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びっくりしたのと、嬉しいのと、それから、わけの分からないいろいろな感情が、一度にどっと溢れてきて、僕はただただ、混乱した。
「ブブ?
ブブなの?
ブブ!
消えたんじゃなかったんだ!」
僕は、幻のブブにむかって、何回も名前を呼んだ。
幻の像に手を触れることはできないって、頭じゃ分かってるのに、ブブを捕まえようと手を伸ばした。
「ブブ!
あんなふうに突然消えて、すごく心配したんだ。
その姿に戻ってしまったのは、もしかして、エエルが足りてないから、とか?
なら、僕のエエルをあげる。
いくらでも、吸い取ってよ。
いや、そんなことは、いいや。
なんの姿をしていてもいいよ。
君が戻ってきてくれるなんて。
こんな嬉しいことはない!」
ずっと、失ってばかりだった。
なのに、戻ってきた友だちに、僕は有頂天になった。
「ねえ、ブブ。
お願いだから、もうあんな無茶はしないで。
もちろん、君が、とても大切なことのために、君の力を使ったんだ、ってことは分かってる。
だけど。
どんなに大切なことだとしても、君の存在と引き換えになんか、したくないんだ。
そうならないための方法を、僕も一緒に考えるから。
だから、お願いだから、もういなくならないで。」
僕は無力で非力な役立たずだけど。
何もできないまま、大切な人たちが去っていく。
それにはもう、耐えられないんだ。
たとえ、なんの力もないとしても。
大切な人のためなら、知恵も力もふり絞るから。
だから、お願いだから、僕も、君の考えの中に入れてほしいんだ。
僕は必死に訴えかけた。
もう僕の中にある気持ちのすべてを込めて。
すると、ブブの声は、少し申し訳なさそうに言った。
「あるじさま。
この装置はね、あるじさま自身の記憶や、この研究院に残されていた記録を走査して、今のこの僕の像を作っているんだ。
だから、僕は、あるじさまのよく知っている、本物の僕、ではありません。
ごめんなさい。」
途中から、僕は、凍り付いたみたいになって、伸ばしかけた手をすごすごと下ろしていた。
無力感が僕の全身に行き渡る。
戻ってきた希望は幻だった。
ほんの一瞬、僕のなかに湧いた、と思った勇気や力も、さらさらと崩れて、そのまま消滅していった。
………うん。
それは、言われなくても、分かった。
だって、ブブは、そんなに流暢にはしゃべらない。
君は、本物のブブじゃない。
ブブは、戻ってきたんじゃ、なかったんだ。
僕の耳の中を、彼の言葉は素通りしていった。
「この装置は、故郷を遠く離れて家族に会えないみんなの心の不調を癒すために考えられたんだけれど…
こんな装置じゃ、人の心は癒せない。
むしろ、悪化させる恐れもある。
そう判断されて、実際に使われることはないまま、封印されていました。」
そうか。
だから、こんな保管庫にあったんだね。
確かに、これは、よくない、かもしれない。
一度手に入れた、と思った希望は、再度打ち砕かれると、手に入る前より辛い。
「僕の正体は、研究院の所長代理装置。
多忙な所長に代わって、さまざまな問題の処理を行うために開発されていました。
その銀色の箱は、本体の、いわば、目や耳となる、末端の端末装置です。
職員の、精神的、肉体的疲労を発見し、本体に報告するという役目を負っていました。」
さっきあのあの、ぴぴっ、ぴぴっ、ってのは、つまり僕の疲労を発見した、ってことなのかな。
そういえば、さっきは少し、落ち込みかけていた。
それを感知した、ってわけか。
「あなたに嘘は通用しない。
だから、全部、本当のことを言いました。」
ブブ、もどき?、は、凛とした声で言った。
ぶぶぶぶぶ、と飛んでるブブの像は、小さな虫の姿だけれど、その目は、真っ直ぐに僕を見ているような気がした。
「僕は、あなたの本物の使い魔ではありません。
けれど、研究院の職員の力となるために、僕は作られました。
実際に使用されたことは、残念なことに、一度もありませんけれど。
もしも、可能なら、今、あなたの役に立ちたいのです。」
ぺこり、とブブの像がお辞儀をした。
虫だったころのブブって、言葉は話さなかったし、ちょっと何考えてるのかよく分からない感じだった。
もちろん、お辞儀なんかもしなかったと思う。
だからもう、このブブは、全然、本物のブブとは違ってて、なのに、ブブの声と姿をしていて、なんだか妙な感じ、なんだけど。
なぜだろう。
ブブの姿だからなのかな。
やっぱり、嫌い、だとは思えなかった。
「所長は、いつも研究院全体に気を配っておられました。
職員ひとりひとりに寄り添い、抱えている問題を解決しようとしていらっしゃいました。
けれど、その仕事は膨大な量であり、とても所長おひとりに抱えきれるものではありませんでした。
そこで、その所長の仕事を、少しでも軽減させるために、この装置は計画されました。」
ブブ、もどき?の解説は続いていた。
それは、なんだか、僕のことを、説得しているみたいでもあった。
その姿は、さっきの僕自身の姿にも、似ていると思った。
「装置の中には、職員全員の志向や経歴、ありとあらゆる情報が記録されています。
僕はそれを元に、最適と思われる回答をいたします。
それ以外にも、装置には、この研究院で行われていたありとあらゆる研究の記録もあります。
つまり、僕は、この研究院に蓄積された研究の記録を取り出す窓口としての機能も果たせます。」
だから、連れて行け、って言いたいのかな。
べつに、僕は、君のことを、連れて行かない、とも、嫌いだ、とも言ってないのに。
なんだろう、これは。
親に置いて行かれた獣の仔が、必死に後をついてくる、みたいな。
なんだか、そんな感じ。
僕は、君の気持がよく分かるよ。
だから、そんなに必死にならなくても大丈夫。
「えっと。あの。
ブブ?もどき、さん?
いや、もどき、ってのはよくないな。」
なんにせよ、もどき、呼ばわりは、相手に失礼だ。
「君は、ブブの真似をしてるけど、ブブじゃない。
それはもう、僕も分かってるわけだし。
だったら、もう、ブブの真似なんか、しなくてもよくない?」
ブブ(幻)はゆっくりと首を傾げた。
それから、僕の言ったことの意味を考えてるみたいに、しばらく黙った。
「僕も、君はその姿じゃないほうがいい。
だって、その姿をしていたら、どうしたって、君のことを、ブブみたいに思ってしまうから。
もしも、姿を変える、ことが可能なら、変えてほしい。
というか、君、本来の姿、って、ないの?」
「ホンライノスガタ…」
ブブ(幻)は、ちょっとあの青い鳥みたいな口調になって呟いた。
それを聞いて、あ、っと思った。
「そうだ。あの、青い鳥。あれじゃ、ダメなの?」
「ア、ア、ア、アオイトリ…」
青い鳥、と繰り返しながら、ブブの幻はゆらゆらと揺れた。
そうして、それは、ゆっくりと、あの最初の青い鳥の姿へと変わっていった。




