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大精霊の消滅に、すっかり落ち込んでしまったけれど。
みんなにお世話をしてもらって、よく食べてよく寝たら、なんとか、数日経つころには、少しはものを考えられるようになっていた。
いや、正確には、大精霊は、消滅はしていない。
大精霊のエエルはこの世界からは失われていないから。
大精霊を探しに行く。
それが僕が次にしなければならないことなんじゃないかな。
少しずつ動きだした頭で、ぼんやりとだけど、僕はそう考えていた。
だけど、どこを、どうやって探せばいいのか。
皆目、見当もつかない。
探し出してどうするのか。
それも、よく分からない。
ただただ、このままにしておけない、気がするって、それだけなんだけど。
でもそれは、誰かに頼まれたわけでなく、何かに流されたわけでもなく、僕自身が、そうしよう、って決めたことだった。
あの後、ずっと、僕はピサンリの家にお世話になっていた。
双子のご両親は、イヤな顔もせずに、僕に、好きなだけいていい、って言ってくれた。
いつまでもそういうわけにはいかないだろう、って、心の隅っこでは思いながらも、いていい、って言ってもらえるのは、正直、助かった。
どこにも行くあてはなかったし、行かなくちゃと思っていても、ひとりきり旅を始める勇気も僕にはなかった。
そうして数日過ぎたころだった。
ある朝、突然、焼きたてのパンの匂いと一緒に、その報せは飛び込んできた。
新しい種族が、世界のあちこちで、一斉に蜂起した。
そのパンは柔らかくてふかふかで、一度美味しい、って言ったら、毎朝、焼きたてを持ってきてくれるようになっていた。
パンを焼くその人は、誰より早起きで、いつもパン焼き窯をセットしてから、街を散歩するのが日課だった。
その日も朝早く、散歩していたら、いつもの散歩仲間に出会った。
いつも通り、挨拶をして、軽く天気の話しなんかしようとしたら、いきなり、言われたんだそうだ。
明日からは、もう、散歩に来ない。
自分はこれから、遠い田舎へ避難するんだ、って。
なんだって、避難なんて?って聞き返したら、その人は、まだこれは内密の情報なのですけれど、と言って教えてくれた。
世界中、あちこちで、新しい種族が蜂起したことを。
新しい種族の村や郷が、あっちこっちにでき始めていることは、平原の民も知っていた。
だけど、彼らは、平原の民の棲まないような場所にばかり棲んでいたから、それほど気にされていなかった。
新しい種族と平原の民は、争う必要なんか、ないはずだった。
少なくとも、平原の民の側はそう思っていた。
だから、新しい種族が一斉に蜂起したというのを聞いたても、半信半疑、って感じだった。
新しい種族の村や郷は、どこも小さくて、人数も少ない。
平原の民の街や村とは、比べ物にもならないくらいだ。
それに、新しい種族の郷と郷との間は、疑似アマンの多い不便な森を、何日も何日も旅しなければならないほどに離れていた。
だから、彼らが、郷同士の間に、何らかの行き来をしているとは、平原の民は考えなかった。
だけど。
僕は知っていた。
新しい種族には、魔法の力がある、ということを。
彼らの村や郷は、どこも小さくて、人も少ないけれど。
お互いに密に連携していることを。
そうして、世界中、ありとあらゆる場所に、彼らの郷はあることを。
平原の民の街はとても大きいし、そこに棲む人も多い。
けれど、世界中の新しい種族を合わせれば、その数は、平原の民の数と同じ、いや、平原の民の人数すらをも、上回るかもしれない。
その上、彼らは、エエルを自在に操る、魔法の力を持っていた。
その彼らが一斉に蜂起した。
まだ、遠い遠いところだけれど、彼らは、王都を目指して、進軍を始めた。
世界中の新しい種族たちが、その行軍に加わり、あっという間に軍勢は大きく膨れ上がっている。
やつらは、王都に辿り着く前に、この街を通る。
だから、君も、今のうちに避難したほうがいい。
散歩仲間はそう言って、足早に去った。
…なんだって、そんな…
まさか。
まさかだけど。
戦いになるのか?
やむをえまい。
ルクスとフォルティスの声が、耳の中に甦った。
いや、だけど、フォルティスは、平原の民だ。
蜂起したのは、新しい種族。
だから、この蜂起に、ルクスは関係ない…
よね?
王様は、もう懲り懲りだ、って、言ったよね…
確かめなくちゃ。
そしてもし、この蜂起にルクスが関わっているなら。
何をしたって、止めなくちゃいけない。
ルクスは、決して、戦いが好きなわけじゃない。
ルクスの心には、戦ったときの傷が、今も大きく残っている。
それについてルクスは何も言わないけど。
その痛みは、今も消えてないはずだ。
これ以上の痛みをルクスが抱えないうちに。
前にルクスが戦っていたとき、僕は、何もしなかった。
傍にいて、一緒に戦うことも。
戦いを止めようとすることも。
だけど、今は違う。
今の僕なら、ルクスに何か、できるはずだ。
可能なら、戦いは止めたい。
戦いはやっぱり、大きな傷を残すから。
その選択肢は、なるべくなら、とりたくない。
だけど。
もし。どうしても。
それしか、道がないのなら。
僕はルクスの隣にいて、同じ痛みに耐えようと思う。
だけど。それでも、やっぱり。
戦いは、イヤだな。
本当に、それしか、道はないんだろうか。
今からでも、なんとかして、戦いは回避できないかな。
戦いのおかげで運命を狂わされた人たちと、大勢、出会ってきた。
荒野で永遠に彷徨う影になってしまった人や。
恐怖が周りのエエルを巻き込んで、怪物になっちゃったこともあった。
チビ勇者も。レグルスも。
戦いがなければ、今はもっと違う道を歩んでいたに違いない。
僕らも、アルテミシアと離れ離れにならずに済んだかもしれない。
いや。だけど。
ルクスだって、そのくらいのことは、きっと分かっているはずだ。
分かっていて、なお、その道を選んだのだとしたら。
ルクスを説得するのは、難しいかもしれない。
とにかく、一刻も早く、ルクスに会わなくちゃ。
僕は、急ぎ、石の街を後にした。




