだろうなあ。
そうやって堪えていると、ふつふつと胸の奥から、わくわくが湧き上がってくるんだ。
まだ。
まだ。
もう少し。
まるで、仕掛けた悪戯に誰かが引っかかるのを待っている悪戯小僧のような気持ち。
笑い出しそうで。叫び出しそうで。
気を抜いた瞬間に、それ全部、巻き起こるんだろうけど。
それでも、すでに部屋の前で堪えていた力は、ひゅう、と風を吹かせた。
目の前のみんなの動きは、どこか作り物の景色を見ているようだった。
見えているし聞こえているけれど、その中に自分はいない、みたいな。
僕はただ、わくわくしつつ、それを眺めている観客のようだった。
お使者さんが、最初に走っていって、窓を開けた。
通り路を見つけた風が、喜んでそっちへむかって吹いていく。
その勢いに引っ張られて、多めのエエルが流れ込む。
余ったエエルは、部屋の中に、くるっと渦を描いた。
王は、ランプを手に掲げていた。
その先端から、吹き出しかけていた煙が、風の渦に巻き込まれて、霧消する。
やった、大成功!
嬉しくなってしまったら、また、どばっと、エエルがふきだした。
焦った王の顔。
それはすぐに、老戦士の背中に隠れてしまった。
なんだ、もうちょっと見たかったな、なんて、意地悪な気持ちが頭をもたげる。
これって、僕の?それとも、精霊の?
だって、面白いじゃない。
みんなを困らせて、悲しませて、辛い思いをさせた人が、困った顔するなんて、面白い。
う。
だめだよ。そんなの。
どうしちゃったの、僕。
どんなに悪い人だって、困ってる顔を楽しむなんて、そんなことは、しちゃいけないんだ。
いけない、って思うのに。
あっははははは!
僕は、とうとう、笑い出してしまった。
笑いとともに、エエルがまた溢れて、部屋の中のものまで巻き上げる。
クッションや毛布、いろんな物が、くるくると、舞い踊る。
ああ、面白い。
老戦士は重たいから、強い風が吹いたってへっちゃら。
王は、風に負けないように、おたおたと、そのあたりの物に捕まろうとしたけど。
その王の肩を抑えつけて、飛ばされないように捕まえてあげた。
それは、どう見ても、助けてあげてる、って感じだった。
やっぱり、いい人だ、隊長さんは。
王は、必死になって、手のランプを抱え込もうとするけど。
風は、面白がって、その手からランプを奪おうと挑みかかる。
その風の上を駆けるようにして、チビ勇者は、とうとう王の手からランプを奪い取った。
形成逆転。
よし。よくやった。
あっははははは!
だめだ、止まらない。
王は風の中、ランプを取り返そうと、両手を上げて振り回している。
その様子は、まるで、奇妙な踊りを踊っているみたい。
あっははははは!
なんて、面白いんだ。
踊れ踊れ、もっと踊れ。
疲れ果てて倒れるまで、踊り続ければいい。
お前のせいで、たくさんの人が、悲しい思いをしたんだ。
お前は、みんなに許されるまで、踊って踊って踊り続けろ。
あっははははは!
なんだか、自分の内側に、黒い煙みたいなのが、渦を巻き始める。
いけない、まずい、という警告が、ほんの一瞬、鳴り響いて、だけど、それはすぐに、脇に追いやられて、小さく小さくなって…それから、消えてしまった。
あっははははは!
僕は、笑っている僕を、どこか呆然と眺めていた。
いったい、どうしちゃったんだろう。
だけど、もう、僕は、あの僕を止められないんだ。
初めて見た王は、痩せて、小さくて、どこもかしこも尖ってた。
思ったほど、立派そうに見えない。
道で行違っても、きっと、気にも留めないだろう。
どってことない、そう、どってことない人だった。
風は、わざと王を弄ぶように、踊りを続けさせていた。
王は息を切らせていたけれど。
踊りをやめることはできなかった。
あっははははは!
なにその、不格好な踊りは。
そんなもので、みんなの気は晴れないよ。
ほらほらほら。
もっと上手に踊れるように、手伝ってあげよう。
僕が手を振り上げると、風は、王の周りだけに集中して吹いた。
仲間たちが、びっくりした目をして、僕を見ている。
なにか、言ってるみたいだけど、その声は、僕の耳には入ってこない。
あっははははは!
だって、楽しい。
お使者さんと、チビ勇者が、僕のほうに駆けてくると、両方から、僕のからだを捕まえようとした。
イヤだ。
捕まるもんか。
軽く手を振ると、ふたりとも、風に巻かれて、押し戻される。
もう少しくらいいいじゃない。
邪魔しないで、見ていてよ。
チビ勇者が、大きく目を見開いて、僕を見ている。
いや、あれは、僕じゃない。
僕の後ろの何か…
と、思った瞬間。
ふわり、と優しい光に包まれて。
僕は、そのまま、気を失った。




