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もう一つの楽園  作者: 村野夜市


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チビ勇者と僕の奇妙な鬼ごっこは、行軍の間、ずっと続いた。

僕も、本気で逃げたければ、ステルステント(仮)を使えばいいんだけど。

何故か、その手は、それほど使わなかった。

それにしても、チビ勇者の尾行は、なかなか上達しなくて、いっつも、うっすら気配には気付いていたけど。

だんだん、僕のほうがそれに慣れて、半分諦めたみたいな感じになっていた。


王との話し合いは、なかなか進展しないようだった。

王はこの世界から、平原の民以外の種族を全部、排除しないといけないと思っている。

そんなことを、ちらりと、どこからか耳にした。

そんなの。無理に決まってるのに。

むしろ、そんなことを言えば、そういう王のほうこそ、排除されてしまうんじゃないかな。


どうすれば、いいのかな。

迷い込んだこの迷路に、もしかしたら出口なんかないかもしれない。

そんな暗鬱とした気持ちに、なっていた。


あるとき。

本陣がいつになくざわついていた。

朝から何人も出たり入ったりしているし、ルクスもフォルティスも、休憩もとらずに、ずっと誰かと会っている。

その人たちみんな、苦虫を噛み潰したみたいな顔をしているんだ。


事情を聞こうにも、なんとも話しかけ辛い。

聞いたところで、役に立てるとも思えないし。

居場所もなくもぞもぞしてたら、ソフォラが、こっそり教えてくれた。


「この間、王のところへ行った使者が、そのまま戻らんのじゃ。」


使者が?


「それで、フォルティスに、捜索に行ってもらえんか、という話しになっておる。」


捜索?


「その使者は、いったいどこへ…」


言ってる傍から、イヤな予感しかしない。


「王に捕まっておるのなら、まだよいがのう。」


ソフォラも首を振った。


「消息も不明。

 生死も不明。

 それを探しに行った者も戻らん。」


「探しに行った人まで?」


だからこそ、フォルティスに、行ってほしい、ってなってるのか。


「フォルティスは?なんて?」


「行くと言うておる。

 こういうときに、行かない、とは言わんお人じゃ。」


だよね?


「しかし、ルクス様がのう…」


「ルクスが?」


まさか、反対なの?


ルクスは誰かを見捨てるようなことはしないはずなのに。


「今、ここでフォルティスに抜けられるのは困る、と。」


そっか。

これだけの大部隊を動かすのに、フォルティスの力は必要なんだ。


「あちらに偵察に入るには、やはり、平原の民がよかろう、と。

 しかし、腕に覚えのない者を行かせるわけにもいかぬ。

 誰を行かせるか、その人選で、おふたりの意見が合わずに、話しは延々と堂々巡りをしておるのよ。」


「僕が行く。」


間髪入れずにそう言ったのはチビ勇者だった。

ソフォラも、僕も、驚いてチビ勇者を見た。


「僕が行きます。」


チビ勇者は、もう一度念を押すみたいに言った。


「僕は、平原の民だし。

 少しは、戦うことだって、できるよ。

 それに、今ここにいなくたって、困らないでしょ?」


なるほど、確かに、条件は揃ってる、か。


いやだけど。


「そなたには、荷が重かろう。」

「無理だよ。」


ソフォラと僕と同時に言っていた。


「敵地に侵入するんだよ?

 それが、どういうことか、ちゃんと分かって言ってる?」


僕は、なんだかちょっと柄にもなく、お説教口調になった。


「お使者の人がどうなったのか探って、居場所を見つけたら助け出せばいいんでしょ?

 大丈夫。

 やらないといけないことは、ちゃんと分かってる。」


チビ勇者は、簡単に言うけど。


「君は隠れて行動するのは、下手くそでしょ?

 そんなの、行かせられるもんか。」


僕にすら尾行に気付かれるくせに。


そしたら、なんとなんと、チビ勇者は、突拍子もないことを言い出した。


「じゃあ、一緒に来てよ。」


「は?」


「大賢者様の、ステルステントなら、見つからないでしょ?

 それに一緒にいてくれたら、僕が間違ってても、そう言えるでしょ?」


「え?」


………。

沈黙が流れる。

ソフォラが、こっちをじっと見た。


「大賢者様とふたりなら、大丈夫だよ。」


チビ勇者はダメ押しに言った。


そんなまさか、僕が行くの?

僕だって、腕に覚えなんか、ないよ?

あ。いや………

多少は、魔法も使えるけど………

どっちかってっと、治療とかそういうほうが得意で、魔法で戦うってのは………

まあ、やったことない、とは言わないけど………


「行ってもらえるかの?」


ソフォラは、ぐい、と僕に迫った。

もちろん、その言い方は、質問じゃなくて、確認だ。


僕は押し黙った。

もちろん、僕にできることがあるなら、なんだって、やるさ。

それが、ルクスを助けるんならなおさらだよ。


だけどね?

チビ勇者とふたりきり?

敵地に乗り込む?


そんなの無事に戻ってこられる気がしないんだけど。


チビ勇者がこっちを見ている。

曇りのない清んだ目をして。


う。やめてよ。ふたりして。

その視線、眩し過ぎるよ。


確かに、僕も、今ここにいなくても、誰も困らないよ。

それに、それが誰かのために必要だってんなら、やらないことはないよ。


「………分かったよ。」


気付いたら、そう言っていた。






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