↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
もう一つの楽園  作者: 村野夜市


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
515/555

515

片方の肩にいっちゃん、もう片方の肩にきゅうちゃんをのせて、僕は先へ進むことにした。


きゅうちゃん、ってのは、もちろん、九十九号機のこと。

九十九号機、って呼ぶのは長いから、きゅうちゃん。


最初、その呼び方は、きゅうちゃんの気に入らなかった。


「わたしは、所長代理装置、携帯端末、第九十九号機、です。

 そうお呼びください。」


「しょちょーだいりそーち、けーたいたんまつ、だいきゅーじゅーきゅーごーき、だなんて。

 長いでしょ?

 急いでるときに、そんなの言ってられないよ。

 いっちゃんだって、一号機の、いっちゃんだし。」


「そういう理屈ならば、わたしは、きゅうじゅうきゅうちゃん、と呼ばれるべきなのでは?」


「きゅうじゅうきゅうちゃん、も、長いよね。

 略してきゅうちゃんにしようよ。」


なんてな、やり取りもあったんだけど。


「仕方ありません。

 それがご命令とあらば。」


きゅうちゃんは、しぶしぶ、って感じで、受け容れてくれた。


「承知しました。

 わたしは、これからは、きゅうちゃん、きゅうちゃん、きゅうちゃん…」


きゅうちゃん、って呪文みたいにしばらく繰り返してたかと思ったら、いきなり、口調まで変わって離し始めた。


「きゅうちゃん、なんて、呼ばれるのは、初めてだなあ。

 なんだか、ちょっと、嬉しいかも。」


いきなり、一人称も、きゅうちゃん、になっている。


そうしたら、横から、おほんおほん、と咳払いをして、いっちゃんが割り込んできた。


「それでは、次に進む目的地についてですが…

 見取り図を投影する壁を作ってください。」


「あ。はいはい。」


僕が壁を作るために、その辺の無地の箱の大さを揃えて並べようとすると、今度はきゅうちゃんに遮られた。


「ちっちっち。

 見取り図なんて、もう、いらないよ?

 きゅうちゃんたちが案内するから、大丈夫だよ。」


それに、いっちゃんも深々とうなずいた。


「確かに。

 見取り図を見せたところで、どのみち地図を読むのは苦手なのだから、歩きながらその場、その場で、右だの左だと言ったほうが早いかもしれません。」


鳥たちは勝手に相談をまとめると、左右から、僕に言った。


「というわけだから、きゅうちゃんたちを信じて、行こう!」

「わたしたちがついております。このまま真っ直ぐにお進みください。」


まあ、いいんだけどさ。


僕は、ふたつの銀色の箱を懐に押し込むと、先に進むことにした。


きゅうちゃんは、僕の肩に乗っかって、機嫌よく鼻歌なんか歌ってる。

すると、反対側のいっちゃんも、それに合わせるみたいに歌い始めた。


「ちょっと、あの、君たち?

 僕の、ステルステント(仮)は、音は聞こえてしまうんだよ。

 だから、その、もうちょっと、静かに、してもらえないかな?」


いっちゃんには注意してあったけど、きゅうちゃんには言ってなかったっけ。


そうしたら、きゅうちゃんは、歌を中断して、けろりと返した。


「うん。

 その、ステルステント(仮)のことは、知ってるよ?

 いっちゃんときゅうちゃんは、記録の共有もしてあるんだ。」

「どうぞ、無駄なご説明は省いてくださってかまいません。」


ふたりは、僕の左右の耳にむかって言った。


「彼らの聴覚の及ぶ範囲なら、ちゃんと計算してあるから。

 大丈夫。

 きゅうちゃんたちの声は、まったく、聞こえてまっせぇ~ん。」

「だから、どうぞ、余計な心配などなさいませんよう。」


「その魔法もね、解除してくれたっていいんだけど?」

「まったく、非効率な魔法にも程がありますからね。

 それをやっている間は、無駄にお疲れになるのでしょう?」


きゅうちゃんは、けらけらと笑い出した。

そしたら、いっちゃんも、つられたみたいに、笑い出した。


「ムダに疲れる?

 なにそれ、究極のムダ~。

 もっと人生、楽しまなくちゃ~。

 な~んって、きゅうちゃんは、人、じゃないけどぉ。」

「それが、ご自身の心の平安を保つ、というのなら、お止めはしませんが。

 実質的な効果はほぼゼロです。」


分かったよ。


僕はステルステント(仮)は解くことにした。

僕だって、その方が助かるし。


「それにさあ。

 鳥に、歌うな、なんて言うのも、究極のムダ。

 それって、魚に泳ぐな、とか、獣に走るな、って言うみたいなもんだよ。」

「昼日中のランプ。

 闇夜の影絵くらいムダなものです。」


分かったから。

その、左右から攻撃するの、やめてください。


ふたりは、そのまま相談を始めた。


「どうせなら、先に九十番台から、解放するかな?」

「九十番台なら、一機で、前半の機体の十機分の働きをいたしますが。

 ほとんど一機ずつばらばらに保管庫にあるのが難点かと。

 保管庫間の移動は、最小限にするのが、安全のためには有効なのではありませんか?」


「それもそうだね。

 じゃあ、まずは、数を増やすか。」

「思考はあなたとわたしの二機で、今のところ、じゅうぶんかと。

 今は、目と耳を増やすのが得策かと存じます。」


「たしかに。

 流石だねえ。いっちゃん!」

「おほめに預り、光栄に存じます。

 わたしは、一号機とはいえ、すべての機体の完成の後、ふたたび改良された特別な機体。

 ご期待に沿う働きをしてみせると、お約束いたしましょう。」


ねえ、だからさ。

せめて、僕の肩から下りて、相談してよ?


口数の多い鳥さんたちを、左右の肩にのせてるの、って、なかなかに苦行だと思った。


実際に、いっちゃんときゅうちゃんの言う通りにしたら、一度も、兵士と鉢合わせすることもなく、本当に、誰もいないんじゃないかって思うくらい楽々と、僕は研究院を歩くことができた。


このふたりと、それから、研究院中に散らばった青い鳥さんたちは、本当に優秀なんだ。

ちょっと、口数の多いのは困りものだけど。


そうして、保管庫に辿り着いては、僕らは、青い鳥の解放を続けた。


保管庫によって、複数の封印箱のあることもあったし、ひとつしかないこともあった。

その辺の順番も、いっちゃんときゅうちゃんにお任せだったんだけど。

とにかく、僕は、封印箱を見つけては、開けて、開けて、開けまくった。

もう、いくつ開けたかも分からない。


「これで最後だよ。

 よく頑張ったねえ。」

「思ったより手間取りましたけれど。

 コレニテ、アオイトリサクセン、シドウシマス。」


いっちゃんが、そう宣言した途端、ふぉん、となにやら、大きなエエルが動く気配がした。







評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。