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もう一つの楽園  作者: 村野夜市


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青い鳥は銀色の箱から飛び立つと、僕の目の前まで飛んできて、びしっ、とその嘴を僕にむけた。


「シヨウシャノ、ヨウボウニヨリ、ヘンカヲ、カンリョウシマシタ。」


しゃべり方も元に戻っちゃってる。


「あのさ。

 しゃべり方だけは、さっきのままのほうがいいかなあ。

 あ。できたら、声は、青い鳥さんのその声で。」


なんとも、その無機質な話し方は聞き取りにくいんだ。

だけど、ブブの声で話されるのは、やっぱりちょっと…


青い鳥はくりっと首を傾げた。


「チチ…ソノヨウキュウハ、トテモ、ナンカイ…ナンカイ…ナンカイ…チチチチチ…」


青い鳥は、困ったみたいにしばらく、チチチチチ、と鳴いていたけれど、突然、また流暢に話し始めた。


「はじめまして。わたしは青い鳥。あなたの心を癒します。」


わお。


はじめまして、って、さっきからもうけっこう話してたじゃない、なんて、余計なことは、言わずにおこう。


「わたしは、大変ご多忙な所長様を補佐し、みなさんの些末な問題の解決を計るため、導入を計画されました。実験一号機、です。

 わたしの本体は、研究院の奥深く、誰も知らない秘密の場所にあり、今も、人知れず、データの収拾及び蓄積を続けております。

 しかし、本体はあまりに重く大きく、移動にはむかないため、その目と耳を切り離し、研究院中に配置されています。

 それが、その銀色の箱。末端端末、とお呼びください。」


うん。それ、さっきも聞いた。

もしかして、まさか、自己紹介から、やり直し?


「わたしは、その末端端末の栄えある一号機!

 そして、末端端末は、百号機までございます。」


へえ~、百個もあるんだ。

って、なんだか、一号機、ってとこ、ちょっと誇らし気。


「わたしには、研究院の職員の出身地、家族構成、経歴、趣味、嗜好、最近の口癖に至るまで、ありとあらゆる、データの蓄積があります。

 それを駆使して、みなさんの心身の健康に気を配るのが、わたしに与えられた崇高なる使命。」


同じこと、さっきも聞いたんだけどさ。

なんだろう、ちょっと、話し方が違うというか。

さっきのは、性格、ブブに寄せてあったのかもしれないな。


「その上、わたしには、この研究院のありとあらゆる研究の記録も蓄積されております。

 どうぞ、なんなりとお申し付けくださいませ。」


片方の羽を胸のところに当てて、ちょっと気取ったお辞儀をする。

なんだか、人くさいけど、妙にそれが似合ってもいる。


「えーと、あの、青い鳥さん?」


「敬称は不要です。」


「あ。っと、青い鳥?」


「青い鳥は、わたしの他にあと九十九体あります。

 他との識別のためにも、青い鳥一号機、と、お呼びください。」


「あ、青い鳥いちごうき…」


青い鳥さん、より長いじゃないか。


「…なんか、呼びにくいな…」


「では、お好きな愛称を。

 あおちゃん、でも、とりちゃん、でも、一号機ちゃん、でも…」


さん、はいらないけど、ちゃん、はいいのね?

そしてやっぱり、一号機、ってのには、こだわりあるんだ?


「じゃあ、一号機の、イチ、ってのは?」


「イチ?

 ほう。

 ステキナナマエデスネ!

 イチ!

 イッチャン!

 ワオ!ブラボー!!」


なんだか、喜んでるみたいに、辺りを飛び回った。

気に入ってくれたのかな。

そして、やっぱり、ちゃん、はつけたほうがいいのね?


「じゃあ、いっちゃん。

 ところでさ、早速、君に尋ねたいんだけど。」


「なんなりと。

 眠れない夜の対処法でも、気持ちの上がる食事法でも…

 なんなら、羊を数えろ、というご要望にも、お答えいたします。

 ええ、いつまでも、数え続けましょうとも。

 末端端末に、飽きる、などという言葉は無縁でございます。」


そのまま羊を数えだしそうになったいっちゃんを、僕は慌てて引き戻した。


「いや、それよりさ。

 君には、百体のお仲間がいるんだよね?

 だったら、今のこの研究院の状況とか、分かるかな?」


「チチ…シバラクオマチクダサイ…チチチチチ…

 イチゴウキ、イガイノ、キュウジュウキュウタイハ、ゲンザイ、カドウ、シテオリマセン…

 カドウカノウナ、キタイヲ、ケンサクシマス…チチチチチ」


少し難しい要望をすると、あの無表情な話し方に戻ってしまうみたい。


「チチチチチ…ツウシン、フノウ…

 ツウシン、フノウ…

 ハンノウガ、アリマセン…」


え?


「まさか、全部、もう、壊されちゃってるとか?」


「それは、分かりません。

 もしかしたら、わたしのように、封印箱に収められている可能性もあります。」


封印箱?


僕は、傍らに放り出されていた箱を見た。

そっか。

箱の中に箱を入れてあったって、思ったけど。

これって、封印の箱だったんだ。


「崇高なる目的のために作られたわたしたちなのに。

 このように、封印される定めとは。

 あまりにゴムタイな…」


よよよよよ、といっちゃんは泣き崩れる、真似をする。

いろいろと、その…余計な機能…いや。

君を作った人、の趣味って、面白いね?


「じゃあ、可能なら、その仲間たちも、箱から解放していこう。」


僕は封印箱を手に取ってよく調べた。

箱には紋章が描かれていて、それが、封印の役目を果たしていたんじゃないかと思う。

だけど、箱自体は、普通の箱で、何か特殊な構造をしているわけじゃなさそうだ。

そもそも、ここのだって、開けたまま放り出されてたわけだし。


箱に閉じ込められた百体の青い鳥の仲間たち。

それを解放できたら、もしかしたら、すごく頼りになるんじゃないかって、思うんだ。


ちょっと、いろいろと絶望しかかってたんだけどさ。

もしかしたら、なんとかなるかも、って希望がわいてきたよ。


そういえば、青い鳥ってのは、幸運を運んでくるんだ、って話しをどこかで聞いたことがある。


「流石は、青い鳥だね。」


「チチチチチ…

 わたしは、いっちゃん!

 青い鳥、ではございません。」


ちっちっちっち、と指を振って、訂正する。

いっちゃん、って呼ばれるの、そんなに気に入ったらしい。


「じゃあさ、いっちゃん、道案内を、お願いできるかな?」


「了解しました。

 あ、移動なさるなら、その末端端末は、ご携帯ください。

 端末から、一定の距離以上を離れると、わたしは出現不可能になります。」


「了解。」


僕は銀色の箱を懐に押し込むと、腰を上げた。

いっちゃんは、その僕の肩に、当然、みたいな顔をして、とまった。


「じゃあ、行こうか。」


「了解。」


そうして、僕らはまた一歩、踏み出したんだ。










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