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もう一つの楽園  作者: 村野夜市


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王の持ってる魔法装置を奪う。

そのことは、いっちゃんときゅうちゃんを通じて、お使者さんにも伝えた。

そしたら、まあ、あろうことか。

お使者さんまで、一緒に行くと言い出した。


い、いやいやいや。

お使者さんは、老戦士よりもっと長い間、閉じ込められていたわけだし。

その間、ずっと、半分気を失ったような状態だったわけだし。

さっきだって、普通に歩くのすら辛そうな様子だったのに。


「いや。あの。その。

 病み上がりなんだから、無理しないほうが、いいんじゃないかな?」


いっちゃんを通じてそう伝えてもらったんだけど。


「この不思議な光を浴びている間に、みるみる力が回復してきたのです。

 今はもう、気力も体力もじゅうぶん。

 いっそ、郷を出発したときより、充実していると感じています。」


それ、気が高ぶってる、だけなんじゃなくて?


そしたら、得意気にいっちゃんが解説してくれた。


「以前、研究院がまだ稼働していたころ、所長の判断により、研究院中の照明に、癒しの光がときどき混ぜられていました。

 それにより、寸暇を惜しみ研究に励む所員の、心とからだの回復を計ったのです。

 その効果のほどは、実証実験の記録に残っています。」


ええっ?

アルテミシアってば、そんなことやらせてたの?


確かに、アルテミシアも、いつ寝てるんだ、ってくらい、働いてたけどもさ。

それは、すごーく、からだに悪そうだ。


癒しの光は、確かに、即効性はあるんだけど。

そればっか続けてると、だんだん効かなくなってくるし。

やっぱり、人のからだって、休むときはちゃんと休まないとダメなんだよ。


逃げるのに、少しでも体力回復しておいたら、って、癒しの光を使ってもらったけど。

しまった。

余計なことをした。


「わたしはまだ、使者としての使命を全うしておりません。

 王はまったく聞き耳持たず、わたしを監禁し、放置しました。

 しかし、その魔法装置さえ奪ってしまえば、王は、きっとわたしの話しに耳を貸すでしょう。

 ならば、これは、わたしの果たすべき使命でもあります。」


きゅうちゃんといっちゃんの通信を使って、お使者さんは、そう訴えてきた。


もう、お使者さんといい、老戦士といい。

なんだって、みんな、そんなに、使命感?ってのに燃えてるの?


なんてこったい。


子どもと、ふたりの病み上がりと、へろへろ魔法使い。

この四人で、いったいなにをやろうっていうんだ。


まあね。

子どもといっても、ただの子どもじゃなくて、チビとはいえ、一応、勇者だし。

病み上がりのふたりも、片や筋骨隆々の老戦士、片や交渉事はお任せのお使者さん。

僕以外の三人は、まずまず、有能そうな人たちだけどもさ。


「大丈夫。

 わたしたちもいます。」


そうだった。

総勢百羽の青い鳥もいるんだ。


敵は、おおむね、王と、その魔法装置の大男だけ。


これは、なんとかなる状況?

いやいやいや。

やっぱり、なんともなるとは思えないんだけども。


「ヨンキノ、ヒコウエンバンノ、シュウリモ、カンリョウ、シマシタ。

 トチュウ、オシシャサンヲ、カイシュウシ、コノバショニ、シュウゴウイタシマス。」


は?

今、なんて、言った?


同時に通信やら検索やらしていると、いっちゃんの言葉が聞き取りにくくなる。

そして、それを考えている間に、だいたい、事態は勝手に進んでしまう。


「お使者さんには、九十九号機が共におります。

 問題なく、ここに合流する確率、99、9999999…」


「ああ、はいはい。

 もうじき、無事に合流できる、って言いたいのね?」


分かったよ。


その言葉の通り、お使者さんは、間もなく合流した。


ついでに、次々と飛行円盤も、ここにやってくる。

青い鳥たちは、あれやこれやと、研究院の設備を動かして、せっせとこれを修理しておいてくれたらしい。


「ほう。

 飛行円盤とは、懐かしい。

 いろいろなところで、役に立ってくれましたが。

 自分が乗るのは、初めてです。」


老戦士は、早速、嬉しそうに、円盤に乗った。

そして、すぐに見事に乗りこなしてしまった。


「飛行円盤。

 母から、聞いたことがあります。

 研究院の廊下は、円盤に乗った人たちが忙しく行き交っていた、と。

 それに、この円盤は、王都がアニマの森に覆われたときにも、民を救う役に立ったのですよね?」


お使者さんは、なんだか、昔話みたいに、語る。

いや、お使者さんにとっては、それも、お母さんから聞いた昔話なのか。


「うふ、うふ、うふ、ひゃっほう!」


チビ勇者は、最初は恐る恐る、そのうちに、すっかり大胆になって、宙返りなんかしてから、嬉しそうに、歓声をあげた。

そして、周りから一斉に叱られる。


「こら!しーっ、しーっ、しーっ!」


チビ勇者も慌てたみたいに、自分の口を両手で抑えたけど。

それでも、嬉しさは、その手の隙間から零れ落ちていた。

しっかりしているようでも、やっぱり、こういうところ、まだ、子どもなんだ。


「イマノコエガ、テキニ、カンチサレタ、カクリツハ、1パーセント。」


いっちゃんが律儀に報告してくれた。


僕も、前に、ラブリーフライングソーサーちゃん、に少し乗ったこともあったけどさ。

やっぱり、苦手だ。この動く円盤。

立ってなんて乗られない。

なんとか、上に腰掛けるのがやっと。


お使者さんも、僕と同じく、上に腰掛けて乗った。

いや、本当は、立ってたって乗れるのかもだけど。

僕に気を遣ってくれたのかな。


飛行円盤は、青い鳥たちによって、操作されるらしい。

僕らはただ乗ってるだけで、危険も回避されるし、道を知らなくても大丈夫。

なんなら、歩いているより、ずっと楽。


敵地に侵入しているのに、こんなに楽でいいのかなとか思ったりもするけど。

辛いよりは、いいか。


こうして僕らは、こっそりかつ迅速に、王のいる場所へとむかっていった。






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