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とりあえず、豆粒みたいになった箱をざらざらとポケットに押し込んで、持って行こうとしたら、呼び止められた。
「あのう、どちらへ?」
「え?
これ、研究院中に、配置しに行くんでしょ?」
何気なく言ったら、いっちゃんは、思いっきり片方の羽を差し上げてのけ反った。
「ええっ!
まさか、直接持って行くおつもりですか?」
腹の立つことに、何故か、他の鳥たちも連動して、一斉に同じ動きをする。
「え?
さっき、君がそう言ったんじゃ…」
君たち、この箱が近くにないとダメなんでしょ?
だから、研究院中にこの箱を配置する、って…
「そんな、無謀かつ非効率なことを、しろと言った覚えはありませんが。」
「はあ?
誰が、無謀で非効率だって?」
なんか、さっきから、ちょっと思ってたけどさ。
君って、ちょっと、口、悪くない?
「チチチチチ…ケンサクチュウ…ケンサクチュウ…」
また何か考えてる。
「ケンサクカンリョウ。
ケンキュウインノ、ミトリズヲ、トウエイシマス。」
???
いっちゃんは、いきなり仲間たちにむかって、チチチッ、と合図をした。
すると、仲間たちは、一斉に羽を広げて、壁際に並んだ。
背中は青いけれど、羽の内側とお腹は白い。
その白い面を並べると、白い壁になった。
いっちゃんはその壁にむかって、かっ、と嘴を開いた。
すると、いっちゃんの口の中から、光が放たれて、鳥たちの作った壁に、なにか、地図のようなものを描きだした。
「チチチチチ…コレハ、ケンキュウインノ、ミトリズニナリマス。」
口を開きっぱなしのいっちゃんに代わって壁になってる角の一羽が話し出した。
「ゲンザイ、ハイチカノウナ、タンマツハ、サンジュウシチ。
タンサクハンイヲ、コウリョニイレ、モットモコウリツテキナ、ハイチバショヲ、イカニ、シメシマス。」
無機質な声は聞き取りにくいけれど、なんとかついていく。
ふぉん、ふぉん、と研究院の見取り図に青い光が灯っていった。
「コノイチニ、ゴサプラスマイナスイチイナイニ、セイカクニ、テンイ、サセテクダサイ。」
テンイ、って…転移?
いや、そんな魔法は…
「チチチチチ…ケンサクチュウ…ケンサクチュウ…
ケンサクカンリョウ。
テンイマホウハ…」
僕は青い鳥に言われるままに、豆粒大の端末を掌に握ると、額のあたりに力を込めて、見取り図の一点を見つめた。
すると、手の中の豆粒は、すっと消滅して、それと同時に、壁になっていた鳥も一羽、消え去った。その代わりに、見取り図の青い点が、ふわっと、明るく光った。
「テンイマホウ、セイコウシマシタ。」
うわ。
なんだ、やればできるじゃないか、僕。
「アナタハ、トテモ、スジ、ガイイ。
ナノニ、マホウヲ、ツカワナイノハ、モッタイナイ。」
なんかちょっと、ほめられちゃった?
「ソノチョウシチョウシ、ドンドンイキマショウ!」
なんだか、いいようにのせられてる気もしないでもないけど。
僕は、次々と端末を見取り図の目的の場所へ転移させた。
そのたびに、壁の鳥は一羽ずつ消滅して、銀色の豆粒も、ひとつずつ消滅した。
壁が小さくなると、見取り図も小さくなっていったけど、なんとかぎりぎり、転移させる目標は見定められた。
調子にのって、僕は、ばんばん転移魔法を使いまくった。
それでも、あと残り、五羽くらいになると、流石に、見取り図は見えなくなった。
「うーん、でも、なんとなく、覚えてるし。
これで、いけないかな…」
何度も何度も凝視してたから、見取り図も、そこについていた青い点も、頭の中に残像のように残ってる。
頭の中のその図を凝視して、そこの青い点にむかって、箱を転移させた。
「ゴサハプラスイチ。
ギリギリダケド、セイコウシマシタ。」
多少、誤差はあったらしいけど、まあ、成功したんなら、いいじゃないか。
そうやって、あとの残りも、転移させた。
とうとう、全部の銀色豆を送り込んで、また、いっちゃんとふたりきりになった。
いっちゃんだけは、一緒にいてもらわないと困るから、転移させない。
いっちゃんの箱も、豆粒にしたら失くしそうだから、そのままの大さにしておいた。
「なかなか、お見事でした。」
口を開けていなくてもよくなったいっちゃんは、僕のことを褒めてくれた。
ちょっと嬉しい。
なんだろう。他の青い鳥たちと違って、なんだか、いっちゃんは、少し話しやすい気がする。
ほんの少しの差だけど、他の鳥より馴染みがあるからかな。
「これより、情報網の構築と投影を行います。
そこの箱の内側の面を広げて、壁際に並べてください。」
あ。はいはい?
感動してる暇なんてないってわけね。
僕は、封印箱を開くと、内側を平らにして、壁際に並べた。
すると、そこに、さっきの鳥の壁に代わる壁ができた。
「投影します。」
いっちゃんはそう宣言すると、また、かっ、と嘴を開いた。
そこには、研究院の見取り図と、たくさんの黒い影が映っていた。
影は、よくよく見ると、小さな人の形をして、ちょろちょろと動き回っていた。
「もしかして、この黒い影のひとつひとつは、人ってわけ?
ここに、こんなふうに、人がいる?」
口のきけないいっちゃんは、ただうんうんと頷いてみせた。
「すごいな。
こんなの分かるなんて…」
この図さえあれば、どこが危険なのかよく分かった。
王の兵士たちは、研究院の建物の中にまんべんなくいるわけじゃない。
正面玄関から入ったところの広間と、あとは、人化計画に使われていた大きな研究室。
主にその二か所にしか黒い影は見当たらなかった。
「ねえ、いっちゃん。
他に、鍵のかかる保管庫って、どこにあるのかな。」
僕はふと思い付いて尋ねてみた。
そこを探せば、他の青い鳥の封印箱も見つかるかもしれない。
こんなに頼りになる青い鳥が、もっとたくさんいたら、それはすごく心強いじゃないか。
それに、もっと最初の目的。
ここに僕は、交渉に来てそのまま消息を断った仲間を探しにきた。
その人を探しに行った仲間も、戻っていない。
その人たちも、もしかしたら、僕みたいに、どこかの保管庫に閉じ込められてるかもしれない。
いっちゃんは、一度口を閉じた。
そうすると、壁の投影図も消えてしまう。
同時にはできないから、仕方ない。
「チチチチチ…ケンサクチュウ…ケンサクチュウ…
カギノカカル、トビラノイチヲ、シメシマス。」
いっちゃんはそう言うと、もう一度、口を開いた。
すると、いくつかの扉が赤く光って投影された。
「これを、ひとつずつ、見て行こう。」
「了解、しました。」
とりあえず、一番近くの扉の位置は覚えた。
いっちゃんを肩にのせて、僕は、次の扉へとむかった。




