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大精霊と話したことを、僕らはオルニスにも伝えた。
あの子どもは、風の動かない場所にいる、って僕が言うと、オルニスは、はっとした目をした。
「そうか。
そこか。」
「?何か、心当たりでも、あるの?」
「いや。
ごめん。まだ、はっきりとしたことは言えない。
けど、それは、みんなに伝えておくよ。」
この街で僕らに協力してくれている人たちに、それを伝えておく、とオルニスは言った。
「あの剣、やっぱりまだ、あの子どもが持ってるのかな。」
「勇者の剣、とか言ってたしね。大事に抱えて行ったんだから、持ってるんじゃないかな。」
「じゃあ、やっぱり、いそいで、彼を見つけて、剣を取り上げないと、だ。」
あの剣でまた誰か傷つけたりしたら、大変なことになる。
オルニスはちょっと困ったみたいにため息を吐いた。
「ただ、その剣が、あの子どもを選んだ、んだよね?
だとしたら、剣を取り上げても、また戻ってしまうんじゃ?」
ルクスも似たようなため息を吐いた。
「もしくは、剣は、小僧の代わりに、またべつの誰かを選ぶだけ、かもな。」
………。
確かに、オルニスやルクスの言うことも、もっともだけど…
僕ら、全員、黙ってしまった。
「なんだ?その、番人?だっけ?
まったくもって、迷惑なやつだな!」
オルニスはちょっと怒ったみたいに言った。
「もしかして、そいつが厄介事、次から次へと起こしていってんの?」
「いや、それは、違うと思うけど…」
番人は、厄介事を起こしたいわけじゃない。
ただ、この世界のエエルを保とうとしているだけ。
って、大精霊は言ってた。
けど。
「にしても、いろいろと、迷惑なのは、違いないよね!」
僕だって、それは同意するよ。
「だけど、そういうもんに逆らっても、なあんもいいことないのは、事実だな。」
ルクスはどこかちょっと諦めてるみたいだった。
「王がルクスや森の民を目の敵にするのは、世界則も何も、関係ないと思うけどね。」
オルニスはぷりぷり怒っている。
「あれは、単なる逆恨みだろ。」
「あいつは、俺に、息子を殺された、って思ってるんだよなあ。」
ルクスは困ったようにため息を吐いた。
「だけど、それは事実じゃない。
ルクスは殺してないし、それどころか、彼を助けてあげたんだろう?」
「レグルスは、どうしてもお父さんには会いたくないのかな?」
そこをなんとかすれば、この誤解も解けるんじゃない?
「いや。アルボルと会いに行ったんだそうだ。
流石にこの事態はほっとけない、ってね。
だけど、王は面会を断ったんだと。
お前はもう、息子じゃない、って。」
「はあ?なんだそれ。」
「さあなあ。あの王の考えてることは、俺にはさっぱり分からん。
ただ、そうだな…
ここのところ、俺がずっと考えてるのは…」
ルクスはちょっと何かを考えるように言葉を切ってから、自嘲的に笑って続けた。
「俺はもう、いろいろと、懲り懲りだ。
いつか、アルテミシアが還ってきたら、あいつだけ守って生きていく。
どこか森の奥深くで、ひっそりと。
それが、俺の望みだ。」
それは、僕らにとって、理解し難い考えじゃなかった。
たいていの森の民は、その考え方には、しっくり馴染むんだ。
だって、大昔のご先祖様たちも、そう考えたわけで。
そうして、森の奥へ奥へと棲み替えていったんだ。
そのご先祖様の血を僕らも引いているわけだから。
「いいなあ、それ。
そのときは、僕も連れて行ってよ。」
「バカだな、君は。
せっかく再会した恋人同士のお邪魔になるだろ?」
「あ。そっか。」
オルニスに呆れたように指摘されて、僕は慌てて、前言を撤回した。
「ごめん。やっぱ、いいや。」
そうしたら、ルクスはちらっと笑った。
「いや、いいよ。お前も来いよ。
というか、お前も来てくれ。
お前も一緒でないと、アルテミシアはいろいろと心配するだろうし。
あいつはさ、お前が生まれたときに誓ったことを、ずっと守ってるからな。」
「なんだっけ?占いのお婆に言われた、って…」
前にアルテミシアに聞いたことあったような…
「お前のことは、アルテミシアと俺が護る、って誓ったんだよ。」
「もう、護って、もらわなくても、大丈夫だよ。」
小さいころならともかくさ。
「ルクスとアルテミシアは、ちゃんとふたり、幸せになってよ。
それが、僕も、何より望むことだよ。」
「彼のお守りなら、僕が引き受けるよ。」
オルニスが笑って僕の髪をかき混ぜた。
どうでもいいけど、なんだって、みんな、僕の頭を、いつもそうくしゃくしゃにしたがるんだろ。
「君も、そんなの、もう、いいから。
ちゃんと、自分の幸せ、一番にしてよ。」
ちょっとむっとして言ったら、オルニスは、ふふ、と小さく笑っただけだった。
「まあさ。
それにしたって、あの剣のことは、アルテミシアの遺していった宿題だからな。」
ルクスはため息と一緒に笑った。
「森に引きこもるにしろ、これだけは、なんとかしてからだな。」
それはまあ、もちろんだよ。
「森に引きこもるなんて、素敵そうな暮らしなんだけど。」
僕もちょっとため息を吐いた。
「僕には、そのご褒美は、まだ少しおあずけかな。」
世界を陥れた混乱。
これをなんとかしなくちゃ、僕には、安楽な暮らしはやってこない。
自分だけ、安穏とするわけにはいかないから。
「じゃ、さ、俺もそれ、一緒にやるよ。
なになに、どーせ、アルテミシアを待つ間の暇つぶしだ。」
「君に、隠棲なんて似合わないよ。
働け働け。」
オルニスにびしびし言われて、ルクスは苦笑していた。




