488
僕らの姿を見かけると、彼らは、ひざまずいて、丁寧にお辞儀をしようとした。
「いや。あの。わざわざ、そんな丁寧にしてくれなくても。」
僕は困ってしまって、隣の老人に言った。
老人は小さくうなずくと、すぐさま、手を大きく振り上げた。
老人の手から、大きなエエルの流れ、のようなものが放出されるのを感じる。
すると、あちこちから、おお、とか、ええ、とかいう返事が聞こえた。
あれは、なに?
全員に連絡した、とか?
あれも魔法なのかな?
「みな、納得はいかぬようですが。
それが、大賢者様のご意向ならば、従いましょう。」
老人は、丁寧に腰を屈めて言った。
いや、あの、そんなに丁寧にしてもらわなくても、いいんですけど。
どうにも、この対応には困ってしまう。
郷の入口、のようなところに辿り着くと、そこにはずらっと人が並んで僕らを出迎えてくれた。
「大賢者様!ようこそおいでくださいました!!」
うっひゃあ~。
あ。あの、どうも。と頭を下げたら、何故だか、拍手をされてしまった。
奥のほうから、大人ふたりに挟まれたチビ勇者が連れられてきた。
僕は急いでチビ勇者に駆け寄った。
「無事だったかい?」
「うん。心配かけて、ごめんなさい。」
チビ勇者はちょっと元気なかったけど、どこにも怪我とかはしてないみたいだった。
「大賢者様のお連れ様に、大変失礼をいたしました。」
チビ勇者を連れてきてくれた人が、ひざまずいてそう言った。
「あ。あの。そういうのはやめてください。」
僕は慌てて、その人の手を取って、引き起こした。
「ごめんなさい。
僕らも、悪かったんです。
なるべく、人の棲んでそうなところは、避けるようにしてたんだけど。
この郷には気付かなくて…」
「ここは、旅人や獣に気付かれないように結界の魔法をかけてあるはずなのですが。」
「もし、近付く者があれば、郷の者が気付かれないように魔法をかけて、郷には近付かないように誘導していたのですが。」
「みなさんは、突然、姿を現されたので、驚いてしまって…」
ふたりは代わる代わる、説明をしてくれた。
そっか。
この郷は、結界、みたいなもので護られてて、それで僕ら気付かなかったんだ。
それに、僕も、ステルステント(仮)を使ってたから、郷の人も、僕らに気付かなかった。
夕方、野営地を決めて、ステルステント(仮)を解いた途端に、僕らは突然現れた、みたいに思われたんだろう。
この郷にも、老人に案内してもらえなかったら、僕ら辿り着くことはなかったに違いない。
「それは、あの、お互いに、びっくりでしたねえ?」
思わずそう言ったら、ふたり、そっくりに、目を丸くした。
あ、れ?
何か、違った?
「ところで、そちらのお方は、もしかして、ルクス王様、ではありませんか?」
郷の人がひとり進み出て、恐る恐る、という感じで尋ねた。
あ、今、気付いたんだ、って、ちょっと思った。
「あ、はい。そうです。」
そう答えると、またぞろ、みんなして、その場へひざまずこうとした。
「あ。だから、それ、やめて、って…」
思わず顔をしかめたら、みんな、あ、しまった、って顔になって、慌てて、立ってくれた。
ルクスは苦笑しながら、前に進み出た。
「あ。いや。
俺はもう、王じゃないんで。
それに、ここの人たちに対して、何かしてあげたこともない。
ただの、通りすがりの旅人に過ぎません。
それなのに、なんか、迷惑かけてしまって、申し訳ない。」
みんなは目を丸くしてルクスを見ている。
「お母さん、あれ、本当に大賢者様?」
どこかから、子どもの声がした。
これ、しっ、と叱られたらしき声が続く。
すると、あちこちで、みんなひそひそと囁き始めた。
「…なんというか、おふたりとも、気さく、というか…」
「もっと、近寄り難いお人柄かと…」
「案外、普通、なんだな…」
「威厳、とか、ご威光、とか、って感じ、はしないな…」
「だいたい、絵姿には全然似てないぞ…」
あ、ははははは…
「あ。
どうも、ふたりして、威厳、とか、欠片もなくて、すいません。
期待外れ、でしたか?」
ルクスがそう言うと、一斉に笑い声が巻き起こった。
「いえいえいえ!
ただ、ちょっと、予想と違った、というか…」
「いえでも、それが悪いというわけでは…」
慌てたみたいにそう言う声も聞こえたけど。
まあ、ここは、笑うしかないねえ。
「このようなところで、いつまでも立ち話も如何なものか。
さあさあ、みなさん、こちらへお越しください。」
慌てたように案内の老人はそう言って、僕らを郷の中へと連れて行った。
郷の構造は、僕らの故郷よく似ていた。
郷の中央に、みんなが集まる広場があって、大事なお祭りや郷の行事のときは、そこが会場になる。
この郷の広場にも、ご馳走の並んだ大きなテーブルが、いくつも並べられていた。
あれだけの短い時間で、よくもこんなにいろいろと用意できたなと感心する。
まるで、魔法みたい…って、ここの人たちは、みんな魔法が得意なんだっけ。
パーティ会場の一番奥の席に、僕らは案内された。
僕らが席に着くと、郷の人たちも、みんな、それぞれの席に着いた。
郷の人たちは、ちゃんと全員分の席があるみたいだった。
郷の人たち勢揃いしたところで、老人が、グラスをとった。
「それでは、大賢者様、ルクス王様、そして、おふたりのお連れ様に。乾杯!」
かんぱーい、と全員が声を揃えて、そこから、賑やかな食事会が始まった。
この郷のお料理は、どこか森の民の料理にも似ていた。
森でとれる木の実やベリーをふんだんに使ったものが多い。
でも、獣の肉を使った料理もたくさんあった。
それはちょっと、山の民の料理に似ていたかな。
ルクスはお肉が好きだから、これは嬉しいだろうと思った。
案の定、隣を見ると、ルクスもチビ勇者も、せっせとお肉ばかり食べている。
旅の途中のお料理と言えば、焼いたお肉に塩をつけたのばっかりだったから、久しぶりに手の込んだお肉料理が、嬉しかったのかもしれない。
夢中になってご飯を食べているチビ勇者を見ると、やっぱりまだ、幼いんだな、って思う。
それにしても、いなくなって、すごく心配した。
僕はチビ勇者のこと、好きじゃないはずなのに、ものすごく心配だった。
そのことが、ちょっと不思議だった。
僕がじっと見ていると、チビ勇者がそれに気付いて、僕のほうを見た。
目と目が合うと、はっとしたような顔になって、慌てて、僕の皿に、お肉を入れようとした。
「あ。
僕はいいから、君が食べなよ。」
僕はそれを手で押しとどめた。
チビ勇者は、ほんの一瞬、ちょっと泣きそうな顔をしたけど、すぐに、また顔を伏せて、お肉を食べるのに没頭し始めた。




