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しばらくそんな旅が続いた。
僕らの行く先には、延々と森が続いていた。
ただ、その森の中に残る街道に沿って行けば、道はたぶん、合っているはずだった。
街道を行く旅人には、一度も出会わなかった。
街道沿いに、いくつか村や町もあったけれど、そこは、大きく迂回して進んだ。
村や町に寄るのは、今はあまり得策とは思えなかったし。
物資や食糧の調達のために、寄り道をする必要もなかった。
確かに、森の中なら、僕らはいろいろ困らないんだ。
水も食糧も、衣服も、寝る場所も、必要なものは、なんだって森が与えてくれた。
どれほどに勝手の分からない余所の森だったとしても。
森が森だってだけで、僕らにとっては、どこより居心地のいい場所だった。
だけど、その居心地のよさには、いつも、罪悪感も一緒にあった。
世界をこんなふうにしてしまってごめんなさい。
僕らばっかり、幸せでごめんなさい。
僕は心の中でいつもそう思っていた。
その日も、僕らは、いつものように、野営の支度をしていた。
今日はルクスが料理当番だった。
鳥を焼くルクスを尻目に、僕は、デザートのベリーを取りに行こうかどうか迷っていた。
チビ勇者は、水を汲みに行っているはずだった。
水場は、野営地から少し引き返したところに泉があった。
水場のすぐ近くでは、なるべく野営はしないことにしていた。
水を必要とする誰かや、水を飲みにくる獣たちと、なるべく、出会いたくなかったからだ。
慣れ、というものは、警戒心を薄れさせてしまうものだ。
野営地を選ぶと、僕はステルステント(仮)は解いてしまっていた。
もちろん、野営地を選ぶときに、辺りの安全は確認していたし。
それまで一度も、街道で人と出会ったことなんかなかった。
水袋を持って、チビ勇者は出かけていった。
獣には気をつけなよ、といつものように声をかけた。
もちろん、チビ勇者なら、そんなことは、言われなくても分かっていた。
往復しても、暗くなる前には、じゅうぶんに帰ってこられる距離だった。
チビ勇者は、足も速いし、力も強い。
重い水袋を担いでいても、びっくりするくらい速く走ることができた。
ところが、その日に限って、暗くなっても、チビ勇者は戻らなかった。
流石の僕らも、心配になってきた。
道に迷ったんだろうか。
獣に襲われたのかもしれない。
チビ勇者は、たとえ森の中でも、道に迷ったことなんかなかった。
獣に出会ったら、戦わずに逃げるように言ってあったけど。
たとえ、逃げなくても、チビ勇者の剣の腕なら、棒っ切れひとつでも、じゅうぶんに獣を追い払えるはずだった。
心配になった僕らは、チビ勇者を探しに泉まで行くことにした。
行き違いになったら困るけれど、僕ひとり残るのも不安だ。
少し迷ったけど、ルクスとふたりで行くことにした。
野営地には、簡単な書置きを残しておいた。
そうして、泉へ往復したのだけれど。
結局、チビ勇者は見つからなかった。
泉への道は、ほとんど真っ直ぐで、迷うような要素もない。
それに、思っていた以上に、近かった。
僕らはそれから、三回、泉と野営地とを往復した。
けれども、チビ勇者は見つからなかった。
持っていたはずの水袋や、チビ勇者の持ち物も、どこにもなかった。
最初の二回はステルステント(仮)を使った。
けれど、これじゃあ、もし、チビ勇者が道から離れてしまっていたら、僕らを見つけられないかもしれない。
二回とも、人とも獣とも出会わなかったから。
三回目は、思い切って、ステルステント(仮)をなしにしてみた。
だけど、それでも、チビ勇者とは会えなかった。
なにか、おかしい。
野営地に戻ってきた僕らは、そこで違和感を感じた。
「書置き、どこへいったんだろ?」
その違和感の正体に僕は気付いた。
置いていったはずの書置きが、どこかへいってしまってたんだ。
風に飛ばされたりしないように、しっかりと、上に重石をのせてあったのに。
それに、他の荷物には、まったく手をつけられたあともなかった。
「少し、休もう。」
ルクスがそう言って、僕らはいったん、休むことにした。
昼間からずっと休みなしだったから、足は棒みたいに疲れ切っていた。
ルクスは焚火の熾火をかきたてた。
ぱちぱちと燃える火を、僕らふたり、黙ったままじっと見ていた。
作りかけの晩ごはんは、すっかり冷めてしまっていた。
けれど、手をつける気にはなれなかった。
チビ勇者は、お腹をすかせていないかな。
そればかり気になって、自分の空腹は感じなかった。
もしも、獣がこの野営地を荒らしたのなら、真っ先に、この鳥の肉を持って行ったはずだ。
だけど、無事だってことは、少なくとも、ここには獣は来ていない。
もし盗人なら、僕らの荷物に手をつけるだろう。
けれど、それもまた無事だった。
ただ、書置きだけ、なくなっていたんだ。
何かの加減で、風に飛ばされた、のかな。
他は無事なのに、あれだけなくなるなんて、やっぱり変だけど。
そのくらいしか考えられない。
僕はルクスにそう言ってみた。
ルクスも、同じことを考えていたようだった。
「何かの拍子に、重石を俺たちが蹴とばしたのかもしれない。」
言われてみれば、確かに、その可能性もあった。
僕ら、チビ勇者を探すことで頭がいっぱいだったから、気付かないうちに、重石を蹴とばしてしまったのかも。
絶対にない、とは言い切れない、と思った。
少し休むと、ルクスはまた立ち上った。
「俺、もう一回、見てくる。
お前は、ここにいろ。」
「いや、僕も行くよ。」
僕も腰を上げかけたときだった。
しっ、と鋭く言って、ルクスはいきなり目の前の焚火を踏み消した。
僕ら、夜目はきくほうだけれど。
明るい火を眺めていた目が、暗さに慣れるには、少し時間がかかった。
「どうしたの?」
僕は声をひそめて、ルクスに尋ねた。
ルクスは、もう一度、しっ、と言った。
ルクスは腰を落とし、油断なく、辺りに目を配って言った。
「…囲まれている。」
囲まれている?
何に?
「俺が合図をしたら、お前、そこの木によじ登れ。」
木に、登るの?
僕はルクスの示した木を見上げた。
昔から、木登りはあんまり得意じゃない。
だけど、そんなことを言っている場合でもなさそうだった。
そのときだった。
いきなり眩しい光に、僕らは目を射られた。
野営地に、何か、光の玉のようなものを放り込まれたようだった。
完全に先手を取られた。
ルクスは、僕を木のほうへ突き飛ばした。
登れ、ということだ。
とにもかくにも、言われた通りにしようと、木に手をかけた。
その僕の手のぎりぎりのところに、ひゅん、と、矢が突き立った。
僕は、凍り付いたように、その場に静止した。
この矢は、その気になれば、僕の背中だって、射抜ける、ってことだ。
これ以上、うたれませんようにと願いながら、ゆっくりと、僕は、振り返った。
そこには、明るくて冷たい魔法の灯が、明々と灯っていた。
僕らの野営地は、昼間みたいに、照らし出されていた。
眩しい光の外側を、ぐるっと取り囲むように、人の影らしきものがあった。
この囲みを突破して、逃げだすのは、簡単なことじゃないと思った。
囲みの中から、ひとり、進み出てくる人影があった。
「手荒なことをして、申し訳ありません。」
その声は、老人みたいだった。
老人は、ゆっくりと、光の中に進み出てきた。




