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もう一つの楽園  作者: 村野夜市


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もうひとつの部屋に辿り着くには、またぐるっと大回りしたけど、それでも、いっちゃんと一緒なら、迷うこともないし、危険な目に遭うこともない。

ただ、歩けばいいだけだから、簡単だった。


ところが。

扉を開けようとしたところで、いっちゃんは、急に止まった。


「チチチチチ。

 キョウレツナ、テキイヲ、カンチシマシタ。」


はい?

きょうれつなてきい…、強烈な敵意?


「コノママ、カイジョウスルノハ、キケンナノデ、イッタンタイキシマス。」


そっか。

鍵が開いた途端に、いきなり襲い掛かられるかもしれないんだ。


うん。分かった。


とはいえ。

このままここで足止めってのも、困るなあ。


「いや、あの、僕は、敵じゃない、って、伝えられないかな。」


恐る恐る、戸をたたいてみる。

扉を開けずに声をかけたけど、返事はない。


「イヤシノヒカリデ、ゲンキヒャクバイ、タタカウキマンマンニナッタヨウデス。」


いやあの。

それは、困った。

いや、困るのか?

困るよなあ…


長い間閉じ込められてた仲間を癒すのは当然のこと。

だけど、このままじゃ、助けられない。


「いっちゃんだけ中に入るとか、できないの?」


いっちゃんなら、幻なんだし、襲われても怪我はしないよね?


「保管庫の扉には、封印の魔法が施されています。

 本体のない状態で中に入ることはできません。」


なんたって、そんな封印、かけておくんだ!

って、そのくらいヤバいものが、保管されてるからか。


いっちゃんには自分の本体を運ぶ力はない。

だけど、僕が本体を持って入ったら…


「チチチチチ…

 オソワレルカクリツハ、60パーセント…」


そんな計算してくれなくていいけど。

というか、半分より多いのか。


………困った。


そうだ!


「一回戻ってさ、さっきのお使者さんを連れてきたら、どうだろう?

 彼なら、襲われたりしないんじゃ?」


彼のほうも、癒しの光で多少は元気になってるだろう。

弱ってるのにたくさん歩かせるのは申し訳ないけど。

ここは協力してもらえないかな。


「チチチチチ…

 オシシャサン、ノ、オソワレルカクリツハ、50パーセント、デス。」


「ええーっ、なんで?」


それでも、半分の確率で襲われるの?


「カレラノアイダニハ、メンシキガ、アリマセン。」


つまり、扉のこっちから声をかけたって、罠かと思われて無視される。

開けて入ったら、いきなり襲われる、ってことか。


「キュウシュウハ、センテヒッショウ。

 イッタンニゲテ、タイセイヲタテナオス、モシクハ、ホンタイヘホウコク。

 ソレガ、ジョウドウデス。」


常道とか言われても。

それに今、困ってるんだけど。


「イチゲキメヲ、コラエラレレバ、コチラニキヅクカクリツハ、90パーセント…」


その一撃目、を、僕には堪える自信がない。


ステルステント(仮)でいくか?

だけど、何も見えないところから声が聞こえたら、その声の元に襲い掛かるだろうし…

むしろ、姿は見せといたほうが、敵でないことは伝わるよねえ…


「なんか、ちょうどいい、防御の魔法、とかない?」


あの転送の魔法みたいにさあ。

言われたとおりにやってみたら、僕にも、できるんじゃない?


「チチチチチ…

 ケンサクチュウ…ケンサクチュウ…ケンサクチュウ…

 イマココデ、アナタニ、マスターカノウナ、マホウハ、アリマセン。」


きっぱり言い切られた。


「マホウニハ、テキセイトイウモノガアリ…」


いや。

言い訳しなくてもいいけど。


分かったよ。

要するに、むいてないから、無理、なんだよね。


「…笛使い。」


ん?

誰?

そう呼んでくれる人たちは限られている。


振り返ったら、そこに、チビ勇者がいた。


「ええっ!

 チビ勇者?

 なんで君が?」


思わず叫んでしまったら、しーっ、しーっ、と両方から叱られた。


「チチチチチ…

 イクラナンデモ、ソノオオゴエハ、キヅカレルカクリツガ、1パーセント…」


百回に一回か。

まあ、僕の襲われる確率よりは、低いじゃないか。


「チチチチチ。

 チチ。チチチ。チチチチチ。」


チビ勇者の後ろから、いきなり飛び出した青い鳥が、いっちゃんにむかって何か言った。


「えっ?

 君も、青い鳥に、連れてこられたの?」


「使者の人を助けに行かなくちゃ、ってあちこち歩き回ってたら、いきなりこの鳥が現れて…」


「ゴアンナイシマシタ…」


話し方は少しぎこちないけど、言葉は話せる機体みたいだ。


だけど。

なんだか、久しぶりに、チビ勇者に会えて、ほっとした。

って、多分、一日くらいしか経ってないはずなんだけど。


「兵士たちは?

 大丈夫だったの?

 ひどいことされなかった?」


「僕にお酒を飲ませようとしたから。

 飲んだふりをして、逆に相手に飲ませた。

 そうしたら、みんな酔いつぶれて眠ってます。」


なんて優秀なお子様だ。


「そもそも。あの人たち、全然、やる気ないし。」


らしいねえ。


「で。この中に、狂暴な人がいる、ってことですか?」


狂暴な人、ってのは、ちょっと違うけど。


「僕らの話し、聞いてた?」


「鳥が、ずっと、あなた方の話しているのを、聞かせてくれてました。」


そんな機能もあるんだ。

べんり~。


「中の人はね。

 最大級に警戒してるんだと思う。

 チャンスがあったら、なんとか逃げだそう、って思ってるんじゃないかな。」


ふむ、とチビ勇者は何か考え込むようにした。

なんだか、僕よりよっぽど大人みたい。


それから、きっぱりと顔をあげて言った。


「なら、僕が行きましょう。」


え?


「癒しの光で元気百倍、戦う気満々、な相手なんだよ?」


防御しようにも、チビ勇者は、剣も盾も持ってないし。

あの棚の林立する部屋じゃ、弓は使えない。


「チチチチチ…

 ソノバアイノ、オソワレルカクリツハ、90パーセント…」


90パーセント?!

ほぼほぼ、襲われるってことじゃないか。


「だめだよ、そんなの。

 危なすぎる。」


「一撃目、堪えたらいいんだよね?」


「ハイ。

 イチゲキメヲ、ウケナガセレバ、ミカタデアルト、キヅカレルカクリツハ、80パーセント…」


「そのくらいなら、なんとかなる、と思う。」


い、いやいやいや。

確かに、君は、腕はあるよ?

なんなら、僕よりずっと強いさ。


だけどもさ。

こんなに小さい君の背中に隠れるなんて。

一人前の大人として、そんなこと、僕には…


「大丈夫だよ。笛使い。

 君のことは、絶対に、傷つけさせない。」


チビ勇者は、僕を見上げて、にこっと笑った。

いかにも、勇者、って感じに。


「いやあのね?

 僕は、そういうこと、言ってるんじゃないんだ。」


そうしたら、チビ勇者は、わずかに目を伏せて、小さく笑った。


「ごめんね?

 でも、これは、やっぱり、僕がやらなくちゃ、なんだ。」


は?

なにそれ。

なんで、そうなるんだよ。


チビ勇者は、もう一度、顔を上げて言った。


「………僕は、あの王の言葉を信じて、森の民のことを憎んでた。

 だけど、それは間違いだった。

 だから、僕は、同族の犯した過ちや、僕自身の犯した過ちを、一生かけて償わなくちゃならない。」


「確かに、君は間違ってた。

 だけど、君はまだ、子どもだもの。

 その君が、そんな、過ちだとか、償いだとか、背負い込むことないんだよ?」


「それは、違う。」


チビ勇者はきっぱり言った。


「子どもだって、許されないことは許されないんだよ。

 僕はもう、それが、許されないことだって、って、ちゃんと分かってるから。

 だから、償いは、僕自身のために、やるんだ。」


う。

なんだって、勇者、って人たちは、みんな、こういうとき、こんな顔、するんだよ。

眩し過ぎて、思わず、黙ってしまうよ。


チビ勇者は、背中の弓を足元に置いた。

腰につけた矢筒も、横に揃えて置く。


「弓も、持って行かないつもり?」


「弓、持ってたら、戦う意志がないって、気付いてもらえないでしょ?」


それは、そうだけど。


「じゃ、行くよ。」


え。

いや、まだ、心の準備が…


「カイジョウシマシタ。」


なんだって、こんなときに、そんなに反応が早いんだ、って、腹立たしいくらいあっさりと、いっちゃんは、扉の鍵を開けてしまった。










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