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いきなり王様の前に連れて行かれることはなくて、僕は、ひとりだけ、保管庫に閉じ込められた。
まあ、王様にだって、都合ってものもあるだろうし、待ち時間は仕方ないか。
ルクスなんて、最初は、会うのに七日とか、かかったもんね。
研究院には、牢屋なんて設備はない。
基本的に、研究室にも、鍵はないんだけど。
いくつか、危険な物を保管してある場所には、安全のために鍵をつけてあった。
間違って使って、怪我とかしたらいけないからだ。
僕の閉じ込められたのも、そういう部屋だった。
チビ勇者はそのままどこかに連れて行かれたみたいだ。
ちょっと心配だけど、仕方ない。
まさか、一緒に閉じ込めてもらうわけにもいかないし。
あの子なら大丈夫だとは思うんだけど。
さっきのあの緊張の具合だと、そうそう安心もしていられない。
傍にいてあげたいけど。
僕は捕虜だし、彼はその捕虜を捕まえた英雄だ。
僕らは立場が違うんだ。
部屋の中は外よりずっときれいだった。
使い途の分からないものがぎっしり詰め込まれた部屋だから。
わざわざ入ってみなかったのかも。
鍵のかかる便利な部屋、くらいに思ったのかもね。
いくつか、箱を開けて調べた跡もあったけど、中身は適当にその辺に放り出してあった。
その中に、なんだか銀色の四角い箱があった。
箱の中に箱が入ってた?
ちょうど、手の中にすっぽり収まるくらいの大きさ。
手に取ってそれを眺めてみたけど。
これは…、なんだろう?よく分からないな…
研究院にいたころ、僕は、ほとんどドワーフ工房に入り浸っていて、他の場所にはあまり行かなかった。
アルボルが生まれてからは、人化計画をやってた大きな研究室にもいたけど、そこにいたころは、ほとんど毎日、アルボルと遊んでばっかりいて、やっぱり、他の人の研究とか、あんまり見てなかった。
だから、匠たち以外の研究員が、何をしていたのか、イマイチ、よく分かってない。
エエルを使ってこの世界の暮らしをよりよくする研究、って、ざっくりと思ってただけ。
魔法の研究をする人たちもいれば、ひたすらにエエルの量の増減や、波を計ってた人たちもいた。エエルを種類毎に仕分けるなんてことをやってた人たちもいた。
その人たちの研究って、なんというか、毎日同じことの繰り返しで、並んだ文字をひたすらに毎日見比べていたように思う。
残念なことに、僕には、その文字の意味や、彼らの探していたものは、よく分からなかった。
ソクテイキ、とか、カンチキ、とか、彼らの呼んでいた物も、使い途も使い方も、さっぱり分からなかった。
ただ、彼らがコツコツと積み上げたその先に、魔法で合成された服や、安全に浄化された飲み水なんかがあって、そうしてそれは、王都の民に分け隔てなく、支給されていたんだ。
そう。
王様だったルクスは、民から税は取り立てなかった。
むしろ、研究院で作った物を、みんなに配っていた。
そのお礼に、畑の作物や狩の獲物を持ってきてくれる民も多かったらしいけど。
お礼をもらったら、お礼のお礼もしてたそうだ。
ルクスたちが蜂起軍として、初めて王都に入ったとき。
たくさんの王都の民が、ルクスたちに、食糧や休むところを提供して、助けてくれたんだそうだ。
だから、王様になったルクスは、その恩返しをしようとしたらしい。
ルクスはいい王様だったのかどうかは、僕には分からない。
王様やってたルクスのことは、正直、僕は苦手だった。
だけど、初めて王都にきたとき、明るくて賑やかで、そこに棲む人たちはみんな幸せそうに見えた。
結局、その幸せな王都を壊してしまったのは、僕なんだ。
僕のせいで、世界にエエルは溢れて、そうして、いろいろとうまくいかなくなった。
それは、間違いのない事実だ。
ルクスもアルテミシアも、そのことで僕を責めることはしなかったけど。
ルクスが王様じゃなくなったのも、元はといえば、それが原因だ。
世界が森に埋め尽くされたのも。
そのせいで、森の民が、平原の民に恨まれているのも。
みんな、僕のせいなんだ。
アルテミシアも、ブブも、大精霊も、いなくなってしまった。
オルニスだって、今どこにいるのか分からない。
ルクスたちも、また、戦わなくちゃいけないかもしれない。
それも、みんなみんな、僕のせいなんだ。
そして、世界には、また、恨みや憎しみが、溢れようとしている…
僕がもっとちゃんと、エエルの制御とか、分かってたら、よかった。
ただただ、バカみたいに、増やし続けた。
そのときは、それが一番いいって、信じて疑わなかった。
もう少し、本当にそれがいいのか、ちゃんと考えればよかった。
僕は、外の世界もほとんど見ないで。
ピサンリに守られたあの居心地のいい場所で。
ただただ、自分の思い込みだけで…
ぴぴっ。
ぴぴっ。ぴぴっ。
ぴぴっ。ぴぴっ。ぴぴっ。
突然、奇妙な音がし始めて、僕は、辺りを見回した。
なんの音?
ぴぴっ。
ぴぴっ。ぴぴっ。
ぴぴっ。ぴぴっ。ぴぴっ。
音のもとを辿ったら、どうやら、さっき放り出した銀色の箱から聞こえていた。
僕は、箱を手に取って、確かめようと持ち上げた。
そのときだった。
箱の上面に、いきなり幻の鳥が現れた。
記憶装置から出てくるみたいな、手を触れることのできない幻の鳥だ。
びっくりして箱ごと取り落としたら、鳥は、ぴぴっ、と鳴いた。
「フノオーラ、ケンチ。
フノオーラ、ケンチ。
ハッセイモトヲ、タンチシマス。」
いったい、何事?
いや、この鳥、人の言葉、話してる?
にしては、何言ってんのか、よく分からない。
けど、鳥の鳴き声とは絶対に違う。
掌に収まるくらいの小さな青い鳥は、あまり鳥らしくない仕草で、その場でくるくる回った。
と思ったら、いきなり、僕のほうにその小さな嘴をむけて、ぴしり、と止まった。
「ハッセイモトヲ、ハッケン。
オーラ、タンチ。
フノオーラ、カクニンシマシタ。」
いやいやいや、なになになに?
もうちょっと、僕にも分かるように言って?
「タイショホウ、ケンサクシマス。
ケンサクチュウ…ケンサクチュウ…ケンサクチュウ…」
僕は思い切ってあの箱をもう一度取り上げた。
鳥はまたくるくる回って、僕にその嘴をびしっとむけて止まる。
僕は、その鳥にむかって言った。
「ねえ、君は、誰?
さっきから、いったい何を、言ってるの?」
「…ワタシハ、ショチョウダイリ、シサクイチゴウキ、オーラケンチソウチ…
ショインノ、ミナサマノ、セイシンテキ、シンタイテキ、フチョウヲ、チョウサイタシマス…
リャクシテ、青い鳥。」
何をどう略すれば、青い鳥、になるのかはさっぱり分からなかったけど、この鳥が、青い鳥だ、ってことだけは、なんとなく分かった。
「ねえ、青い鳥?
君はいったい、何者?」
どうやら、研究院に残されていた何かの装置らしい、ということくらいは、分かるんだけど…
鳥は僕の質問なんかきれいに無視して、続けて言った。
「タイショホウ、ケンサクカンリョウ。
ショジジョウヲコウリョシ、サイダイコウリツノミコメルキュウエンシャヲ、ショウカンシマス。」
?????
「あの、もうちょっと、分かるように…」
青い鳥は言いたいことだけ言って、さっさと消えてしまった。
そして、その場所から、小さな羽音が聞こえてきた。
ぶぶ、ぶぶぶぶぶ…
「あるじさま!」
青い鳥に替わって現れたモノに、僕は息を呑んだ。
それは、手を触れることはできない、幻の姿だったけれど。
出会ったころの、小さな小さな虫の姿だったけれど。
そこから聞こえてきたのは、懐かしい、ブブの声だった。




