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もう一つの楽園  作者: 村野夜市


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チビ勇者に案内されて、僕らは地下の水路に入ることになった。


といっても、隠れ家はそう遠くはなさそうだし、剣を取ってくるだけだ。

それほど大掛かりな冒険、というほどのこともないだろう。


街中を歩かなくちゃいけないから、ステルステント(仮)は必要だ、ということで、ルクスと僕がチビ勇者についていく。

オルニスは夕ご飯の支度があるから、と言って、お留守番になった。

ステルステント(仮)は、範囲は狭いほうが、僕の負担は小さい。

というわけで、ブブにはオルニスと一緒にお留守番をしてもらうことにした。


ルクスは、お守り代わり、と言って、アルテミシアの弓を背負った。

以前、いつも腰につけていた剣は、もうずっとしまいっぱなしになっていた。

ステルステント(仮)さえあれば、戦う必要なんかないかもだけど。

一応?念のため?まあ、だから、お守り代わり、なんだろう。


チビ勇者の使っていた出入口は、ピサンリの親戚の家の庭にあった。

もちろん、断ってから入らせてもらうことにした。


呼び鈴を鳴らすと、はーいと声がして、開いた扉から、わらわらと小さい子たちが零れ落ちるみたいに出てきた。

びっくりしていると、その後ろから、子どもたちの父親らしい人が追いかけて来た。


「いや、まったくまったく、うちのおチビどもは…

 どうも、騒がしくて、すみません…」


ぺこぺことお辞儀をしたかと思ったら、顔を上げかけた中途半端な位置で、そのまま固まったみたいに静止した。


「っっっっっ!!!!!

 お母さん!お母さん!」


なになになに?

いったい、どうしたの?

家の奥にむかって、いきなり母親を呼んでいる。


はいはい、なあに?と家の奥から出てきたのは、父親のお母さん、ではなくて、奥さんらしい人だった。


「あらまあ。これはこれは。」


奥さんも、僕らを見て目を丸くしたかと思うと、さあさあ、どうぞ、と家に招き入れる仕草をした。


「あ。

 いえ、あの、俺たち、ちょっとお庭を通してもらいたくて…」


いきなりなんだか大騒ぎになってしまった状況に、ルクスは困ったように言った。

すると子どもたちの父親は、ぱたぱたと両手を振って言った。


「いえいえいえ、そんな、せっかく、王様と大賢者様に、このようなむさくるしいところに、お運びいただいたのですから。

 今すぐ宴の支度をいたします。」


は、い?


「いえ、あの、宴は、その…」


「ずっとずっと、お目にかかりたいと願っておりました。

 ほれ、お前たち、いつも話しているだろう?

 こちらが王様と大賢者様だよ?」


子どもたちに紹介してくれる。


「うわお。本物、初めて見た!」

「ちゃんと、生きてるんだ。」

「すごい。動いてる。」


んんんんん?

僕ら、なんだか、珍獣かなにかになった気分。


「こら!お前たち、失礼だろう?!」

「もう、まったく、すみません。」


両親は慌ててたけど。

子どもたちは、わらわらと僕らを取り囲んで、大騒ぎを始めた。


「すごい!きれいな髪の毛。」

「指、ほっそーい。なっがーい。」

「背、高いんだね?」

「何食べたら、そんなに伸びるの?」


いやいや。好奇心旺盛な子どもたちには、いつもかなわない。


そのうちに、子どもたちは、僕らの後ろに隠れていたチビ勇者に気付いた。


「君、誰?」

「王様ん家の子?大賢者様ん家の子?」

「ぜんぜん、似てないよね?」

「というか、君、森の民じゃないよね?」


「こーらこらこら。

 いいから、お前たち、家の中に入りなさい!」


父親は子どもたちをかき集めると、押し戻すように家の中へ連れていった。


はあ~。やれやれ。

熱烈大歓迎、どうも有難う。


「あの。それで、俺たち、庭をちょっと…」


ルクスが本題に戻そうとする。


「ああ!

 外で?

 庭がいいですか?

 なら、バーベキューパーティでも…」


「いやあの。宴、じゃなくて、ですね?」


僕らは宴で頭がいっぱいのご夫婦に、なんとか事情を説明しようとした。


「まずは、あの、宴はいったん、忘れていただいて…」


ぜいぜいぜい。


なんとか、説明したけれど。


「あの扉?

 扉、というか、石の板、ですけど?

 あれ、そんなところに繋がってたんですか?」

「あれはもう、何百年もあのままなんですよ。

 持ち上げたら動くとは、知りませんでした。」


いやまあ、つい最近、このチビ勇者も出入りしてましたから、大丈夫だと思います。


「地下水路?

 へえ~、そりゃあまた、知りませんでした。」

「そういえば最近、本家の双子が、見張りを寄越すとかなんとか。」


「またまた、奇妙な遊びを始めたのかと思いましたけどね。」

「ほれ、あの本家は、酔狂な者がよく出ると言われていて…」


いつの間にか親戚の噂話に話しが逸れていきそうなのを、慌てて引き戻した。


「しかし、そのようなむさくるしい場所に、王様や大賢者様を行かせるのは…」

「それならば、わたしが行ってまいりましょう。

 どうか、ここでお待ちください。」


今にも走り出しそうなのを、なんとか引き留め、僕らが行くから、庭を通らせてほしいと、再度、お願いする。


「ええ、もちろん、それは、通っていただいても、何の問題もありませんけれど。」

「それなら、お帰りになるころに、お食事を用意しておきましょう!」

「ああ、それがいい。

 親戚たちにも、集まるように連絡しよう。」


いいことを思い付いたと、行きそうになるふたりをまた慌てて引き留めた。


「いや、あの、その、今は俺たち、あんまり目立つことはしたくないというか。」

「それに、家で留守番してる仲間がごはんは作って待っててくれてますから。」


「そうですか?」

「…残念ですけれど、ご迷惑なら、仕方ない…」


あからさまにしょんぼりするふたりに、僕らは、ぺこぺこと謝った。

迷惑なんじゃないんですよ?

むしろ、おふたりやご家族に、僕らが迷惑になるのが心配なんです。


ルクスとふたり説得して、なんとか分かってもらった。


たかだか庭を通してほしい、というだけで、えらく大変だったけど。

なんとか、許可を得て、僕らは庭にある出入口から、水路へと入ることにした。









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