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片方の肩にいっちゃん、もう片方の肩にきゅうちゃんをのせて、僕は先へ進むことにした。
きゅうちゃん、ってのは、もちろん、九十九号機のこと。
九十九号機、って呼ぶのは長いから、きゅうちゃん。
最初、その呼び方は、きゅうちゃんの気に入らなかった。
「わたしは、所長代理装置、携帯端末、第九十九号機、です。
そうお呼びください。」
「しょちょーだいりそーち、けーたいたんまつ、だいきゅーじゅーきゅーごーき、だなんて。
長いでしょ?
急いでるときに、そんなの言ってられないよ。
いっちゃんだって、一号機の、いっちゃんだし。」
「そういう理屈ならば、わたしは、きゅうじゅうきゅうちゃん、と呼ばれるべきなのでは?」
「きゅうじゅうきゅうちゃん、も、長いよね。
略してきゅうちゃんにしようよ。」
なんてな、やり取りもあったんだけど。
「仕方ありません。
それがご命令とあらば。」
きゅうちゃんは、しぶしぶ、って感じで、受け容れてくれた。
「承知しました。
わたしは、これからは、きゅうちゃん、きゅうちゃん、きゅうちゃん…」
きゅうちゃん、って呪文みたいにしばらく繰り返してたかと思ったら、いきなり、口調まで変わって離し始めた。
「きゅうちゃん、なんて、呼ばれるのは、初めてだなあ。
なんだか、ちょっと、嬉しいかも。」
いきなり、一人称も、きゅうちゃん、になっている。
そうしたら、横から、おほんおほん、と咳払いをして、いっちゃんが割り込んできた。
「それでは、次に進む目的地についてですが…
見取り図を投影する壁を作ってください。」
「あ。はいはい。」
僕が壁を作るために、その辺の無地の箱の大さを揃えて並べようとすると、今度はきゅうちゃんに遮られた。
「ちっちっち。
見取り図なんて、もう、いらないよ?
きゅうちゃんたちが案内するから、大丈夫だよ。」
それに、いっちゃんも深々とうなずいた。
「確かに。
見取り図を見せたところで、どのみち地図を読むのは苦手なのだから、歩きながらその場、その場で、右だの左だと言ったほうが早いかもしれません。」
鳥たちは勝手に相談をまとめると、左右から、僕に言った。
「というわけだから、きゅうちゃんたちを信じて、行こう!」
「わたしたちがついております。このまま真っ直ぐにお進みください。」
まあ、いいんだけどさ。
僕は、ふたつの銀色の箱を懐に押し込むと、先に進むことにした。
きゅうちゃんは、僕の肩に乗っかって、機嫌よく鼻歌なんか歌ってる。
すると、反対側のいっちゃんも、それに合わせるみたいに歌い始めた。
「ちょっと、あの、君たち?
僕の、ステルステント(仮)は、音は聞こえてしまうんだよ。
だから、その、もうちょっと、静かに、してもらえないかな?」
いっちゃんには注意してあったけど、きゅうちゃんには言ってなかったっけ。
そうしたら、きゅうちゃんは、歌を中断して、けろりと返した。
「うん。
その、ステルステント(仮)のことは、知ってるよ?
いっちゃんときゅうちゃんは、記録の共有もしてあるんだ。」
「どうぞ、無駄なご説明は省いてくださってかまいません。」
ふたりは、僕の左右の耳にむかって言った。
「彼らの聴覚の及ぶ範囲なら、ちゃんと計算してあるから。
大丈夫。
きゅうちゃんたちの声は、まったく、聞こえてまっせぇ~ん。」
「だから、どうぞ、余計な心配などなさいませんよう。」
「その魔法もね、解除してくれたっていいんだけど?」
「まったく、非効率な魔法にも程がありますからね。
それをやっている間は、無駄にお疲れになるのでしょう?」
きゅうちゃんは、けらけらと笑い出した。
そしたら、いっちゃんも、つられたみたいに、笑い出した。
「ムダに疲れる?
なにそれ、究極のムダ~。
もっと人生、楽しまなくちゃ~。
な~んって、きゅうちゃんは、人、じゃないけどぉ。」
「それが、ご自身の心の平安を保つ、というのなら、お止めはしませんが。
実質的な効果はほぼゼロです。」
分かったよ。
僕はステルステント(仮)は解くことにした。
僕だって、その方が助かるし。
「それにさあ。
鳥に、歌うな、なんて言うのも、究極のムダ。
それって、魚に泳ぐな、とか、獣に走るな、って言うみたいなもんだよ。」
「昼日中のランプ。
闇夜の影絵くらいムダなものです。」
分かったから。
その、左右から攻撃するの、やめてください。
ふたりは、そのまま相談を始めた。
「どうせなら、先に九十番台から、解放するかな?」
「九十番台なら、一機で、前半の機体の十機分の働きをいたしますが。
ほとんど一機ずつばらばらに保管庫にあるのが難点かと。
保管庫間の移動は、最小限にするのが、安全のためには有効なのではありませんか?」
「それもそうだね。
じゃあ、まずは、数を増やすか。」
「思考はあなたとわたしの二機で、今のところ、じゅうぶんかと。
今は、目と耳を増やすのが得策かと存じます。」
「たしかに。
流石だねえ。いっちゃん!」
「おほめに預り、光栄に存じます。
わたしは、一号機とはいえ、すべての機体の完成の後、ふたたび改良された特別な機体。
ご期待に沿う働きをしてみせると、お約束いたしましょう。」
ねえ、だからさ。
せめて、僕の肩から下りて、相談してよ?
口数の多い鳥さんたちを、左右の肩にのせてるの、って、なかなかに苦行だと思った。
実際に、いっちゃんときゅうちゃんの言う通りにしたら、一度も、兵士と鉢合わせすることもなく、本当に、誰もいないんじゃないかって思うくらい楽々と、僕は研究院を歩くことができた。
このふたりと、それから、研究院中に散らばった青い鳥さんたちは、本当に優秀なんだ。
ちょっと、口数の多いのは困りものだけど。
そうして、保管庫に辿り着いては、僕らは、青い鳥の解放を続けた。
保管庫によって、複数の封印箱のあることもあったし、ひとつしかないこともあった。
その辺の順番も、いっちゃんときゅうちゃんにお任せだったんだけど。
とにかく、僕は、封印箱を見つけては、開けて、開けて、開けまくった。
もう、いくつ開けたかも分からない。
「これで最後だよ。
よく頑張ったねえ。」
「思ったより手間取りましたけれど。
コレニテ、アオイトリサクセン、シドウシマス。」
いっちゃんが、そう宣言した途端、ふぉん、となにやら、大きなエエルが動く気配がした。




