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もう一つの楽園  作者: 村野夜市


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それから数日して、あの子どもが見つかった、という報せが舞い込んできた。


「この街には、大昔に作られた水路が、地下にあるんだ。

 そこにいるようだ。」


地下の水路?


この石の街の地下には、汚れた水や雨水が井戸に流れ込まないようにするために作られた石の水路があるらしい。


これだけ大きな街の、地面を全部、石で覆ってしまっているから、水の流れも、きちんと管理されるように設計されてるんだ。


「あの、大精霊のヒントで分かったんだよ。」


「あれがヒントになるのも、やっぱり、この街に棲む人たちだからだよね。」


僕には分からなかったもの。


「地下の水路は一番古い内側の街にだけあるんだ。

 その外側に作られた街は、水路は地下ではなくて、地上にある。」


「人が増えていくにつれて、街を、外へ外へと拡張したんだな。

 街の作られた年代も、外に行くほど新しい。」


そうなんだ。


「大昔、この石の街を作った山の民、そのころはまだ、山の民、とは名乗っていなかったかもしれないけど、彼らは、地下に水路を張り巡らせていたんだ。

そうして、狭い場所に効率よく暮らせるような街を作った。

その名残りが、今も街の旧市街に残ってるんだよね。」


世界中のあちこちを旅してまわったオルニスは、とっても物知りだ。


この石の街も、王都も、山の民のご先祖様が作った、ってのは聞いたことあったけど。


「もしかして、王都にもあるの?地下の水路とか?」


「あるらしいよ。

 もっとも、王都は地上の水路を水運に利用してるから。

 地下の水路は、もうずっと使われていない、って話しだった。」


確かに。

王都には、街中を巡る水路が張り巡らせてあるんだ。


あの水路を伝わって、最初に、エエルのたっぷり溶け込んだ水は、王都に行き渡ってしまったんだ。

水路は本当に、王都の隅々まで、人の棲むありとあらゆる場所に通じていた。


「地上の水路は、平原の民の街に多いよね。

 そのほうが、畑の水にも利用しやすいし。

 広く広く、平面的に拡がっていくのが、彼らの街の特徴なんだな。」


そうか。

種族によって、暮らし方も違えば、街も違ってくるんだねえ。


「その地下水路の地図、なんだけどさ。

 今、地図を探して…」


ちょうどそのとき、扉をノックする音がした。


「おや?誰かな?」


オルニスが見に行って、小さなふたり組のお客を連れてきた。

ピサンリの甥っ子たちだった。


「オルニスさん、地図を見つけました。」

「うちの蔵の、古い書物の中にありました。」


ふたりはそう言って大きな皮に描かれた地図をテーブルの上に広げた。

その上に、同じくらい大きな地図をもう一枚重ねる。


「地上の地図はこちらです。」

「千五百年くらい前の地図だから、ずいぶん変わってしまってるけど。」


ええっ?

それって、古文書みたいなもの?

そんな大事なもの、持ち出してきて大丈夫なの?


僕は、何気なく伸ばしかけた手を引っ込めた。

なんだか、うかつに触っちゃいけない気がして。

けれど、双子は気にせず、二枚の地図をぺらぺらとめくって見せた。


「こうして重ねて見るです。」

「ここのこれ、この木の絵が、ここの木です。」


「その隣のこれ、このおうちは、僕らのおうちです。」

「ここの道と、ここの道、これは、変わってません。」


そっか。

千五百年経っても、変わってないとこもあるんだ。

石の街って、すごいな。


ふたりの解説を聞いて地図を見比べると、地下の水路のだいたいの大さが分かった。


「すごいなこれ。めちゃくちゃ、広いじゃないか。」


本当に、一番内側の街全体くらいある。

これ全部見て回るのは大変そうだ。


「水路は今も使われてるので。」

「お掃除隊が定期的にお掃除をしています。」


へえ。今も使ってるの?千五百年前の施設を?


「けれど、お掃除隊は、水路に棲んでる人は見ていないそうです。」

「水路は危ないので、お掃除隊以外の人は、入っちゃいけないことになってます。」


あんな小さい子が、そんな危ないところにひとりでいて、大丈夫なのかな。


「だけど、食糧なんかも調達しないといけないだろうし、たまには外に出てくるよな?

 出入口ってのは、どの辺りにあるんだ?」


はい、と双子はうなずくと、懐から消し炭を取り出して、いきなり地図に直接書き込み始めた。


「水路に下りられる場所は限られていて、ここと、ここと、ここ、にしかありません。」

「でも、こことここは、今はよそのおうちの敷地の中になっていて、入ると泥棒に間違われます。」


「あわわわわ。

 こんな大事なものに、直接書いたりしちゃ、だめだよ?」


僕は慌てて引き留めようとしたけど、双子はけろりとして言った。


「大丈夫、この地図は特別製なので。」

「こうしてこすったら、消えますよ?」


布切れを取り出して軽くこすると、双子の書き込んだ印はきれいに消えてしまう。

やれやれ。

僕は胸をなでおろした。


それにしても、特別製かあ。

流石、千五百年経っても無事なだけある。


双子は地図にバツ印を三つつけて、そのうちのひとつを、大きく丸で囲んだ。


「だから、お掃除隊の人たちも、水路に入るときには、ここの入口を使っています。」


僕らは揃って、その地図を覗き込んだ。


「ここって、大通りに面してるよねえ。

 こんなとこから出入りしてたら、誰かに見られそうだけどな。」


オルニスは、双子の印をしたところを指差して首を傾げた。


「いや、でもさ、こっちの家の敷地の中の入口のほうも、誰かが四六時中見張ってるわけじゃないんだろ?

 だったらさ、お掃除隊の行き来するこっちより、このどっちかのほうが、小僧には使いやすいんじゃないか?」


ルクスは丸のついてないバツ印のほうを指差して言った。


「ほう!」

「なるほど!」


双子はそっくり同じ顔をして、感心したようにルクスに注目した。


「それは、気付きませんでした。」

「流石賢者様。斬新な視点です。」


「いや、斬新もなにも…」


「流石、経験豊富な賢者様の知恵は、純粋無垢な子どもたちには想像もつかないレベルだね。」


オルニスに言われて、ルクスは、うっ、と痛そうな顔をした。


「ここのお家は、僕らの親戚のおうちなのです。」

「こっちのお家は、お友だちのおうちです。」


双子は丸のついていない二か所を指差して言った。


それはなんだか、好都合?


「じゃあ、その二か所を見張ってもらえないかな。」


「了解です。」


双子はそっくり同じに頷いた。















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