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もう一つの楽園  作者: 村野夜市


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行こうか、なんて、気取ってみたけど。

まずは、地道にその部屋の探索からだった。

なんか、僕も、いっちゃんに影響、されちゃったかな?


棚に置いてある、箱。箱。箱。

とりあえず、中身は分からないけど。

封印箱には、目立つ紋章が描いてあったから。

とりあえず、その紋章を目印にして、探し回った。


結果。


この部屋に、青い鳥の入った箱はなさそうだ。


さて。

どうしよう。


いきなり行き詰った。


この部屋は鍵がかかっている。


僕、鍵解除、できないんだよね…

魔法で、そういうのやっちゃえる人もいるんだけど。


「ねえ、いっちゃん。

 君は、この部屋の鍵の解除とか、できない?」


魔法の記録、全部入ってる、とか言ってたよね?

まあ、記録がある、のと、魔法を使える、のとは、別ものかもしれないけど。


ダメ元で言ってみたら。


「もちろんできます。」


あっけらかんといっちゃんは言って、それと同時に、かちゃり、と鍵の外れる音がした。


え?


「わたしは、研究院の中央制御装置とも繋がっております。

 所長代理を名乗るからには、所長と同等の権限もまた、保持していなくてはなりません。

 この程度は、お安い御用!」


それは、すごいな。


「研究院内のすべての鍵は、わたしの意識下に、操作可能です。」


それは助かった。


「あ。ちょっと待って。」


扉を開く前に、僕は外のエエルを探った。


研究院の中には、きれいなエエルの流れがある。

廊下中を張り巡らしてあるエエルを送る糸が、その流れを作り出しているんだ。

その流れの中に、たとえば、人とかがいると、小川の中にある石みたいに、流れを歪ませる。

その歪みがないか確認すれば、人がいるかどうかも分かる、ってわけ。


「う、ん。大丈夫。

 鍵をかけたから、安心したのかな。

 見張り、とかはいないみたい。」


なんとなく、だけど。

見張り、なんて、面倒なことは、あの人たちは、しないんじゃないかな、って思ってた。

それは、当たってたみたい。


部屋を出る前に、ステルステント(仮)をかける。

すると、いっちゃんは、いきなり叫んだ。


「ほう!

 なんとまあ、これはまた、奇態な魔法でございますね?」


きたい?


「周りからエエルを遮断する魔法、ですか?

 確か、ドワーフ族の発明した魔法装置に似たような魔法が記録されていたように思いましたが。

 これはその、劣化版、といったところでしょうか!」


…う、ん…まあ、その通りなんだけど…


「いや。あの。

 確かに、これ、劣化版、だから、見えなくするだけで、音とか聞こえるし、触っても分かるから。

 しーっ、ね?しーっ。」


僕は唇に指を立てて注意する。

いっちゃんは、羽を立てて、嘴のあたりを覆うようにしてみせた。


「はい。しーっ、でございますね?」


うんうん。そうだよ。


僕は音を立てないように戸を開けると、素早く外に出てから、また静かに戸を閉めた。

近くに人の気配はしないけど。

音って案外、遠くまで響いたりするから。


平原の民の耳は、格別いい、かどうかは分からないけど。

なんにしても、用心しとくに越したことはない。


廊下は静まりかえっていた。

この辺りは、彼らの居住域、からは、少し離れているんだろう。

食べ物のゴミなんかは、落ちてなかった。


雑然とそのあたりに散らかっているのは、壊された魔法装置や、引き裂かれた書物の類。

これは、襲撃を受けたときに、壊された物かな。

保管庫の中が比較的無事だったのは、鍵がかかっていたからだろうか。

それとも、もしかしたら、棚と棚との間の間隔が狭くて、わざわざ中の物を引き出してぶちまける、というのが、かえって面倒だったからかもしれない。

棚ごとひっくり返そうにも、他の棚につっかえて、ひっくり返せないし。

壊すのが面倒なくらい詰め込めるの、って、平原の民のすごい技かも。


平原の民って、みっちり、物を詰め込むのが、得意なんだよなあ。

あの保管庫の棚も、きっと、平原の民の研究員が詰め込んだんだと思う。

入口近くのいくつかは、引っ張り出して、箱を開けたりしてあったけど。

箱の中から箱が出てきたり、とかしたもんだから。

きっと、もう、面倒になって、奥のは手をつけなかったんだ。


もっとも、そのおかげで、いっちゃん、が僕に気付いてくれたわけだし。

何がどう作用するのか、世界って不思議だよね。


襲撃を受けたとき、たくさんの魔法装置や調度の類は、みんな打ち壊されてしまった。

だけど、エエルを取り込む大きな風車と、そのエエルを分解する装置は壊せなかった。

それから、壁に沿って這わせてあるエエルを送る糸のことも、多分、ここを襲撃した人たちは気付かなくて、壊せなかった。


そのおかげで、今も、研究院の中は、エエルの安定を保っている。

強力に安定したエエルは、外からのエエルの侵入を拒み、結果的に、ここには、野良アニマの木や、疑似アマンは、入り込めなかった。


王城のほうは、そうはいかずに、まあ、いろいろと瘴気の園になったりもして、大変だったわけだけど。

王城から逃走した王とその軍勢は、戻ってきたとき、王城には行かずに、この研究院を本拠地にすることにしたのかもしれない。

こっちのほうが、居心地いいから。


だけど、彼らのその居心地を守ってるのは、彼らの毛嫌いしている魔法だ。

壊そうとしたけど壊しきれなかったものが、助けになるなんて、奇妙なものだ。


王城も、レグルスを救出してから、いろいろと、整備はされてるはずなんだけど。

まあ、けっこう、怖い思いをしたらしいから、あっちには近付きたくなかったのかも。


整備してた特命隊の人たちも、王が戻ってからは、王都を去ってしまったみたいだ。

そんなこんなあって、あっちはあんな、廃墟みたいになってしまったのかな。


エエルの多い場所は、人以外の生き物にとっても、生きやすい場所だ。

ことに、森の木々にとっては、エエルが多ければ多いほど、ぐんぐん成長し、大きくなれる。

だから、世界が森に侵略されてる、なんて、思われちゃうのかもしれない。


人の棲まなくなった王城も、だから、すっかり森と化してしまってる。

それで、遺跡みたいに見えてしまうんだ。

まるで、森に埋もれた古代のお城、みたいに。


まだ、ここは人の大勢棲む王都だし。

あの王城はその都の真ん中にあるわけだけど。

それなのに、遺跡に見えちゃうなんて…

森の力がすごい、っていうことなのかもしれないけど。

そんな森の力を見た平原の民が、森を怖い、って思ってしまったのかな…


平原の民と僕らとは、物の感じかたも、考えかたも、違う。

結局は、異種族同士は、相容れない、ということかもしれないな…


なんだか、少し、悲しい気持ちになってきた。


「隣の部屋も解錠しますか?」


いっちゃんの声に我に返った。

いけないいけない。

また、ぴぴぴ、と鳴らされるところだった。


「うん。よろしく。」


僕は務めて明るく言った。







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