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新しい種族の力を借りて、僕らは旅を続けることになった。
彼らの郷は、本当に、この世界のありとあらゆるところにあるんだ。
そうして、その郷と郷との間は、魔法の道で、繋がれていた。
彼らは僕らにその魔法の道を使うように言ってくれた。
魔法に護られたその道を使えば、獣や人に会うこともなく、雨や、暑さ、寒さに悩まされることもなかった。
魔法の道を抜ければ、次の郷に着く。
そこには、僕らが行くことはもう前もって伝えられていて、どこへ行っても、僕らは歓迎してもらった。
危険な目にも遭わず、苦労することもなく、僕らは旅を続けていった。
こんなに楽していいのかな、って、心配になるくらい。
今まで経験したどの旅よりも、楽な旅だった。
次の郷には、だいたい、どこも、一日で着いた。
朝、出発すると、夕方に着くんだ。
僕らの到着を、郷の人たちは歓迎してくれて。
盛大なパーティが用意されていた。
夜は清潔なベットでゆっくり寝かせてもらって。
朝にはまた、気持ちよく送り出してもらう。
それを繰り返して、最果ての森には、あっという間に着いた。
他の種族の棲まない土地を大回りすることもあったけど。
それでも、あっという間だった。
本当に、魔法の力というものは、すごいものだと思う。
僕らのご先祖様も、こんなふうに暮らしていたんだろうか。
たったひとりの大精霊が、この世界に、この暮らしをもたらしたんだ。
森に入る前に、村に立ち寄った。
それには、少し迷ったんだけど。
やっぱり、知らん顔はしたくなかったんだ。
村の人たちは、みんな、とても元気そうだった。
こんな最果ての地でも、森の民が、嫌われ者になってしまっていることは、伝わっていた。
だけど、みんな、僕らのことは、温かく迎え入れてくれた。
みんな少しずつ大人になったり年を取ったりしていたけれど、まだ、僕らのことは、伝説じゃなくて、直接覚えている人も多かった。
何人か、ご先祖様になった人たちもいたけれど。
その人たちとも、アニマの木のあるあの丘で、会うことができた。
「王様が何を言おうと。
王都の人が何を言おうと。
みなさんのことはわたしたちがよく知ってますから。」
そう言ってもらえて、嬉しかった。
森へ入ろうとすると、要の守が入口のところに立って待っていた。
「あ、れ?」
要の守は木の精霊なので、本体の木からはあまり離れられないはずだ。
僕が驚くと、ヘルバそっくりの、悪戯の成功した子どもみたいな笑顔になって、要の守は言った。
「ヘルバから、みなさんがいらっしゃるので、案内するように、と言付かっております。
そのついでに、結界の中なら自由に動けるように、してくれたんですよ。」
流石ヘルバだ。ぬかりない。
だけど、アマンから遠隔でそんなこともできるなんて、ヘルバって、やっぱりすごい魔法使いなんだ。
要の守と一緒だと、強力な結界の中でも、さくさく歩けるし、疑似アマンにも巻き込まれなくて済むから、とても助かった。
森を歩いていると、アニマの苗木にも会うことができた。
「お久しぶりです。あるじさま!」
そう言って元気に声をかけてくれた。
「やあ。ずいぶん背が伸びたね?」
苗木はしっかり根を張って、すくすくと、高く、大きく、育っている。
もう僕の背も追い越しそうだ。
「ここの森はとても居心地がいいんです。
それに、ここには、仲間がたくさんいるから。」
ここには九十九本の苗木と、そうして、一人前の要の木、合わせて百本のアニマの木がある。
こんなにアニマの木が一か所にたくさんある場所は他にはない。
アニマの木が過密になると、エエルが濃くなりすぎて、人にとっては暮らし難い場所になる。
けれど、この森には人は棲んでいないし、森の木々にとっては、エエルは濃ければ濃いほどいいんだ。
この場所は、強い結界に護られていて、外から人や獣は入り込むことはない。
そして、ここのエエルも、外に流れ出すこともない。
だからここは、エエルの貯蔵庫、みたいなものになっている。
結界の周囲は、エエルの流れの微調整の上手なご先祖様たちが護ってくれていて、必要な分だけ、エエルを外へと流してくれる。
そんな場所だから、アニマの木にとっては、この上なく居心地のいい場所だろう。
そうして、そのアニマの木からエエルをふんだんに供給されるから、他の木々にとっても、とても居心地のいい場所になってると思う。
「みんなとは、いつもおしゃべりをしています。
最近、みんなで歌ってみないか、って相談もしていて。
歌の練習も始めました。」
へえ~。
「それは、素敵だね。」
森って、どこも、それぞれの歌があって、声を合わせて歌っていることが多いけど。
こんなふうに、歌うようになるのかもしれないなあ。
「いつか、みんなの歌を聞かせてほしいな。」
「はい。
もう少し練習したら。
是非、聞きに来てください。」
それは、なんとしても、聞きに来なくちゃ。
重い結界に封じられていたとき、この森の木々は、低く唸ることしかできなかった。
それが、高らかに歌えるようになるなんて。なんて、素晴らしいんだ。
ここに植えられた九十九本のアニマの苗木たちも、みんなそれぞれ、辛い思いをした子たちばかりだ。
この森のみんなは、ようやくこの幸せな場所に辿り着いた。
この森は、そういう森だった。
森の中央、要の木の近くに、真新しい小屋がひとつ、できていた。
小屋の前には、若い平原の民の夫婦が立って、僕らを出迎えてくれた。
「やあ。久しぶりだな。」
ふたりの姿を見つけると、ルクスは駆けて行って、いにしえの勇者の目の前に拳を突き出した。
勇者は、ルクスの拳に拳をぶつけてから、にかっと笑った。
「おう。久しぶりだ。」
そうか、この人は、こんなふうに笑うんだ、って思った。
周りを照らす強く明るい笑顔。
ルクスといにしえの勇者は、笑い方がそっくりだ。
やっぱり、ふたりとも、勇者なんだな、って思った。
ルクスといにしえの勇者は、まるで、長年の親友のようだった。
ルクスは、夢の中で勇者と話した、って言ってたけど。
お互いに、心の中にあることを、何もかも打ち明け合える友だちなんだろう。
種族も、生きてる時代も、何もかも違うふたりなのに。
それでも、親友になれるなんて、素晴らしい、って思った。
いにしえの勇者の隣には、可愛らしいお嫁さんが立っていた。
「あ。っと、妻を、紹介、します…」
いにしえの勇者は、さっきの笑顔はどこへやら、ちょっと恥ずかしそうにもじもじと言った。
けど、僕は、奥さんのことはよく知ってたから、先に挨拶してしまった。
「お久しぶりです、ご初代様。」
「よう。久しぶりじゃのう。元気にしておったか?」
少女、と言ってもいいくらいの新妻なのに、声も鈴を振るように若々しいのに、話し方はご初代様そのまんまで、僕は思わず笑い出してしまった。
「ご初代様、それじゃ、台無しです。」
「お前様相手だと、つい、こうなってしまうのよ。
普段は、そんなことは、ありませんわ。」
いきなり口調を変えて、ご初代様は、恥ずかしそうにいにしえの勇者の背中に隠れる、真似をした。
「そんな無理しなくていいですよ?
もう、正体はよく知ってるんですから。」
思わず呆れてそう言ったら、勇者の背中から飛び出して、憎まれ口をきく子どものように舌を出してみせた。
「いいから、調子を合わせてくれても、よかろうて。
こちらは、し!ん!こ!ん!なのじゃから!」
し!ん!こ!ん!と区切って言ったのがおかしくて、みんな笑い出してしまった。
ちょっと緊張して、僕らの後ろに隠れていたチビ勇者まで、耐えきれなかったのか、笑っていた。
「だいたい!その、ご初代様、というのも、いい加減にしなされや。
その呼び方が調子が狂うのじゃ。
いかにも、年寄りくさいじゃろう?」
ご初代様ひとり、ぷりぷりと怒っている。
いにしえの勇者は、まあまあ、とその肩を優しく抱き寄せた。
「彼女は、ソフォラ。僕の最愛の妻です。」
う。
ぐへっ。
今、さいあい、とかおっしゃいました?
臆面もなく?
僕は笑うのも忘れて、ぽっかりと口を開いてしまった。
「とにかく、こんなところでいつまでも立ち話もなんです。
どうぞ、中へ入ってください。」
新婚さんのらぶらぶに、思いっきりあてられたところで、僕らは家の中に招き入れられた。




