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王が居室に使っていたのは、昔、研究院にいたころ、僕が暮らしていた部屋だった。
あんまり物がなかったから、破壊もそれほどされてなくて、だから、すぐに暮らせるそこそこきれいな部屋だった、んだろう。
勝手使ってほしくないな~、とか思ったけど。
そもそも、ここは、僕の物、ってわけじゃないし。
まあ、仕方ない。
隣のアルテミシアの部屋のほうは、ひどく打ち壊されていたから。
そっちは、使っていないようだった。
なんとなく、だけど。
アルテミシアの部屋を使われなくてよかった、とか思ってしまった。
部屋の戸は閉めてあったけど。
青い鳥さんたちの通信網は、部屋の中の熱源の動きから、王の動きも推測していた。
「オウハ、イマ、ネイスニ、ネテイマス。
コキュウノ、フカサト、ハヤサカラ、スイソクスレバ、オソラク、ネムッテイマス。」
ソファーに寝転がって、お昼寝中ってわけ?
そんなに暇なら、とっとと、チビ勇者なり僕なりに会ってくれりゃあいいのに。
って、そうか。
そもそも、王は、僕らに会うつもりなんか、ないんだ。
「魔法装置の位置は?
分からない?」
「チチチチチ…
オウノ、テモトニ、キョダイナ、エエルノ、カタマリヲ、カンチシマシタ。
オソラクハ、ソレガ、クダンノ、マホウソウチカト。」
いっちゃん、件の、なんて言葉も使うんだ。
僕らは、頭を寄せて、ひそひそと相談した。
「寝るときも、しっかり手に握っている、というわけですね?」
「なにかあったら、すぐにその大男を喚び出せるようにだろう。」
「なんとか、起こさないで、中に入れないかな。」
「ねえ?
そんなの多分、無理だよ。
もう、引き返さない?」
ひとり、やる気のない僕は、あとの三人から、ちらちらと冷たい目をむけられた。
「まあまあ。もう少し、やってみましょう。」
「大賢者様は、わたしたちの後ろに隠れていてください。」
「大丈夫だよ?君を危険な目には合わせない。」
いや、そんな心配、してるわけじゃないんだよ?
「その、煙の大男?
隊長さんですら、敵わなかった、んだよね?」
そんなにさあ、眠ってるときにも、手元において、いつでもこーい、って、待機してるわけでしょう?
僕らが部屋の中に入って、王の元へ行くより先に、どうしたって、その大男、出てきちゃうんじゃない?
僕ら四人のなかで、腕に覚えがありそうなのは、老戦士とチビ勇者のふたりきり。
あとのふたりは、相手が聞く耳持たなければ、そもそも、役に立てない。
チビ勇者は、まあ、一般的には、そこそこ強いんだろうけども。
多分、きっと、老戦士には及ばない。
それに、チビ勇者の本当に得意な武器は、剣だ。
だけど、今は、チビ勇者は、弓しか持ってない。
そして、狭い部屋の中じゃ、弓は、圧倒的に不利だ。
その老戦士も、前のときには、抗う暇もなくひとひねり、だったんだよね。
つまりは、やっぱり、僕には、どう考えても、皆目、どうにかなる、なんて思えない、ってだけ。
だけど、みんなの冷たい視線は悲しいから、なんとか、役に立ちそうなこと、ひねりだして言ってみた。
「せめて、その、大男の魔法装置、のこと、もう少し分からないかな?」
「それならお任せだよ?」
軽妙に割り込んできたのは、お久しぶりのきゅうちゃんだった。
「魔法装置の製造番号は、999の666。
本来は、所長の護衛のために開発された、エエルの魔人です。
しかし、制御が難しく、人に危害を加えることに躊躇がないため、封印されることになりました。」
なにそれ。
魔法装置、ってのは、基本的に、人には危害を加えない、ってことを前提に作られている。
人に危害を加えることに躊躇しない、ってのは、そりゃあもう、最大級の欠陥だよ。
そんな危ないもの、封印じゃなくて、処分しといてくれたらよかったのに。
「制御系さえ、補強できれば、一騎当千の護衛役、となれましょう。
惜しい逸材なのです。」
逸材って…
そんな希望的観測に縋って、破棄しなかったのは、痛恨だと思うよ。
「護衛役、となれば、ときには、襲い掛かってきた敵と戦う必要もあるでしょうからね。」
「手加減さえすれば、いいんじゃないかな。」
「襲ってきたものを、戦わずに無力化するのは、不可能に近いでしょうな。」
なんかみんなして、その剣呑な魔法装置を正当化してるけど。
「その魔法装置のせいで、僕ら、困ってるんだって。」
そう、つまりは、味方にしたらすごく頼りになるけど、敵になったら厄介。
話し合おうにも、使用者は聞く耳もたず。
そして、魔法装置は、自分で善悪の判断はなく、使用者の言う通りに動く。
その魔法装置には、罪はないさ。確かに。
だけど、それを持ってて使ってる人が、問題なんだよ。
「起こさないように、静かに近づいて、そっとそのランプを取り上げる、とかできませんかね?」
「流石にそれは、難しいんじゃ…」
「魔法装置を、弓で狙い撃つのは?」
「視線の通るところに出るまでに、起きないという保証がない。」
「起きたら、確実に、出します、よね?」
「まあ、そのために、かかえて寝てるのでしょうから。」
いや、これ、僕は一言も言ってないよ。
つまりは、そのくらい難しい、って、僕以外だって思ってるんじゃないか。
「やはり、その魔人と戦うしかないか。」
戦って勝てる気がしないから、諦めよう、って言ってるんだけど。
「その魔人の弱点は?
なにかの属性に弱い、とか、ないの?」
何気なく、きゅうちゃんに尋ねてみたんだ。
ほら、煙なんだし。
煙って、風には弱い、とかない?
「僕、風なら、喚べる、かも。」
「それだ。」
「それじゃ。」
「それだよ。」
「それですね。」
「それがあるじゃない。」
「ソレガサイゼンノホウホウデス。」
………。
この場にいた、言葉の話せる人と鳥、一斉に、同じことを言った。
「なんだ、いい策があるじゃないですか。」
「流石、大賢者様。」
「それなら、いけるよ!」
さっきまで冷え切っていた仲間の目が、あったかいを通り越して、暑苦しい。
いやでもさあ、それって、僕、責任重大じゃない?
そういう役目はさあ、なるべくなら、お引き受けしたくない、というか…
自信もないし…
そんな期待した目をむけられても…
「なら、いっそ、こちらから挑発して、さっさと出していただくか。」
い、いやいやいや、待って待って待って。
そんなの本当に効くかどうかも分からないのに、危険だ、って。
年を取ると、人って慎重になる、とかどこかで聞いた気がするんだけど。
少なくとも、この中じゃ、一番のお年寄りが、一番、剣呑だ。
…って、あ。
もしかして、一番のお年寄り、って、僕だっけ?




