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もう一つの楽園  作者: 村野夜市


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青い鳥たちのことを聞いた老戦士は、しきりと感心していた。


「流石、研究院のみなさんだ。

 先々のことも、よく考えておられたのですね?」


まあ、そうだねえ。


あの人たちの考えてたことって、いまだに分からないところも多いけど。


ドワーフ工房の人たちは、作業に行き詰ると、よく、ドミノを並べていた。

ただ、並べるんじゃない。

途中にいろんな仕掛けを作り、思ってもみない作用をして、先へ進む。

誰かがそれをやり始めると、次々と周りも参加してきて、いつの間にか、部屋中使って壮大な作品を作り上げることにもなった。


ひとつでもずれていたら、うまくいかない。

うっかり倒してしまったら、そこまでの努力もむなしくなる。

ドミノを並べる作業って、ものすごく神経使うし、それやりだすと、他のことは全部お留守になるのに。

何故か、みんな、それをやるんだ。


結局最後は全部壊してしまうのに。


「この最初の小さな動きのひとつが、次の動きを導いて、やがて、大きな力になる。」


匠はよくそう言ってたっけ。


「ドミノはもう、並べられている。

 俺たちは、この最初の動きを見つけるだけ。

 もしくは、どこか、流れのおかしいところを見つけ出し、その先に動きが伝わるようにするんだ。」


なんのことか、分かるような、分からないような、けど、それは、なにか、大切なことのように思った。


もしかしたら、青い鳥も、そのドミノの仕掛け、なのかもしれない。

最終目的は、いったいなんなのか、分からないけど。


「さて。

 こうしてはいられない。

 わたしには、大切な使命があるんです。」


老戦士は、そう言って立ち上った。


「助けていただき、有難うございました。

 わたしはこれから、行方を断った使者を探しに行こうと思います。」


「あ。

 その人なら、ここに来る前に、助けてきたから。」


「なんと!」


老戦士は、そう言って、僕の肩をがしっと掴んだ。

すごい力だ。ちょっと痛い。


「流石は大賢者様。

 なんと見事なお働き。」


「あ。っと…

 働いてくれたのは、ほとんど鳥さんたちなんだけど。」


まあ、僕も、その鳥さんたちの封印を解いて回ったりしたっけ。

けど、それも、鳥さんたちに指示されるまま動いてたら、案外、簡単なことだったんだよね。


「まったく、面目ありません。

 ルクス王の信頼を受けて、救出にまいりましたのに。」


老戦士は力なく項垂れた。


「ルクス王は、隊を作り、複数で行くように、とおっしゃったのに。

 わたしが、ひとりで行くと申したのです。

 その方が、隠密行動はやりやすい、と。

 自らをの力を過信し、思い上がっておりました。

 つまらぬ見栄を張り、結局は、使命を果たすこともかなわず…」


しょんぼりしてても、筋肉の盛り上がったその肩は、全然、落ちてない。

僕はちょっと感心した。

二の腕に、腹筋、背筋。

見事に立派な筋肉だ。

昔から、腕の立つ人だったけど。

今の姿は、なんというか、もう、武人?

武の道を究めた、老師、って感じ。


「それにしても、そんなに強そうなのに。

 あのやる気のない人たちに捕まったなんて、ちょっと意外だなあ…」


思わず、正直な気持ちが口から零れてしまった。

しまった。

これって、ちょっと、失礼だったかも。


老戦士は、うつむいたまま、いやいや、と首を振った。


「あの兵士どもなら、たとえ束になってかかってこようと、問題ありません。

 しかし、王の持つあの魔法装置には、わたしも成す術もなく、捕らえられ、ここに閉じ込められてしまいました。」


魔法装置?


「ここの王って、魔法、嫌いだったんじゃ?」


魔法装置なんか、使うの?


「魔法を使う者たちのことは、嫌っておりますが。

 自ら使うのは、構わないようです。」


「なんだか、ずいぶん都合のいい信条だ。」


魔法嫌いなんだから、そこは、徹頭徹尾、魔法には関わりません、って徹底するもんじゃないの?


まあ、そうは言っても、魔法って、便利だしねえ。

仕方ないか。


「その魔法装置、って、どんなものなの?」


「よくは分かりません。

 しかし、なにやら、こう、王がランプのようなものをこすると、そこから煙のように、大きな男が現れて…」


煙のような大男?


「それはもう、見上げるほどに大きな男でした。

 わたしなど、ひとたまりもなく、その大男に拘束され。

 ここに閉じ込められてしまいました。」


そんな魔法装置、あったんだ…


いったい誰だ、そんなもの、作ったのは。


この研究院には、いろんな魔法が収められている。

実際の役に立つとか、立たないとか、関係なく、みんな、興味の赴くままに、研究をしていたから。

これ、何に使うんだ、って物も、たくさんあるんだ。

そういうのの中でも、ちょっとこれは危険かな、って物は、厳重に封印されてたはずなんだけど。

王は、そんな封印のひとつを、開けてしまったのかもしれない。


「とにかく、この魔法装置さえあれば、護衛の兵など必要ない。

 王はそう言って高笑いをしておりました。」


それはそれは。

兵士さんたちが、やる気なくすのも、なんとなく、分かるなあ。


「その魔法装置を、なんとかすればいいんですね?」


ずっと隣で大人しく話を聞いていたチビ勇者が言った。


え?何とか?って、何するの?


「その、ランプ、を、隙をみて盗み出すか。」


い、いやいやいや。

また君は、いったいなにを、言い出すんだ。


「そんなの、危険だよ。

 だいたい、もうみんな無事に救出できたんだから、あとは逃げだすだけでしょ。」


研究院の外に行けば、僕も魔法通路を開ける。

いっちゃんたちは、飛行円盤も用意してくれてることだし。

あとは、その通路を通って、帰るだけ。


そもそも最初は、捕まった仲間の無事を確認しよう、くらいに思って来たんだ。

助け出せれば、御の字。もう、じゅうぶんだよ。

この上なにか、なんて、欲張りすぎだってば。


「どうして?

 敵の弱点が分かっているのに。

 そこを先に突いておけば、みな、助かりますよ?」


チビ勇者は不思議そうな顔をした。

いや、僕は、そんな君のほうが、不思議だって。


「弱点じゃないでしょ?

 その魔法装置には、隊長さんだって、歯が立たなかったんだよ?」


「それは、たったひとりきりだったし、いきなりだったからでしょう?

 僕ら全員が協力し、策を練って行けば、大丈夫ですよ。」


「確かに。

 あれさえ無効化しておけば、ここの連中など、無力も同然。

 攻めてくる軍勢の裏をかき、総大将の王を捕らえれば、戦わずして、戦を終わらせられる。」


ええっ。

老戦士もやる気になっちゃったよ?


「い、いやいやいや。

 それに、隊長さんだって、ずっと閉じ込められてて、疲れてるじゃないか。

 今は、帰って、いったん休んで…」


その作戦用の人たちと、もう一度来たらいいよ…


「なに。ご心配はご無用。

 わたしなら、このように、元気百倍じゃ。」


老戦士は、むきっ、と大きな力コブを作ってみせた。

う。そうだった…

この人、やる気満々なんだ…


「大賢者様と、この頼もしいチビっこもおる。

 ここは老体に鞭打って、もう一働きいたしましょう。

 どうか、この老人が失態を取り戻すのに、力を貸してくだされ。」


ううっ。

そんなふうに頼まれたら、断りにくいじゃないか。


「わたしたちも、います!」


青い鳥も、横から余計なことを言った。







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