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もう一つの楽園  作者: 村野夜市


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ようやく闇から解放されて、勇者は静かに消滅したはずだった。

それは悲しかったけれど、ようやく勇者が楽になれるのなら、それでよかったと思った。

突き立てた墓標は朽ちて、剣の代わりに、勇者には花が手渡された。

派手さもない、目立たないけれど、勇者が好きだと言った花を、仲間たちは畑に植えて、毎年咲かせ続けてきたんだ。


「あの勇者を連れ戻す方法なんて、あるの?」


僕の目の前で、勇者は確かに消滅した。


「それなんだけどさ。」


ルクスは僕の問いに、答えて言った。


「あの後、しばらくの間、俺も、やつの夢は見なかった。

 けど、この間、アルテミシアが夢に出てきて…」


「アルテミシア!」


会えたの?

そしたら、ルクスはちょっと複雑な顔をした。


「いや、会っていきなり、立て続けに小言を言われたんだけど。」


「お小言でもいいじゃない。

 会えたんならさ。」


僕も、叱られるのでもいいから、会いたいよ。

僕の夢にも、来てくれないからな、アルテミシア。

まあ、ルクスだから、特別、なんだろうなあ。

そこは、仕方ないっかあ。


だけど、嬉しくて、思わずにまにましてしまう。

よかったね、と言うと、ルクスもちょっと照れたみたいに笑った。


「まあさ、元気そうだったよ。

 あっちでヘルバに会って、傷も、治してもらったんだとさ。」


「ヘルバ!

 ヘルバも元気なんだ?」


「おう。ピサンリも一緒なんだと。」


なんだか、ほっとした。

みんなちゃんと会えたんだ。


「あっちじゃ、いろいろと勝手は違うらしいが、まあ、なんとかやってる、って。

 お前にもよろしく、って、さ。」


そっかそっかあ。


「今度また夢で会えたら、僕からも、よろしく、って言っといてね?」


「俺は伝言板か?」


ルクスはわざと顔をしかめてみせたけど、その脇から、嬉しい、がにじみ出ていた。

にやけた顔を必死に真面目に戻してルクスは言った。


「あ、いや、それで、だな?」


本題からずれてしまった。


「それで、アルテミシアが、夢で何か言ったの?」


わざわざアルテミシアが夢に出てきた、って言うからには、そうなんだろう。


「それが、ヘルバからの伝言だ、っつってさ?」


おもむろに、ルクスは背筋を伸ばすと、咳払いをしてから言った。


「フォルティスには、まだ成すべきことがあります。

 騒ぐだけ騒ぎ、世間様にさんざんご迷惑をおかけして、このままでは、勇者を名乗るもおこがましい。

 もう少しお役に立ってからこちらにいらっしゃい、と追い返しました。

 なので、後はよろしくお願いします。」


なに、それ?

まったく似てない。

だけど、ヘルバの真似をしたかったんだ、ってことだけは、なんとなく、分かった。


「ヘルバって、意外と手厳しいんだね?」


「まあ、そんだけ親しい、ってことなんだろ?」


そうなの?


「アルテミシアも、俺にだけ、特に厳しい。」


あ。確かに。


「だけど、後はよろしく、って、言われても…」


「だよな?

 俺も、なんのことか分からなくて、まあ、だから、その夢のことも、あまり気にしてなかったんだけどさ。

 こいつの師匠、って話しをしたときに、あ、っと思い出してさ。」


そういうことか。


「というわけだ、坊主。

 だから、今から、その返品されてきた勇者を探しに行く。

 お前の師匠になってもらうためにさ。」


なんだか、その言い方…


ルクスはチビ勇者の頭をぐりぐりと撫でた。


「まがりなりにも、勇者として世界を救った、伝説になってたやつだ。

 剣だって、俺よりは上手いだろうさ。

 それに、やつは、いろんなことを経験しているからな。

 お前の師匠にはいいと思うんだ。」


なるほど。


「あいつも、この間、婚礼式、したばっかだしな。

 嫁さんも一緒にこっち来てるらしいから、お前のことも、ふたりがかりで世話してくれるだろ。

 優しくていい嫁さんらしいぞ?」


勇者の奥さんって、ご初代様、だよね?

優しい?

………うん、まあ、面倒見は、よかったよね?


「とまあ、これ全部、夢で見た、って話しだからさ。

 信じられない、と言われてしまえば、それっきりなんだが。」


確かに。


「信じます。」


チビ勇者は、目をきらきらさせて即答した。

その目が眩しい。


「そっか。」


ルクスも嬉しそうに頷いた。


「その剣についても、ヘルバから伝言があってさ。」


思い出したようにルクスは付け足した。


「その剣は、大昔の森の民が、魔力を込めて作った剣なんだと。」


「森の民?」


それは珍しい。


森の民には、鍛冶師はほとんどいない。

郷の道具はほとんど木か土か石で作ってあるし。

金属の道具はあまり使わないからだ。


「なにせ、古代の魔術ってのは、予想もつかないくらい強力なもんらしいからな。

 危険だ、っつって、今はほとんど禁術となって、封じられている。

 だけど、その剣みたいに、ひょっこり現れてしまうこともあるんだな。」


世界則の番人、だっけ。

この剣を、この世界に復活させたのは。


だけど、そうか、番人も、世界則のために、何かを創り出す、ことはできないんだ。

隠されていた何か、を、喚び出せる、だけなんだ。


「その剣には世界を滅ぼす力がある。

 けど、それは世界を救える力にもなる。」


だから、ルクスは、この剣をどうにかして制御しようとしているんだ。

剣に選ばれたチビ勇者と共に。


ルクスもやっぱりまだ、世界のことを気にする立派な勇者だ、って思った。












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