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思ったより、年を取っている。
振り返った戦士を見て、最初に思ったのはそれだった。
いや、年を取っているからこそ、百戦錬磨なんだ。
古強者、って言葉もあるじゃないか。
戦士が振り返ると同時に、その腕に捕らえられているチビ勇者が見えた。
それを見て、僕の気持ちはもう一度奮い立った。
「その子を、離せ!」
僕は再び、叫んだ。
こっちを振り返った戦士は、目をぱちぱちと、二三回、瞬いた。
それから、慌てたみたいに、両腕をぱっと離した。
チビ勇者のからだは、支えを失って、ずるりとその足元に崩れ落ちた。
僕は、恐怖も忘れて、チビ勇者のところへ駆け寄った。
「しっかりして!」
即座に、全力を開放し、チビ勇者に治癒術をかける。
チビ勇者の閉じた睫毛が、ふるふると震えた。
よかった。
まだ、生きている。
後からよくよく考えると、僕の行動は、無謀以外の何ものでもなかったんだけど。
有難いことに、僕は無事だった。
「………大賢者、様………」
かすれた声がそう呟くのが聞こえた。
いったい、僕をそう呼ぶのは、誰?
顔をあげた僕の前に、ひざまずいたのは、老戦士だった。
「ご無沙汰、しております。」
は、い?
「あの。
どこかで、会ったこと、ありましたっけ…?」
尋ねかけた僕は、はっと、思い当たった。
ずいぶん、年を取って、おまけに、筋骨隆々になってて、分からなかったけど。
「…隊長、さん?」
老戦士の横顔に、ちらり、と、ルクスの親衛隊の隊長だった人の面影があるような気がした。
「そうです。大賢者様。」
隊長さんは、そう叫ぶなり、僕の顔を見上げて、はらはらと涙を零した。
「まさか、大賢者様が直々に、お迎えにきてくださるとは…」
老戦士は、顔をそらせると、くっ、と感無量って感じに唸った。
「それなのに、わたしはなんということを…
なんたる、失態。」
いえ、まあ、あの状況じゃ、仕方ないと思います。
だけど。
なんだ、それなら、やっぱり僕が先に入ればよかったんだ。
それなら、隊長さんだって、味方だってすぐに分かっただろうに。
「いえ。さっきも、大賢者様のお声が聞こえたような気がしたのです。
しかし、このような場所に、まさか本当にいらっしゃるとも思えず…
きっと、長い時間閉じ込められて、わたしの頭がおかしくなり、願望が幻を見せたのだと思っておりました。」
「ごめん。
僕がもっとちゃんと勇気を出して、自分で入ればよかったんだ。」
けれど、老戦士は首を振った。
「いいえ。
さっきのわたしの状況なら、たとえ、大賢者様の御姿を拝見したとしても、きっとこれは、自分の願望が見せている幻だと考えたことでしょう。」
それじゃあ、たとえ僕だったとしても、やっぱり、襲われてたってこと?
「それに、大賢者様自ら、危険な場所に足を踏み入れるというのは、上策とは言えません。
そこのチビすけの判断は、最上だったと思います。
おい。チビすけ。お前、なかなか見込みのあるやつだ。」
まあ、そりゃあ、一応、勇者だもんね。この子。
老戦士は、ぼんやり目を開いたチビ勇者の頭をぐりぐりと撫でた。
「こやつはなかなか、用心深く、すばしっこく、うまく捕らえるタイミングを見計うのも、至難の技でした。
しかし、そこはこの老獪な年寄りの経験が、少しばかり上手でした。」
チビ勇者は、はっと目を開くと、慌てて体を起こして、老戦士にむかって、丁寧に手をついた。
「あのときは、瞬く間もなく、気がつくと、手足の自由を奪われ、声も出せなくなっていました。
なのに、僕のからだには、ひとつも傷はついていない。
これほどの技をお持ちとは、さぞかし、名のある勇者様でございましょう。」
「いえいえ。
わたしは一介の老兵卒に過ぎませんよ。」
老戦士は手を振って笑ってから、そういえば、と言った。
「そなた、奇妙な鳥を連れておったかと思うたが。
あれは、どこへ行ったかのう?」
「あ!あ!あ!
そういや、いっちゃんは、どうしたの?
いっちゃん?」
僕は大声で呼んだ。
襲われて驚いて、どこかに隠れてるのかな。
それにしても、チビ勇者の危機だ、ってのに、いっちゃんは、それを伝えなかったってわけ?
「はいはいはい。
お呼びですか?」
いっちゃんは、今頃になって、姿を現した。
「ちょっと。君、肝心なときに、何、消えてるんだよ?」
僕は思わず文句を言った。
「予期せぬ襲撃を受けたときには、自己と本体を防衛するため、携帯端末はすべての機能を停止することになっています。」
いっちゃんは、決まり文句のように、しれっと答える。
「なんだ。役に立たない。」
「そう、おっしゃられましても…
研究院の所長代理の機能を、ならず者にのっとられるわけにはまいりません。
そのほうが、よほど、大きな危難を招きます。」
確かに、それもそうかもだけど。
ならず者?
本人を前にして、その言い方は、ちょっと…
けれど、老戦士は、小さな鳥の言ったことは、気にしていなかった。
「ほう。
人の言葉を話すとは、ようできておる。
これも、研究院の魔法装置ですか?」
「あ。うん。
所長代理装置、って、名乗ってるけど…」
僕は、いっちゃんたちのことを、簡単に、説明した。




