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帰りもまた延々、ぐるぐる、歩いて、僕らはあの出入口へと戻ってきた。
お掃除隊と出会わなかったのは幸いだった。
遠いとは思ったけど、結局、僕らはほぼ一日、あの暗い水路の中にいたらしい。
外に出ると、傾いた夕日が庭を照らしていて、夕飯にはちょっと早いかな、くらいの時間帯だった。
約束通り?庭にはバーベキューの支度がしてあって、おまけに大勢人も集まっていた。
普段から僕らのことを助けてくれている人たちだ。
ピサンリの家の双子もいた。
先に始めてくれててもよかったのに、彼らは、僕らの帰りを律儀に待っていてくれた。
それなのに、断るのも申し訳なくて、僕らも有難く、ご馳走になることにした。
だけど、今頃、オルニスとブブは、家でご飯を作って待っててくれてるんじゃないかな。
ちょっと心配になったんだけど。
その辺は、ぬかりはないらしくて、前もって双子が、連絡しておいてくれたみたいだった。
「今、お迎え隊が行っています。」
「もうじき、帰ると思います。」
お迎え隊?
そこへ、がらがらと音を立てて、荷車を押した人たちが入ってきた。
荷車には大きな木箱がのっている。
荷車を止めて、荷物を抑えていたロープを解くと、いきなり木箱の蓋が開いて、中から、オルニスとブブが飛び出した。
「うわっ!」
「やあ、ごめんごめん。
驚いたかい?」
オルニスは陽気に笑う。
こんなふうに笑うオルニスを久しぶりに見たなあと思った。
「あるじさま、おかえりぃ。」
ブブも寄ってきて、僕の頬にほっぺたをぺたりとくっつけた。
最近、ブブのお気に入りの挨拶なんだ。
もちっとして、ちょっとひんやりしたブブのほっぺたが、すごく気持ちいい。
ここのところ、ブブはますます、僕に対してあっさりになっていて、そのまま庭にいた子どもたちのなかに混じって遊び始めてしまった。
子どもじゃない、はずなんだけど。
こうしていると、子どもにしか見えない。
チビ勇者は、ルクスの後ろに隠れるようにして、遊んでいる子どもたちを見ている。
混ざりたいのかな。
声をかけたものかどうか、迷っていたら、双子が駆けてきた。
「君も。」
「こっちに来るです。」
双子はチビ勇者を挟んで、両方から手を引っ張った。
「あ。あの。えと…」
チビ勇者は、不安そうな顔で、ルクスを見上げる。
「おう。行ってこい。」
だけど、ルクスにそう言われた途端に、弾けるように嬉しそうになって、そのまま双子に連れられて行ってしまった。
「…あいつ、まだ、あんな、チビなんだよなあ…」
双子に挟まれて走っているチビ勇者の背中を見て、ルクスは呟いた。
その気持ち、僕も分かるけど。
あんな出会い方じゃなかったら、チビ勇者のことも、もっと違うふうに思えたのかな。
みんな、火を熾してバーベキューの支度を始めていた。
僕らは、お客様だから、と言って、涼しい場所に設えられた、特等席に案内された。
お手伝いしたほうがいいかな、とも思ったけど、あっちはあっちでみんな楽しそうだし。
かえって気を遣わせたりして、邪魔になるかもしれない。
ここに運びますから、どうぞゆっくりしていてください、と言ってもらって、有難く今日はお言葉に甘えることにした。
そのうちに、お酒が配られて、みんな乾杯すると、賑やかな宴会へと突入した。
オルニスは、ルクスの抱えているマントでくるんだ剣を指差して、それが、例の?とだけ尋ねた。
「ああ。
どうしたもんかな?これ?」
「…そうだねえ…」
僕に聞かれても困るよ、とは言わずに、オルニスは真剣に悩んでいた。
「壊しても、あんまり意味はないと思うんだ。
また次のが現れるだけだろうから。」
オルニスの考えも、ルクスや僕と同じみたいだった。
「封じる、ってのが一見一番よさそうだけど。」
どこに、とか、誰が、とか、問題だよねえ、とオルニスは続けた。
「それにさ。封じたところで、それって、壊すのと、同じことになる気もする。」
確かに、そうなんだよね。
「やっぱり、あのチビ勇者が、あの剣をちゃんと制御する、ってのが?一番理想的帰結?」
その言葉に、僕ら全員、同時に軽く苦笑していた。
そうなんだよね。
それが一番いいとは、思うんだよね。
だけどもさ。
「じゃあ、誰が、あのチビ勇者の面倒をみるか、だよね?」
そうなんだよ。
「君は………
無理、か。
そらそうだ。」
オルニスはちらっとルクスを見てから頷いた。
ルクスは何も言わなかったけど、言わなくても分かったんだろう。
「いかに君が聖人君子だとしても、彼に対して私情を挟まずにいられるわけがない。
もちろん、それは、僕らだって変わらない。
だけど、だったら、誰に彼を預けるべきなんだろう…」
「アルボルは?」
僕はずっと考えていたことを言ってみた。
まあ、妥当な線だねえ、とオルニスも頷いた。
「アルボルは、今、どこにいるのか、分かる?」
「それなんだよな。」
ルクスは軽く苦笑した。
「ラブリーフライングソーサーちゃん、が使えねえから、遠話装置もない。
つまり、俺にはやつらへの連絡手段がない。」
「王都、には、いない、かもしれない、ねえ…」
今、王都には、前の王様がいて、ルクスのことを信じて従ってくれていた人たちの消息は、まったく分からなくなっていた。
「玉座には?もう、飛べないの?」
「あれは、真っ先に壊されたからなあ。」
まあ、そりゃそうか。
「それに、俺は、あいつの師匠には、違うやつを考えていたんだ。」
「違うやつ?」
オルニスと僕は同時に尋ねた。
そうだ、とルクスは大きく頷いて、その名前を言った。
「フォルティス。」
「フォルティス?」
誰?
「そんな人、いたっけ?」
そう聞き返したら、ルクスは、思い切り笑い出した。
「そっか。お前は知らなかったか。
いにしえの勇者だよ。
あの最果ての森に封じられていた。」
「いにしえの、勇者?」
大昔、世界を救おうとした勇者。
闇に呑まれて、強力な結界の中に千年閉じ込められていた。
「だけど、彼は、もう…」
消滅した、んじゃ、ないの?
「俺はあのチビを連れて、フォルティスに会いに行こうと思う。」
それは、提案、でも、相談、でもなくて、宣言、だった。
僕らにはもう、反対はおろか、意見を言う余地さえ、ないみたいだった。




