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隣の部屋にも人の気配はなかった。
鍵を開けてもらって中に入ったら、ステルステント(仮)は解いた。
これ、ずっとやってると、ものすごく疲れるんだ。
そこも保管庫みたいだった。
みっちりと詰まった棚を順番に探索する。
あの紋章はかなり特徴があったから、目に入ればすぐに分かるはずだ。
保管庫の一番奥の棚で、僕は思わず歓声をあげた。
そこに、見覚えのある紋章を描いた箱が、十個ばかり、みっちりと詰まっていたからだ。
早速、取り出そう…取り出そう…と…、なにこれ、指も入らない。
あまりにもきれいにみっちり詰まってるもんだから。
箱と箱の間に、隙間もないんだ。
ふう。
ちょっといったん、落ち着こう。
「チチチチチ…ケンサクチュウ…ケンサクチュウ…
吸着の魔法は、掌に対象物の持つのと真逆のエエルを集中させ…」
いっちゃんが、何やら言い出した。
え?
もしかして、魔法、教えてくれてるの?
いや、だけど、僕、そんなふうに教えられても、よく分からないというか…
いっつも魔法は、感覚って言うか…
う、ん?真逆の、エエル?
って、こんな感じ?
「ほう!」
やってみたら、なんか、うまくいった。
ぴたっと掌に吸いついた箱を手前に引くと、すいっと、その箱だけ、きれいに抜き取れた。
そっか。
ここを整理した人は、きっとこの魔法を使う前提で、物を詰め込んでいるんだ。
「やった!できた!
うまくいったよ!いっちゃん!」
嬉しくなって、思わず叫んだら、いっちゃんは、羽を嘴のところにあてて、しーっ、と言った。
あ。そうだった。
しーっ。しーっ。
慌てて、外のエエルの流れを探ったけど、とりあえず、近付いてくる人の気配はない。
でも、気をつけなくちゃ。
引き出した箱は、簡単に開いた。
箱の中には、やっぱりみっちりと、箱が入っていた。
今度は造作もなく、中の箱も取り出せた。
「ほう…」
それはいっちゃんのと同じ銀色の箱だった。
箱は、ぴぴぴぴぴ、という音を立てると、ふぉん、と青い鳥がそこに浮かんだ。
すると、いきなり僕の肩にいたいっちゃんが鳴きだした。
「チチチチチ…チチ…チチチチチ」
「チチチ…チチチチチ…チチチ…」
それに答えるように、箱から出てきた青い鳥も鳴いた。
二羽は、しばらくそんなふうに、チチチチチ、と鳴きあっていたけれど、そのうちにいっちゃんが僕を振り返って言った。
「イシキノキョウユウヲ、カンリョウシマシタ。
次の箱を開けてください。」
「あ。うん。分かった。」
二羽に見惚れてる場合じゃなかった。
そこからは、僕は、箱を取っては開き、取っては開き、した。
箱の列の後ろから、また、箱の列が現れたときには、思わず、嬉しい悲鳴を上げた。
青い鳥たちは、現れると、すぐに、仲間同士、なにか鳴き合っていた。
その青い鳥の数もずんずん増えていく。
箱から出てきた鳥たちが多くなるに連れて、仲間に連絡をする速度も速くなっていく。
次、また、次、とせかされるように、僕は、箱を、開けて開けて開けまくった。
最初見たときには、十箱くらいかなと思ったけど。
全部開けてみたら、三十羽以上の青い鳥がいた。
すごい。
それが、びしっ、と、一斉に揃って、僕に嘴をむけた。
………ちょっと、怖い。
「ここには、四十六号機から、八十二号機が保管されていました。」
なんか、中途半端な数だなあ…
う、ん?
ってことは、今ここに、何羽いるの?
しかし、とげとげの嘴が、ちくちくする感じがして、なんだか、そっち、じっと見てらんない。
「今から、この仲間たちの本体を、研究院中に配置していきます。」
「配置?」
「はい。
わたしたちは、携帯端末の周囲、一定の範囲しか感知できません。
研究院中を感知するためには、携帯端末を、研究院中に配置する必要があります。」
なるほど。
って、もしかして…
「その配置って、もしかして、僕の仕事?」
「はい。」
鳥の顔は笑ったりしないはずなんだけど。
そのときのいっちゃんは、確かに、笑ってた。
「えー…これ全部、持って行くのか…」
僕は床に積み上がった銀色の箱を見てため息を吐いた。
箱は、掌にちょうど収まるくらいの大さなんだけど。
三十個以上も懐に押し込めるわけはないし。
かと言って、ここには、持ち運べる袋もない。
というか、仮にそんな袋があったとしても、大荷物だ。
箱は、ひとつひとつだと、重さも大したことないけど。
流石に、この数だと、重さだって…
「チチチチチ…キョウリョクナ、フノオーラ、ケンチシマシタ…」
三十羽以上の青い鳥が、いきなり同時に言った。
うへっ。
「チチチチチ…チチチチチ…ケンサクチュウ…ケンサクチュウ…」
一斉に検索を始める。
「ケンサクカンリョウ。
その問題を解決する魔法があります。
まず、両方の掌にエエルを集中させ、両手で箱を捏ねるようにしてみてください。」
「え?こんな感じ?」
教わった通りにやってみると。
あれ?
固くてつるんとした銀色の箱は、みるみる僕の掌の中で小さくなって、豆粒くらいになった。
それに合わせて重さも豆粒程度になる。
これなら、三十個持つのも、ちょろい。
「すごい!
これも、魔法なの?」
「はい。
魔法生成物は、このように、エエルで形状を変化させられます。
これは、魔法生成学の初歩の初歩であり、研究院に携わる者ならば、知っていて当然のことと…」
なんだか、お説教もされちゃったけど。
まあ、いいや。
うまくいったんだから。




