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だけど、僕が行くなら、最初からもう、こっそりは、なし、だよ。
どのみち、チビ勇者も僕も、そういうのはむいてない。
「分かった。
なら、堂々と乗り込むとしよう。」
「堂々と乗り込む?」
チビ勇者が目を丸くする。
こんな顔を見られて、ちょっと嬉しい。
「せっかく、僕っていう森の民がいるんだから。
王様は、森の民を捕まえたら、ご褒美をくれる、って言ってるんでしょ?」
「ご、ほう、び?」
チビ勇者には、なんのことだか分からなかったらしい。
けど、ソフォラのほうは、にやっとした。
「なるほど。
捕虜のフリをするか。
もしも、使者が捕らえられているなら、王城の牢を探さねばならん。
ちょうどいい、な。」
「牢屋にこっそり忍び込むなんて、僕らふたりでできる気、しないからね。」
ステルステント(仮)は万能じゃない。
音は聞こえてしまうし、触ったら分かる。
扉の中に入るには、扉を開ける必要もあるし。
鍵開けとか、壁抜けとか、僕にはできない。
「ついでだから。
その王の顔も見ておこうと思って。」
ほんっとうに、つくづく、面倒なヤツだと思うんだよ。
どんなヤツだか、一度、顔、見ておかなくちゃ。
チビ勇者は、ぽっかり口を開いたまま、僕の顔をじっと見ていた。
「なに?」
「いえ。」
ちらっと見たら、慌てて口、閉じたけど。
開けっ放しだった口元のよだれ、拭いてたのを見ちゃった。
ふふっ。
所詮、おこさま、だね。
こともあろうに、その、おこさま、は僕にむかって言った。
「ただ…
大賢者様って、…、その…、ムボウな人、だね?」
はあ?
無謀、とか、意味分かってて言ってる?
「じゃあ、何か、他にいい策、あんの?」
「いえ。」
あるなら言ってみなよ、と睨んだら、急いで目を逸らせた。
「大賢者様の、言う通りに、します。」
「あ。その大賢者様、だけどさ。」
僕は調子に乗って、付け加えた。
「それ、いい加減、やめて。
そう呼ぶと、重要人物だ、って言いふらしてるみたいでしょ?」
いや、むしろ、あえて、重要でもないのに、重要人物のふりしてる、みたいでイヤなんだ。
僕見て誰も、こいつ、賢者だ、とか思わないでしょ?まったく。
でもそこまで言うとややこしいから、やめておく。
「笛使い。
そう呼んで。」
「分かった。
…笛使い…」
まあ、最近は、その笛も、あんまり使えないんだけどさ。
チビ勇者はちょっとつまらないくらい、あっさり頷いた。
「じゃあ、行こう。笛使い。」
「え?
もう、行くの?」
支度とか。準備とか。荷物とか…
「僕は、いつでも、このままで。」
チビ勇者は、けろっと言う。
その背中には、あの小さな弓を背負っていたけど。それだけだ。
水袋も、非常食もない。
腰につけた小さなポーチには、火打石と小刀くらいは入ってるのかな。
「笛使いが支度があるなら、待つ。」
「いや、僕だって、いつでも行けるけどさ。」
なんかそう言われると、むきになってしまう。
僕らは、荷物は少ないんだ。
荷物の多いのは、いつだって、君たち平原の民じゃないか。
「分かった。行こう。」
報告は、ソフォラに任せればいいや。
むしろ、直接言ったりしたら、また、ルクスにダメだとか言われて面倒だろうし。
「まずは、敵地の偵察だよ?
捕まった使者が無事かどうか確かめる。
救出までは、僕らには無理かもしれないから。
僕が無理だって判断したら、そこで諦めて帰ること。」
ピクニックに行く子どもに言い聞かせるみたいに、僕はチビ勇者に注意した。
チビ勇者は、いちいち真面目に頷いた。
「魔法通路は…」
少し考えてから、ため息を吐いた。
うん。できるよね。
この間から、さんざん、目の前で通路を開いてもらってたからさ。
やり方は、見ていた。
あれなら、真似、できると思う。
「分かった。
僕が開くよ。」
開くように頼んだりしたら、また…、以下略。
そう。行って帰るだけなら、そんなに大したことなさそうなんだ、実際。うん。
行って、帰る、だけならね。
「無理はだめだよ?
無理は。」
僕はもう一度、チビ勇者に念を押した。
チビ勇者は、うんうん、と何回も頷いてみせた。
ふん。返事は、一回でいいんだよ。
僕は、自分の腕の周りに、指先で、何回かぐるぐると輪を描いた。
するとそこに幻の縄が出現して、僕は、両手をぐるぐる巻きにされている姿になる。
その縄の先をチビ勇者に持たせる。
チビ勇者は、ちゃんと縄を持った、という感触に、ぎょっとした顔をした。
「大丈夫。
本当に縛ってはいないから。
でも、ちゃんと持っておいてね。」
君がお芝居してくれないと、困るんだよ?
本当に、大丈夫かな…
僕はため息を吐きかけたけど。
まあ、いいや。
行くよ?
両手、先に縛っちゃったから、その両手ごと振り上げて、宙に円を描いた。
円は真ん中から、両開きの扉みたいに、ぱっくりと両側に開く。
まあ、ちょっと、違う感じもするけど。
こんなもんでしょ。
僕が扉の中へ踏み込むと、チビ勇者はしっかりと綱の先を持ったまま、ついてきた。




