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魔法通路の先が開いていたのは、王都の研究院の前だった。
なかなか、ばっちり、じゃない?
王城はすぐ隣だ。
まあ、すぐ、ってほど近くじゃないけど。
王都は相変わらず森に覆われていて、人通りは少ない。
ここは王都の中でも、一番、と言っていいくらい賑やかなはずの通りなのに、誰も歩いていなかった。
歩けないほど道が木に覆い尽くされているわけじゃない。
というか、前に比べたら、この辺りのアニマの木はずいぶん整理されている。
確かに、疑似アマンが怖いから、外にあまり出ない、というのは、前からあったけど。
王都の各家庭には飛行円盤が配られていて、それに案内してもらえば、疑似アマンも避けて、ついでに、目的の場所まで最短で連れて行ってくれるはず。
使い方も周知してあったし、以前はそれなりに飛行円盤を使って行き来する人通りもあったんだ。
隊長さんたちの特命隊も、何より王都のアニマの木の整備を急いだはずだし。
今頃はきっと、賑やかさを取り戻している、と思ってたんだけど。
思ってたのとは違う感じだった。
遠目に王城を眺めてみた。
前来たときは、どろどろの瘴気に覆われていた王城だったけど。
今はすっきり、瘴気も晴れて、いい感じの遺跡みたいに…
う、ん?遺跡?
確かに、王城は古い建物には違いないけど、廃墟じゃない。
今も現役で使われている建物なはずなのに…
なんで、遺跡っぽいんだ?
もうちょっと近付いてみよう。
歩き出すと、ロープの端を持ったまま、チビ勇者もついてきた。
いや、これ、逆じゃないとまずいんじゃない?とちょっと思った。
「君が僕を連行しているわけだから。
もっとちゃんと、先に歩いて、引っ張ってくれなきゃ?」
「あ。はい。」
チビ勇者は慌てて僕の前に行ったけど、そこで振り返って僕に聞いた。
「それで、どこに行くの?」
………。
「とりあえずさ、王城の王様のところでしょ?
君はこれから僕を、王様に突き出すんだ。
そうして、ご褒美をもらうんだよ?」
「…そうだった…」
大丈夫かな、この勇者。
君がしっかりしてくれなきゃ、困るんだからね?
むっとにらんだら、チビ勇者は恐る恐る言い返した。
「だけど、あのお城、誰もいない、ような…」
「だよね?
うん。僕もそう思う。
だからさ、まずそれを確かめてみよう、って。」
「…分かった。」
ようやくチビ勇者は歩き出した。
やれやれ。ちゃんとしてよね?
歩きだしながら、ふと、通りすがりの研究院の建物を眺めた。
「あれ。
明かりがついてる。」
思わず立ち止まったら、びんっ、ってロープが引っ張られて、チビ勇者も慌てて立ち止まった。
僕はそのまま、研究院の建物を観察した。
王城と研究院とは、確か、どっちも同じくらい古い建物だったはずだ。
だけど、こっちは、しっかり明かりがついていて、遺跡には見えない。
そう思ってから、もう一度、王城を見ると、あっちはあきらかに、遺跡…いや、廃墟?
確か、研究院は襲撃を受けてから、無人になっていたはずだ。
そこで働いていた人たちも全員、ばらばらになってしまった。
まさか、みんな戻ってきた?
僕はロープの端をびんびんと引っ張ってチビ勇者に合図した。
「ねえ。
こっちには、人がいる。」
僕が研究院を見上げてみせたら、チビ勇者は、ほう、と感心したみたいに叫んだ。
「確かに。」
そのときだった。
研究院の門から、槍を持った兵士たちがわらわらと現れて、僕らを包囲した。
この人たちは、研究院に務める兵士?
研究者の護衛か何かとか?
いや、前はそういう人たちはいなかったけど。
なんにしても、たくさんの槍先をこっちにむけられて、ちょっと、いや、かなりイヤだ。
「止まれ。」
いや、言われなくても止まってますけど。
「何者か。」
誰何する兵士たちに答えるのはチビ勇者の役目なはずなんだけど。
ちらりとそっちを見たら、一斉にこっちにむけられた槍先に怯えた目をして、そのまま固まっていた。
仕方ないなあ、もう。
「この人に捕まって、連れてこられたんだよ。」
僕は、チビ勇者を顎で示してみせる。
わざとちょっと憎たらし気に見えるように。
そうしたら、兵士のひとりが、チビ勇者の手に持ったロープの端をいきなり奪いとった。
「そうか。ご苦労。」
のわりに、チビ勇者に対してその威圧的な態度は、なに?
「…あ、その…」
チビ勇者はすっかり萎縮してて、もごもごと口のなかで何か言った。
ちょっと、それじゃあ、森の民を捕まえた人!には、見えなさすぎるよ?
もうちょっと、強そうにしてよ。
「なんか、王様のところへ行けば、ゴホウビ?もらえるんだって?」
仕方ないから、僕の方が、もっと憎たらしく見えるようにする。
ちょっとね?僕だってね?こういうお芝居は、得意じゃないんだよ?
「ふん。こざかしい森の民め。
さっさと歩け!」
ロープを取り上げた兵士は、そう言って、僕を小突いた。
さっきは止まれって言ったくせに。
僕は、軽く肩をすくめてみせてから、ちらっとチビ勇者を見る。
いいから、ちゃんと、ついてくるんだよ?
視線で念を押したら、チビ勇者は、慌てたみたいに、何回も頷いた。
だから、うん、は一回でいい、って。
そんなに、何回も頷いたりしたら、相手に気付かれるでしょ?
なんとも頼りないチビ勇者とふたり、連行されていく。
なんだか不安でいっぱいなんだけど。
始めてしまったからには、もう、前に進むしかない。
いざとなったら、ステルステント(仮)、は、こんなふうに囲まれてたら、使えないな…
まあ、チャンスを伺うとするか。
僕はせいぜい間抜けな森の民のふりをして、連行されることにした。
敵、には、なるべく、バカだと思われてるほうが、何かと便利だ。
もっとも、実際にも、それほど僕が、賢い、わけではない、というのは、残念だけど。
こんなことなら、もう少し、ルクスから、戦術?とか、習っとくんだったなあ。
と、後悔するのは、いつも後の祭り。
困ってみないと、必要性を感じないんだから、仕方ないか。




