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延々、延々、ほんっとうに、延々、歩いて、ようやくチビ勇者の隠れ家に着いた。
歩いていて気付いたけれど、水路の中は、長い間に何回も、拡張や修復を繰り返されたらしく、そのたびに、より複雑に入り組んだ迷路のようになってしまっていた。
修復せずに、う回路を作って放棄されているところもあって、チビ勇者が隠れ家にしていたのも、そんな大昔に放棄された水路のひとつだった。
そこに辿り着くには、増設された水路から、脇道へ入り、さらに、放棄されたところに入ってから、ぐるっと大回りする、という、とんでもない遠回りをする必要があった。
だから、うんとうんと遠かったんだ。
ちらっと、本当に、ちらっとだけど、頭の隅を、もしかしたら、チビ勇者は、僕らをわざと遠回りさせて、どこか自分の有利な場所へ連れ込んで、いきなり襲い掛かるつもりかもしれない、って考えが、過ぎった。
辿り着いてみれば、そんなのはまったくの邪推で、チビ勇者はわざと遠回りもしていなかったし、本当に、ほとんど一本道を、てくてくと歩いただけだった、って分かったんだけど。
それが、分かって、なんだか、僕は、ほっとするより、すごく、苦しくなった。
自分が、とても意地の悪い本物のワルモノになってしまった気がしたんだ。
だけど、疑ってごめん、とか、本人に言ったものかどうか、迷う。
そんなの、わざわざ白状するとか、疑ってた事実を告白するのと同じことだし。
だいたい、そもそも、お互いに信用し合う仲間、とは、まだ思ってないわけだし。
と考えたところで、思った。
僕は、これまで、苦手だから近付かない、とはよく思ってたけど。
この相手は信用できない、と、思ったことって、なかったんだ。
仲間と仲間じゃない人、の区別は明確にあったけど。
仲間じゃない人、ってのは、ただ単に、親しくない、ってだけで。
疑ってかかる相手ではなかった。
だけど、今、僕は。
チビ勇者のこと、疑ってるんだ。
会ったことはないけど、ルクスが追い出した王様とか、多分、出会っても、どれだけ話しをしても、きっと分かり合えない、好きになれない、と思う人はいる。
多分、その人のことは、信用できないし、仲間にもなれない。
言うこと全部疑うだろうし、そもそも、話しもしたいとも思えないと思う。
だけど。
チビ勇者は、直接会って、話しもして、その言葉をある程度は信じていて。
なのに、こういう疑いの気持ち?みたいなものが、こう、むくむくと、湧き上がってくる、みたいなの、って…
そういうこと、悶々と悩んでたら、そっと、誰かが僕の手を掴んだ。
見下ろすと、僕の顔を見上げるチビ勇者と目が合った。
その瞳は、僕のことを本当に心配しているみたいで、僕はまた、胸がぐっと苦しくなった。
「…ご、ごめん…」
思わず謝ったら、チビ勇者は、きょとんと首を傾げた。
「あ。いや。あの。…ぼんやりしてて…」
正直に告白もできなくて、曖昧に誤魔化したら、チビ勇者は、その言い訳を全面的に信じて、にこっと笑ってくれた。
うっ。
胸が、痛い…
僕って、こんな、小さい子相手に、誤魔化す、みたいなこと、嫌いだったはずなのに。
「疲れたか?
かなり歩いたからな。
少し、休んで行くか。」
ルクスは振り返ってそう言ってくれた。
ルクスも多分、僕の悩んでいたことには気付いてなくて。
単に、体力のない僕が、疲れて無口になってる、って思ってくれてるんだ。
だけど今は、ふたりの誤解にそのまま乗っかることにした。
チビ勇者は、はっとした顔をして、隠れ家の奥に積み重ねてあった布を何枚も持ってきて、そこに敷いてくれた。
丸めた布を背もたれみたいにして、さあ、座れ、とばかりに僕を見る。
どこかで拾ってきたらしい、汚れたボロ布で作った長椅子だったけど。
素敵な休憩場所に見えた。
「ごめん。有難う。
君のほうが僕よりずっと小さいのに。
僕が使わせてもらってもいいのかな?」
そう尋ねたら、さっきよりもっとにっこりして、どうぞ、って言ってくれた。
優しいんだ。このチビ勇者は。
優しくて思いやりもあって、嘘もつかない。
なのに。
このチビ勇者は、アルテミシアを…
なんだって、あんなことになってしまったんだろう。
どうして、アルテミシアを傷つけたのは、このチビ勇者なんだ。
それがもし、噂に聞くあの王様だったら、僕は、もっと遠慮なく、嫌いだ、って思っていられたのに。
いや、その王様のことは、もちろん、心の底から、嫌いだ、って思ってるけど。
そんなことを考えてたら、足に力が入らなくなってきて、よろよろと僕は椅子に倒れ込んだ。
それが、よっぽど疲れていたように見えたのか、ルクスもチビ勇者も、すごく心配そうな顔になった。
「水、飲むか?」
ルクスはそう言って、水袋を差し出してくれた。
僕は、有難く一口水を飲んで、それから、精一杯ふたりに笑いかけた。
「ごめん。
ちょっと休んでる。
そっちは、構わず、用事を済ませて。」
ここへ来た一番の目的。
それは、例の剣を回収することだ。
「おう。そうだ。
剣は、どこだ?」
ルクスに言われて、チビ勇者は、大急ぎで、隠れ家の奥へ走った。
さっき、そこから布もたくさん持ってきたけど。
どうやらその辺は、この隠れ家の収納場所、になってるみたいだった。
と。
そのときだった。
ゆらぁり、と、辺りの景色が揺れた気がした。
また、あの、キーンという音が、耳の中に響いてくる。
頭が痛くて、思わず、うっ、と抑えた。
なんだ、これは?
何が起きたんだ?
チビ勇者も、ルクスも、この異変に気付いているみたいだった。
僕ほどのダメージは受けていないけれど、不審そうにきょろきょろと辺りを見回していた。
ふぉん
音にならない、奇妙な気配と共に、それは突然、あらわれた。
その途端に、キンッ、という、固い音が耳に突き刺さる。
僕は、たまりかねて、思わず両耳を塞いでうずくまった。
涙にかすんだ視界の端っこに見えていたのは、真っ黒く染まった大きな剣が、チビ勇者に真っ直ぐに襲い掛かろうとしているところだった。
素早くルクスは弓を射た。
剣に矢を当てて、チビ勇者から逸らそうとしているんだ。
だけど、あの大きくて太い剣に、アルテミシアの矢は、あまりに細くて、無力に見えた。
このままじゃ、まずい!
僕は、高く、手を差し伸べた。
お願いだ。アルテミシア。護って。
「光よ!」
そう喚んだのは、アルテミシアの声だったか、それとも、僕自身の声だったのか。
よく分からなかった。




