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もう一つの楽園  作者: 村野夜市


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大精霊を探す方法は見つからないけど。

ルクスに連絡を取るのは、多分、簡単だ。


僕は石の町を出ると、すぐにステルステント(仮)を解いた。

そのまましばらく待つと、彼らの方から、声をかけてくれた。


「大賢者様。

 わたしたちと一緒にいらしてください。」


彼らとは会ったことはないけど。

彼らは僕のことをよく知っていた。


今、新しい種族の郷は、世界中にある。

この近くにもきっとあると思ったけど、その通りだった。


彼らの僕に対する態度はとても丁寧だった。

まるで、大切なお客を迎える、という感じだ。


郷に着くと、郷一番の魔法使い、という人が出迎えてくれた。

魔法使いは、大きな水盤のある部屋へ僕を連れて行って、水盤にむかって、呪文を唱えた。


魔法使いの白い指先が、ちょん、と水面を叩く。

すると、そこに、こちらを覗き込むようにしているルクスとフォルティスの姿が映った。


「よぉ。」


ルクスは僕の顔を見て、軽く片手を上げた。


「…ルクス…」


僕は、それ以上、何も言えなかった。

ただ、予想してなかったけど、ぽろぽろと涙が零れて、止まらなくなった。


ルクスはちょっと困ったみたいに苦笑いして言った。


「そう泣くなよ。」


「…ごめん…

 僕だって、泣くつもりなんて…」


なかったんだ、まで言えなかった。


「申し訳ない。」


ルクスの隣から、フォルティスが言った。

けれど、それ以上何か言う前に、ルクスが遮るように言った。


「大精霊は?」


ルクスは余計なことは言わずに、会話を急がせたいようだった。

僕は短く答えた。


「人に、なった。」


「そうか。」


驚いたふうもなかったのは、ルクスはそれを予想していたということだろうか。


「…けど、いなくなった。」


「いなくなった?」


それには少し驚いたような顔をして聞き返した。

僕は頷いて続けた。


「多分、人になる、のは、うまくいった、と思う。

 この世界から大精霊の気配は消えてはいないし。

 エエルの量に増減もない。

 だけど、どこにもいないんだ。」


「そうか。」


この世界の存続さえ問題ないならいい。

ルクスは淡々と付け足した。


「むしろ、行方をくらませてくれたほうが、安心かもしれない。

 人質に取られたり、傷つけられたりする心配もないからな。」


それは!

…そうかもだけど。

そんな言い方、しなくったって…


だけど、今の一言で、僕は覚った。


やっぱり。

ルクスたちも、この蜂起に関わっていたのか。


もしかして、関係なければ、って思いたかったけど。

細い細い一縷の望みも、その瞬間に断たれてしまった。


「どうしたって、戦わなくちゃ、いけないの?」


そう尋ねた僕に、ルクスは小さく笑った。


「それは、やつら次第だな。」


「平原の民はみんながみんな敵なわけじゃないよ。

 石の街にも、王都にも、僕らと親しい人たちはたくさんいる。

 彼らを傷つけたくない。」


「心配するな。

 そういうやつらには手を出さねえ。」


「だけど、戦いになったら、彼らだって、傷つくかもしれない。」


「戦い、にはならないさ。」


ルクスはそう言うけど。


「進軍、してきてるんだよね?」


「そうだな。」


ルクスはひとつ頷いた。


「力。数。魔法。

 どれを取っても、こちらのほうが、上だろうな。」


それはもう、戦うという意志を表示しているのと同じだと思う。


「そんなに強い人たちが、いったい、どうしようというの?」


街を壊し、人を傷つけ、蹂躙する。

まさか、ルクスがそういうことを望むとは思わないけれど。


「条件を受け容れて、降伏することを迫る。」


「条件?」


「余所の種族に関わるな。

 異種族を敵視し、傷つけることはやめろ。

 アニマの木は傷つけるな。」


簡単なことだろ?とルクスは笑った。


簡単なこと、のように、思う。僕も。

だけど、それを力づくで言うことを聞かせる、ってなると、うまくいかないんじゃないかな。


「それに、アニマの木に関しては、困ってるってんなら、植え替えてやる。

 押し付けたのは悪かった、かもしれねえからな。

 まったく、いたれりつくせりだろ?」


ルクスはちょっと笑って付け足したけど。

僕は、一緒に笑う気にはなれなかった。


「話し合いで、なんとかならないのかな…」


「話すために、蜂起したんだ。

 こちらの力を見せなければ、やつらは、話し合いにすら応じないだろう。」


ルクスはちょっと怒ったみたいに言った。


それは…そうなのかな…


「お前は、どうする?

 こっちに合流するか?」


迷っていると、ルクスのほうからそう尋ねた。


「僕は…」


少し考えた。


可能なら、戦いを止めたい。

だけど、それが無理なら、ルクスと一緒にその痛みを背負いたい。

そのために、僕はルクスの傍にいるのがいい、かもしれない。


「こっち来るなら、魔法通路を開いてくれるそうだ。

 一日あれば、こっちに着く。」


本当に、新しい種族の魔法って、便利なんだ。


「俺としては、お前がここにいてくれるほうが、安心なんだがな。」


そう言ったのは、呟き、と言ってもいいくらい、小さな声だった。

顔を上げると、ちょっと淋しそうに笑って、ルクスは僕から目を逸らせた。

そして、無理にとは言わない、とルクスは続けた。


「俺のやることは、お前を傷つけるかもしれない。」


それでも、安心だ、って言ってくれるんなら。

僕が、君の傍にいて、やれることがあるなら。


「分かった。

 そっち、行く。」


僕はそう答えていた。







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