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そのまま、しばらくの間、僕らはその小屋に滞在していた。
小屋に寝台はひとつしかなかったけど。
なになに、問題ない。
僕ら、森なら、木の上で眠れるから。
チビ勇者は、最初、僕らと一緒に木の上で眠っていたけれど。
何日かすると、フォルティスたちと、小屋の中で眠るようになった。
そのころには、ルクスの服の裾を掴むのも、少しずつやめるようになっていた。
少しずつ少しずつ、チビ勇者は、フォルティスとソフォラを受け容れていってる。
それは、重荷をひとつ下ろすのと同じことなはずなのに。
何故だか、ほんの少しだけ、物足りないというか、何か心に隙間風を感じるというか、そんな奇妙な感覚だった。
そんな日常を破ったのは、突然訪れたブブだった。
ソフォラは自慢していただけあって、本当にお料理が上手だった。
ソフォラの用意してくれたたっぷりの朝食をいただいていたとき、それは突然、僕の目の前に現れた。
まるで、目の前の景色が、一枚の絵のようにびりびりと引き裂かれたかと思うと、その隙間から、転げ落ちてきたのはブブだった。
「…あるじ、さま…」
ブブはそう呟いたきり、力尽きたように目を閉じた。
僕は慌ててブブを抱き起こすと、ありったけの力で癒しの術をかけた。
無理やり送り込んだエエルは、ブブの目を開かせた。
ブブは、定まらない視点をきょろきょろと彷徨わせてから、僕をようやく見つけた。
「あるじさま!
たいへん!
き、が!
だいせいれいの、き、が!」
大精霊の木?
木がどうしたの?と尋ねようとしたときだった。
ばんっ、と小屋の扉が開かれて、そこに要の守が立っていた。
「大変です。
わたくしの元の木が。
ヘルバの木が、切り倒されました!」
………?
一瞬、何を聞いたのか、分からなかった。
ヘルバの木?
それは、石の街にあって。
ヘルバの絆の木で。
大精霊の宿る…
「ええっ?!」
どういうこと?
僕は、説明を求めるように、ブブと要の守とを見た。
ブブは肩で息をしていてすぐに話せそうにない。
先に話したのは要の守だった。
「平原の民の軍勢が、ヘルバの木のある街を襲いました。
彼らは、一直線にあの木を目指し、抗う間もなく、木は倒されました。」
木、が。
倒された………
「え?ちょっ、なんで?
そんなこと…」
その期に及んでも、僕には、そのことの意味が分からなかった。
あの木には、大精霊が宿っている。
大精霊は、この世界を支えるそのもので…
つまりは、それって………
いや、
あの木は、
一回、
折れてるんだよ…
だから、
大丈夫だ、って
そう
大丈夫、だ…
頭の中、思考がとっ散らかる
あのときだって、
木、は、
すぐに、再生したんだ
折れたところから、
また、
新しく、
生えて………
「軍勢は、切り倒した木に火をかけました。
二度と、再生できないように。」
………
なんてこと………を………
「やつら、世界を滅ぼすつもりか。」
誰の声だろう。
誰かが、そう言った。
分からない分からない分からない!
もう、わけが分からない!!!!!
ぱしっ、と音がして、目の前がちかちかっ、として、あ、今、叩かれた、って、思った。
「しっかりしろ!」
そう言ったのは、ご初代、様…?
ああ、やっぱり、この人には、いつも叱られる、なんて、心のどこかで思っている。
僕の耳を、誰かの声が素通りしていく。
「とにかく、すぐに戻ろう。」
「いや、戻ってもできることはない。
ここにいて、体勢を整えるほうがいい。」
「戦いに、なるのか?」
「やむをえまい。」
た、た、か、う…?
「誰と誰が、戦うの?」
世界は、もう、滅びるって言うのに…
「なんのために、戦うの?」
声が、うまく出せなくて、絞り出すみたいに、言った。
「あるじさま!」
僕の胸を掴んでそう呼んだのはブブだった。
「オルニス、いずみ、まもる。
あるじさま、だいせいれい、つなぎとめて。
オルニス、あるじさまに、つたえて、いった。」
オルニスは、泉を護っている?
だけど、木には、火をかけられたんでしょう?
なのに、泉を護る、って…
どういうこと?
僕はブブを見つめた。
「………オルニスは………泉を、護って………?」
「オルニス、いった。
あるじさま、だいせいれい、つかまえる。」
大精霊を捕まえる?僕が?
オルニスが言ったの?
僕に、大精霊を捕まえろ、と。
「あるじさま!いく!!」
ブブはもう一度強く僕を揺さぶった。
オルニスは、泉を護るために動けない。
だから、ブブに言った。
僕に、大精霊を繋ぎ留めろ、と伝えろと。
繋ぎ、留める…
「繋ぎ留められる、ってこと?」
大精霊を繋ぎ留める。
それさえ叶えば、まだなんとか、世界はもちこたえられる。
「分かった。
ブブ、僕を連れて行って。」
「あい。」
ブブは即答した。
次の瞬間、僕は、ブブと共に、石の街へと移動していた。




