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もう一つの楽園  作者: 村野夜市


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魔法通路を開いてもらって、僕はその郷を後にした。

次の郷までは一日。そしてまた、次へ一日。

新しい種族の郷を辿って、僕は、ルクスたちのいるところへと急いだ。

魔法通路の中は安全だし、雨や暑さ寒さの心配もない。

ただ、延々と歩くだけ。

郷に着けば、食糧や水の補給もしてもらえるし。

清潔なベットで、一晩ゆっくり休ませてもらえる。

ひとり旅でも、何の問題もなかった。


新しい種族の使いこなす、魔法、は、本当に不思議な技だ。

実は、僕らのご先祖様も、その、魔法、を使いこなしていたそうだけど。

僕らの時代には、魔法はすっかり失われてしまっていたし。

彼らの使いこなしている魔法を見ると、つくづく不思議としか思わない。


そう言ってみたら、何故だかすごく笑われたんだけど。


すべてのエエルの源である大賢者様が、何をおっしゃいます。


僕よりずっと立派な、郷の長、みたいな人はそう言って、丁寧にお辞儀をした。

今にもひざまずきそうだったけど、それをやらないのは、以前、さんざん、やめて、って言ったのが、ちゃんと伝わってたおかげかもしれない。

とにかく、なんとも丁寧に、頭を下げてくれたんだ。


そんなこと、ないのに。


エエルをもたらしたのは、大精霊だし。

大精霊を連れてきたのは、ヘルバだ。

僕は、ただ、その大精霊の力を世界にふりまいて…

そのせいで、大混乱になって、迷惑かけちゃって…

みんなの力を借りて、なんとかその後始末をしようとしてるんだけど…

それも、なんかうまくいかなくて、みんなを怒らせちゃってる…

改めて思い返しても、つくづく、とほほだな…


エエルの多い世界を喜んでくれた人たちはいた。

アルテミシアや匠や、研究院のみんな。

僕も、あのころは、これできっと世界はもっとよくなる、って思ってた。


だけど、それを受け容れられない人たちも、たくさんいるって知った。

彼らの怒りの前に、僕らの夢は、ぺしゃんこにつぶれてしまった。


はずだったけど。

僕らの知らないところで、それは、静かに進んでいた。

当たり前のように魔法を使いこなし、世界を豊かにする人たち。

彼らにとっては、魔法は、日常的に使う便利な道具だ。


つくづく、一番不思議なのは、この世界だ。


世界則の番人、というのが、この世界にはいるらしいけど。

その番人は、今のこの世界をどう思っているんだろう。


それとも。

もしかしたら。

この、第四の種族、の存在すら、世界則の番人の仕業なんだろうか?

…なんて。

まさかね。


今この世界にはエエルが溢れかえっているけど。

第四の種族は、とてもたくさんのエエルを使う。

彼らの使う魔法は、一度にたくさんのエエルを消費するんだ。

だけど、それでも、世界は困らない。

そのくらい、今、この世界にエエルは溢れちゃってる。

むしろ、たくさん使ってもらって、ちょうどいい?って感じ?


彼らの創っていく未来は、これからどうなるのか分からない。

だけど、今より、もう少し、みんなの暮らしやすい未来だといいと思う。


そうして、やがて僕は、ルクスたちと合流した。


フォルティスとソフォラ、チビ勇者も、一緒に来ていた。

ソフォラは、大昔、勇者と一緒に行軍した経験もあって、大軍の大移動に、何かと行き届いた助言をしているようだ。

チビ勇者は、本来なら、まだ軍勢に参加するには幼な過ぎる年齢だけど。

勇者の見習いとして勉強になるからと、連れてこられたらしかった。

確かに、チビ勇者の腕なら、足手まといにはならないだろうし。

勇者、になるからには、いろんな経験も必要かもしれない。


思ったより大勢の人たちが、既に集まっていた。

大軍勢、と言ってもいいくらいだ。

けれど、思ったほど、先には進んでいなかった。

まだ、最果ての村から、少し、こちらへ来たくらいのところだ。

王都からは、まだまだ遠かった。


一斉蜂起、の報は、第四の種族には一瞬で行き渡っていた。

あとは、行く道々、新しい部隊を巻き込みながら、進軍していくそうだ。

みんな、魔法でもっと速く、目的地に行くことだって、可能なんだけど。

わざわざそれをしないのは、じわじわと遠くから押し寄せる軍隊で、相手にプレッシャーを与えるためらしい。

なんだか、イヤな感じだなあって思ったけど。

それも、直接戦わないで済ませるための、作戦らしかった。


いろいろと心配したけど、ルクスもフォルティスも、やっぱり、戦いたいわけじゃなさそうだった。

だけど、それでも、こういう手段をとらないと、話し合いも難しいんだと思うと、悲しかった。


軍勢のみなさんも、ちょっと、見学しに行ってみた。

みんなやっぱり、鎧とか着て、兜とか被って、武器とか、手に持っている。

ちょっと他と違うのは、攻撃魔法を専門に戦う、っていう人たちも混ざっていること。

第四の種族には、そういう人たちもいるんだ。


それにしても。

物々しい、って言うんだろうか。

鎧兜の中身は、多分、きっと、気のいい人たちなんだろうけどさ。

それが分かってても、やっぱり、なんか、苦手だ。


僕を見ると、みんな、手に持った武器を振り上げて、おおお~、って雄叫びをあげた。

それって、挨拶?してくれてる?のかな?

まさか、僕を脅してるわけじゃない、はずなんだけど。

僕は、びっくりして、逃げ帰ってしまった。


やっぱり、苦手だ。こういうの。


戦いとか、早く、終わってほしい。

いや、そもそも、始まらないのがいい。

そのために、話し合い、のために、行軍を…


頭の中ぐるぐるして、どうしたって、そこでまた堂々巡りになるんだった。


少しずつ、少しずつ、軍勢は王都へと近付いていく。

魔法の道を使わないし、大人数の大移動だから、進める距離は、毎日、ほんのちょっぴり。

だけど、昨日より、今日、今日より、明日と、確実に、王都に近付いていった。


日暮れ前に野営の準備をする。

僕らは、本陣、というちょっと大き目のテントで休む。

そこには一晩中、いろんな人が出入りしていた。


ルクスとフォルティスは、木彫りの人形をたくさん作って、それで、毎晩のように、軍議?とやらをしていた。

実際に戦うつもりはないのに、そんなこと、する必要あるのかな?とかちょっと思うけど。

まあ、何事も、備えあれば?憂いなし?


偵察部隊、とかいう人たちもいて、平原の民の軍勢が、今どこにどのくらいいるのか、という情報も事細かに伝えてくれるんだそうだ。

そしたら、ルクスたちは、また木彫りを並べ直して、ああでもない、こうでもない、と話し合うんだ。


横で聞いていると、あちら側の情報は、完全に筒抜けで、それを受けたこちら側の作戦は、完璧、なように思えた。

僕には、戦いのこととか、あんまりよく分からないけど。

そんな僕にも、情報を集める能力も、それに対抗する力も、確かに、圧倒的にこちら側の方が勝っているように思えた。

たとえ、なにか不利な条件が見つかっても、即座に臨機応変に変化して、弱点を克服していく。

ルクスも、フォルクスも、次から次へと軍略を思い付く天才だった。


抵抗しても、意味はない。

だから、どうか、抵抗はせずに、話し合いを受けてほしい。

だけど、受けるかどうかは、あちら次第、なんだ。


僕らに協力してくれる平原の民も大勢いる。

その人たちに王との間の仲立ちになってもらえないか、それも今、試しているらしい。

ルクスは、本当に、僕が思い付く以上に、ありとあらゆる手を打っているんだ。

戦わないで済ませるために。


どうかどうか。誰も傷つきませんように。

みんなが自分の思い通り、とはいかないかもだけど。

少しずつ我慢して、譲り合えば、きっと、うまくいくよね。


ここにいても、僕には何もできることはなかった。

ただ、毎日、祈っているだけ。

いろんな人たちが、慌ただしく行き来して、ルクスやフォルティスに話しに来る。

僕はただ、それを傍らで見ているだけだ。

それでも、ルクスは、僕がここにいるほうが安心だ、って言うから。

僕は、ここにいて、ただ、じっと、みんなを見ていた。








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