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もう一つの楽園  作者: 村野夜市


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人?

紛れもなく、それは人だった。

だけど、平原の民じゃない。

平原の民にしては、背丈が大きい。

といっても、森の民でもない。

森の民にしては、その背丈は小さかった。


「…あなたは?」


「わたしたちは、この近くの郷に棲む者です。

 わたしたちの泉に近付く者があったので、捕らえました。」


「じゃあ、チビ勇者は、あなたたちに捕らえられているんですね?」


僕は、老人のほうへ一歩踏み出した。


「ごめんなさい。

 あなた方の泉を勝手に使おうとしたことは、謝ります。

 だけど、僕らは、あなた方の泉を穢そうとか、ましてや、あなた方の暮らしを脅かそうとか、そういうつもりはありません。

 ただ、ここを通りかかっただけの、旅の者。

 どうか、チビ勇者を返してください。」


僕は老人に訴えかけた。

老人は、その僕をじっと見つめた。


「あなたは、森の民、ですかな?」


「え?

 あ。はい。」


僕は頷いた。

すると老人は、不思議そうに首を傾げながら続けた。


「しかし、わたしたちの捕らえた者は、森の民、ではなかった。」


「あ。はい。

 彼は、平原の民です。」


それを聞くと、老人はさっきよりもっと不思議そうに首を傾げた。


「平原の民は、森の民を迫害している、と聞きます。

 何故、あなた方は、共におられるのか?」


「あ。っと、それは、話すと長くなるんですけど…」


そう言いながらも、僕は、なるべく簡潔に、彼の師匠と彼を引き合わせるために、僕らは旅をしているということを説明した。

けれど、老人は、あまり納得してくれなかった。


「解せませんな。

 なにゆえそうまでして、平原の民の面倒を見ておられるのか。」


「それは、だって、彼はまだ子どもだし、子どもの面倒を見るのは、当たり前、というか…」


いやまあ、チビ勇者に関しては、面倒を見ている、というより、もう立派な旅の仲間って感じだけども。


「あの剣には、魔力が込められている。

 強い魔力じゃ。

 それが、なにか、関係ありますかの?」


老人は探るように僕らを見た。

僕はちらっとだけルクスを見た。

正直に言ったもんかな?


「どうして、それを?」


ルクスは、表情のよく分からない顔をして、老人に逆に質問した。


ルクスの尋ね方は、すごくうまいと思った。

どうして、それを、知っている?

どうして、それを、尋ねる?

どっちにも、受け取れる。

つまりは、それに対する相手の答え方を見よう、という考えだと思った。


すると、老人は、いきなり、ほっほっほ、と、笑い出した。


「流石は森の賢者様。

 よう心得ておられる。」


そうかな?

僕は、そういう駆け引き、みたいなのは、できないけど。

ルクスは、王様やってただけあって、僕よりは、そういうのもできる、かな。


すると、ルクスも、ちらりと笑った。


「ごまかそうにも、うちの正直者の顔を見れば、そちらには、全部筒抜けでしょう?」


う。

それって、僕のこと?

僕は慌てて、顔を見られないように、下をむいた。

って、もう、遅いかも、だけど。


老人は、もう一度、ほっほっほ、と笑って、何やら、後ろの人たちに合図をした。

すると、きらきらした光の粉が飛んできて、老人と僕らの後ろに、突然、椅子が現れた。


「魔法?!」


僕はびっくりして、顔を見られないように下をむいていたのも忘れて、叫んでしまった。

すると、老人は、また、ほっほっほ、と笑った。


「この程度のこと、森の賢者様ならば、驚かれることもなかろう。」


いやいやいや。

驚きますよ?

こんなふうに日常的なことに、少なくとも、僕は魔法を使ったことはない。


老人は、僕らに、椅子をすすめる仕草をすると、自分から先に座った。


「失礼。

 年を取ると、立ち話も疲れる。

 よければ、どうぞ、あなたがたもかけてください。」


座っても、大丈夫かな?

僕は、椅子の座面をそっと手で撫でてみた。

特段、変わった様子はないけれど。


ルクスは、ふっと笑って、先に座った。

あ。大丈夫そう?

それを見て、僕も、恐る恐る、椅子に座った。


椅子は、まあまあ、座り心地のいい椅子だった。

高さも、背もたれもちょうどいい。


怪しい人たちの襲来に、一瞬、疲れているのも忘れていたけど。

こうして座ると、もう二度と立ち上がりたくないくらい、足が痛かった。


それにしても、こんな椅子を、魔法で出すなんて。

そういえば、さっきから明々と灯っているこの玉も、明らかに魔法だ。

この人たちは、いったい、どんな人たちなんだろう。


顔を見られないように下をむかなくちゃ、と思いながらも、相手の様子を見たくて、僕は、ちらちらと上目遣いで様子を伺った。

すると、こっちをじっと見ていたらしい老人と、ばっちり、目が合ってしまった。


う。


目を逸らそう、と思ったけど、そのまま、逸らせられない。

どうしてだろう。

そのまま、ひとつ、ふたつ、息をした。


すると、いきなり、目の前の老人は、椅子から降りて、地面にひざまずいた。


あ。あれ?


「なんと。これは、大賢者様でしたか。」


???

いったい、これは、何?


老人は、慌てたみたいに、後ろの人たちにも合図をした。

すると、影の人たちは、ぞろぞろと光の中に入ってきて、みんな、一斉にひざまずいた。


「世界を救った大賢者様に、まさか、直接、お目にかかることができようとは…」


老人は、声を震わせてそう言った。

いったい、何が起きているのか、僕にはさっぱり分からなかった。













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