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もう一つの楽園  作者: 村野夜市


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鳥さんたちのおかげで、無事に目的の部屋に着いた。

そこもまた、保管庫のようだった。


いっちゃんが鍵を開けてくれて、扉を開くと、たくさんの棚の列がまず目に入った。

人の姿は見えない。


「あのう…もしもし…大丈夫ですか?」


恐る恐る、声をかけながら中に入って行く。


「え、っと。

 助けにきました。」


「チチチチチ、ネツゲンヲ、カンチシマシタ。」


いっちゃんはそう言うと、いきなり飛び立った。

その後を、きゅうちゃんもついていった。


あ。


まあ、いいか。

いきなり僕が現れるより、先に鳥さんたちに、見つけてもらうほうが、相手のことも、驚かせなくていいかも。


早足で鳥さんたちの後を追おうとしたんだけど。

すぐに、二羽とも見えなくなってしまった。


まあ、この棚の中じゃ、仕方ない。


「えっと、あの、いっちゃん?きゅうちゃん?」


使者の人のことは、何て呼んだらいいかな?

お使者さん?………変か。


と思ったら、むこうから、きゅうちゃんが飛んできた。


「こっちこっち。早く来て。」


「あ。うん。」


きゅうちゃんに案内されて、棚をいくつか回ったら、部屋の隅の隅の突き当りに、棚にもたれるようにして、人がひとり、座り込んでいた。

どうやら、気を失っているようだ。

目を閉じたまま、ぐったりしている。


「トテモ、ヨワッテ、イマス。」


言われなくても分かった。

僕は、すぐさま駆け寄ると、全力で、治癒の術をかけた。


これだけは、ちょっと自信、あるんだ。


しばらくすると、その人は、ゆっくりと目を開いた。

その目が僕に焦点を合わせるのを待つ間、僕は、顔をもじゃもじゃと動かして、精一杯、笑顔を見せようとした。


「あの。大丈夫?ですか?」


言ってしまってから、いや、この状況で、大丈夫なわけないよな、と思う。

あわてて、言い直した。


「お使者の人、ですよね?

 助けにきました。

 って、あ。

 あの、僕は、怪しい者じゃありません。

 ルクスとは友だちだし、フォルティスとも、知り合いで…」


森の民なのは、見りゃ分かると思うけど。

それでも、敵なのか味方なのかは、見ただけじゃ分からない。

僕は、彼にとって、敵じゃない、となんとか説明しようとした。


「あの。あなたは、僕のこと、知らないかもしれないけど。

 ルクスとは幼馴染で。

 あ。幼馴染には、もうひとり、アルテミシア、って子もいるんですけど。

 アルテミシアは、今はその、アマンへ行っていて…」


言えば言うほど、ますます泥沼にはまっていくみたい。


すると、目の前のお使者の人は、いきなり、小さく笑い出した。


「は?へ?」


ちょっとずつ彼の笑い声は大きくなって、けれど、いきなり笑うのは、弱ったからだには、無理だったのか、彼は、こほこほと咳き込み始めた。


「あ。あ。あ。

 笑っちゃ、ダメだ。

 お願いだから、笑わないで。」


おろおろと僕は彼の背中をさすりながら、その掌に治癒術を込めた。


「もう少し、治しますから。

 っても、これ、根本的な治療にはならないんだ。

 帰ったら、ちゃんとご飯を食べて、眠って、からだを休めてね。

 そうしないと、本当には治らないから。」


なんて、それ今言わなくてもいいよなあ、とか、頭の片隅で思いながらも、僕は黙ってられなくて、つらつらと続けた。


「あの。郷に帰ったら、ちゃんとご飯もあるし、休める場所もあるからね。

 みんな、君のことを、とても心配して、帰ってくるのを待ってる。

 本当は、僕みたいなのじゃなくて、もっと強くてしっかりした人が来るのがよかったんだろうけど。

 フォルティスも、自分が行く、って言ってたんだけどさ。

 いろいろあって、それも難しい、ってことになってて。

 じゃあ、って、チビ勇者が、行くとか言い出して。

 いや、あの、僕も、そもそも、自分から行くつもりはなかったんだけど。

 ほら、チビ勇者ひとりじゃ、流石に行かせられないし。

 だって、チビ勇者、って、勇者とか言ってるけど、本当にまだおチビだから。

 なのに、来てみりゃ、その、青い鳥作戦?とか、いろいろあって。

 いや、でも、こうして、君を見つけられたから。

 もうひとりも、なんとか見つけ出して。

 それから、僕が一緒に来た、チビ勇者も、探さないとなんだけど。

 まあ、彼は、平原の民だし、子どもだから、そう警戒もされてないだろうし。

 というか、ここの兵士たちに連れて行かれて、それっきりなんだけど…

 ええっと、僕、何を話してたんだっけ?」


だんだん支離滅裂になっていく僕に、彼はちょっと目を丸くして聞いていてくれたけど、収拾がつかなくなって、おたおたと口を噤んだら、またぞろ、くすくすと笑い始めた。


「いや。あの。咳が出るから。

 笑っちゃだめだ、って。」


笑わせたいわけじゃないのに。

なんだって、僕ってば、いっつも、笑われてるんだろう。


彼は、はいはい、となんとか笑いをこらえて、涙目になりながら、僕のほうを見た。


「来てくださって、有難うございます。大賢者様。」


「あれ?

 僕のこと、知ってた?」


なんだ。

じゃあ、さっきの支離滅裂な話しは、いらなかったか。

いやあのその、大賢者様、ってのは、イヤなんだけどね?

まあ、もう、そのほうが通りがいいなら、それでいいや。


「あなたのことは、ルクス王とご一緒のところを、何度かお見かけしました。

 直接、お話しさせていただいたことはありませんけれど。

 噂では、とても、チャーミングな方だ、と伺っておりました。」


は?ちゃーみんぐ?

なにそれ、美味しいの?


いや。

僕だって、知ってますけど。チャーミングくらい。

けどそれ、僕の形容には、あってないと思う。うん。


「ルクス王とは、何度も直々にお話しさせていただきました。

 その上で、わたし自ら、使者になることを、志願いたしました。

 ルクス王は、大変危険な役目だとおっしゃいましたけれども。

 わたしが、個人的に、王都と研究院に、とても、興味を持っておりましたから。

 それも承知の上で、使者としてここにまいりました。」


少しずつ彼の声に張りが戻ってくると同時に、その頬にも、にこやかな微笑みが浮かんだ。

高すぎもせず低すぎもしない彼の声は、耳に心地いいし、落ち着いて、ゆっくり話す言葉は、心にすっと入って来る。

彼は、なかなか、使者にはぴったりな人なんじゃないだろうか。


なのに。

そんな彼を、こんな保管庫に放り込んで、こんなに弱るまで、そのまま放置するなんて。

もしかしたら、けっこう手強いかもしれない。ここの人たち。






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