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もう一つの楽園  作者: 村野夜市


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ルクスも、フォルティスも、ソフォラも、なんだかとっても忙しそうだ。

次から次へと、報告の人やら、新しく加わった部隊の隊長さんやらが、入れ替わり立ち代わりやってくる。

魔法を使えば、わざわざ来なくても、話せるみたいなんだけど。

なんだろうね?みんな、そういうとこだけは、直接話したい?みたいな?

なんのかんの言って、ルクスって、人気あるんだよね。

みんな、ルクスに会いたくて、わざわざ来るんだ。

それは、王様やってたときにも、よく思ってた。

多分、平原の民と一緒に蜂起したときにも、そうだったんじゃないかな。


で、そんなに忙しそうなルクスに、構ってくれ、とも言い難い。

もちろん、フォルティスやソフォラにも。

かと言って、鎧を着た人たちも、おっかないし。


というわけで、僕はこっそり本陣を脱け出して、ひとりで、森の中をうろうろしてた。


大部隊が一斉に移動するわけだから、部隊全体に、疑似アマンやら、獣の侵入やらを制御する魔法結界が作ってある。

だから、僕ごときがちょろちょろ歩いていても、問題はない。


あんまり遠くへ行くな、と、ルクスには釘を刺されたけど。

遠くに行こうったって、どこまで行っても、鎧さんがいるわけだし。

この鎧の波を踏破して、そのむこうへなんて、僕がひとりで行けるわけないよ。


鎧さんたちは、僕を見つけると、みんなものすごく丁寧に挨拶をしてくれる。

いや、そんな、大した者じゃないんです、本当に、って、毎度毎度言い訳するのも疲れちゃって、なるべく、鎧さんたちに見つからないように、僕は散歩をした。


だけど、いたるところに、鎧さんはいるからさ。

なんだか、こそこそ隠れて散歩する…のも、なんか、楽しいかも?

妙な遊びを見つけて、僕はひとり、ほけほけと遊んでた。


そうしたら。


いつの間にか、僕の後ろを、チビ勇者がついてきていた。


なんだい、君は?


僕がじっと見たら、さっと目を逸らせて、どこかへ行くんだけど。

振り返ったら、また、いる、んだよね。


最初は、たまたま、偶然かと思ったんだけど。

偶然にしては、しょっちゅう目が合う。


あれは、絶対に、僕の後をつけている。


確信した僕は、わざと、ステルステント(仮)を使ってみた。


突然、僕を見失ってきょろきょろするチビ勇者の後ろに回って、わっ!って、脅かしたら、腰をぬかさんばかりに驚いて、僕の顔をまじまじと見上げた。

チビ勇者の目尻に、ちょぼ、っと、涙みたいなのが浮かんでて、流石にこれは、少々、大人気なかったかな、って、反省した。


「なんでついてくるの?」


「………く、訓練?」


なんの訓練だよ。


「僕、気付いてたよ?

 気付かれてちゃ、訓練にならないんじゃないの?」


「……………。」


チビ勇者、黙る。


「僕さ。君とは、そんなに仲良く、なれないと思うんだよね…」


なんか、そういうこと言うのも大人気ないけど。


「お互いにさ、傍に行かない、というのが、うまくやるコツなんじゃないかな?」


適切な距離、っての?

そういうのって、大事だと思うんだ。


チビ勇者は、僕の顔をじっと見た。


「僕のこと、嫌い?」


そう聞かれて、嫌い、と答えられる人なんかいるのかな。

嫌いでも、嫌い、とは言いたくないものだよね。


「………。」


今度は僕が黙る番だった。


「どうして、君は、僕に構うの?」


答えられない質問には質問で返す。


「僕は、あなたが、嫌いじゃない。」


そして、ド直球の返答に、思わず息を呑む。


嫌いだから、襲ったんでしょう?

ずっと、ずっと、僕らを嫌ってたんだよね?


純粋なほどに凝り固まった悪意が、アルテミシアにあんな傷を負わせたんだ。


「ごめんなさい。」


チビ勇者は僕に謝った。


「許してもらえるまで、謝って償い続けるしかない。

 って、師匠は言ったんだ。」


その師匠、ってのは、フォルティスのことかな。


「僕の犯した罪は、もう消すことはできないけど。

 僕は、あなたに許してもらいたい。

 すぐには、無理だ、って師匠も言ってたけど…」


「君を見ると、傷が開く。

 痛みを思い出す。

 だから、君の顔はなるべく見たくないんだ。」


子どもに言うには、鋭すぎる言葉を僕は口にした。

チビ勇者は、びっくりしたみたいに、僕をじっと見ていた。


僕は、真っ直ぐに僕を見るチビ勇者から、先に目を逸らせた。


「…お願いだから。

 僕にもう、関わらないで。」


「それが、あなたの望みなら。」


チビ勇者は小さく呟いた。


「それも、僕にするべき償いだ、って、師匠は言うかも。」


いいお師匠様だ。君のこと、ちゃんと教え導いてくれてるんだね。


「分かったら、もう…」


「だから、訓練なんだ!」


は?


「あなたに見つからないように、あなたの後をついていく。」


「だから、見つかってるってば!」


思わず、言い方がきつくなった。


「ごめんなさい。」


チビ勇者はうなだれた。


「…僕、もっと、うまくなるよ?

 気付かれないように、なってみせる。」


それでも、呻くように、そう言い切った。


僕は、ため息を吐いた。

根比べなら、僕のほうが、不利そうだ。


なんだって、そんなに、頑固かなあ?

けど、それだけ意志が強い、ってことなのかも。

それも、勇者の資質?ってやつ?


「好きにしなよ。」


結局、それしか言えなかった。










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