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あれからルクスにも見てもらって、僕は、どうやら、ステルステント?の魔法のコツを掴めたようだ、というのは確認した。
ただ、ステルステントと違うところもあって、ステルステントは中の人がしゃべってても、その声は外には聞こえないんだけど、僕の場合、中でしゃべると、外にも声が聞こえてしまうようだった。
「なんかさ、なあんも見えんところから、お前の声だけ聞こえるんだ。
不気味だな。」
不気味、はひどいな。
「声、はともかく、音が聞こえる、ってことは、気配を気取られやすいってことだよね。
なるべく音を立てないように気をつけないと。」
なるほど。
その指摘はもっともだ。
ルクスとオルニスにもいろいろ言ってもらって、僕は練習を続けた。
相手が、僕を見つけようとして、感覚を研ぎ澄ませている状態だと、ちょっとした息遣いなんかでも、気取られてしまう。
それが、僕の魔法の弱点だ。
そのあたり、ステルステントは、完璧だったんだけど。
練習しても、それはなかなか、克服できなかった。
「まあさ、そもそも、お前がいる、と知らない場合は、誰もそこまで警戒はしてないだろうしなあ。
全力疾走でもして、ぜいぜいはあはあ言ってるならともかく。
息遣いなんか、そこまで気にしなくても、いいんじゃねえか?」
「そうと知って耳をすませなければ、普通は息遣いなんて気付かないかもしれないけど。
達人級の武芸者なら、気付く可能性もある。
君に必要なのは、どんな状況でも平常心を保ち、呼吸を整える修行かもね。」
またなんか、無茶なこと、言うなあ。
ふたりに言い放題言われつつ、練習を重ねたら、まあ、なんとか、これなら使い物になりそう、ってくらいにはなった。
それで、一度、実際に試してみよう、ってなったんだ。
そんなに遠くに行くのは怖い。
まずは、大精霊のところまで。
僕ひとりじゃ、いざというときに危ないと言って、ルクスもついてくることになった。
ルクスは、アルテミシアの置いていった弓を手に取った。
それは、故郷の森からずっとアルテミシアの背中にあった弓だったんだけど。
アマンじゃ、弓はいらないだろう、って、アルテミシアは、あっさり置いていったんだ。
「ルクスって、弓、使えたの?」
「ああ?お前、俺を誰だと思ってるんだ?」
うっかり尋ねたら、じろっと睨まれた。
「そりゃ、アルテミシアは達人級だったからな。
あれに比べりゃ、大したことないけど。
そうだ、だから俺はもうずっと、弓、使わなかった。
あいつと比べりゃ、確実に見劣りするからな。」
あ、その気持ち、ちょっと分かるなあ。
僕も、アルテミシアの前じゃ、歌、歌えなかったもの。
ルクスはふん、と鼻を鳴らして、素早く矢を番えた。
次の瞬間、アルテミシアが練習に使ってた的にむかって、一本の矢が飛んだと思ったら、その矢は正確に的を射ていた。
「すごい。」
僕は素直に感心した。
ルクスは、そうだろそうだろ、と胸を張った。
「しっかし、あいつの弓、また重くなってるな。
どんだけ怪力なんだ。
これ連射するとか、流石の俺にも、ちょっと厳しいぜ。」
アルテミシアはそれを連射して、そうして、全部、的に当てていた。
「ちょうどいいや。
あいつ、これ、置いていったから。
今のうちに、練習して、追いついといてやろう。」
ルクスは、弓を見て、淋しそうに笑った。
僕のステルステント(仮)の魔法でルクスと僕のふたりを覆い尽くすのは、わりとすぐに習得できた。
それで僕らはいよいよ、外に行く、ことに挑戦することになった。
もちろん、こんなのは、第一段階に過ぎなくて、いずれ、街中もすいすい歩けるくらいまで上達しなければ、使い物になんてならないんだけど。
そのための、これは、大切な最初の一歩、だった。
僕は呼吸を整えて、周りのエエルに心の中で話しかける。
エエルたちはすぐに応えて、ルクスと僕を、ひっそりと隠してくれた。
「うん。大丈夫。見えなくなった。」
確認していてくれたオルニスが、ゴーサインを出した。
ルクスは油断なく弓を構えながら、扉を開いた。
アルテミシアの弓は、今も僕らを護ってくれている。
それに、ちょっと安心した。
僕らは互いに離れないように気を付けて、ゆっくりと、外に足を踏み出した。
早朝。
まだ、夜の明けきらない、薄明の時刻。
外に人の姿は見当たらない。
一番、誰もいなさそうな刻を選んだんだ。
それに、僕の中のエエルは、何故か、この時刻と一番相性がいい。
朝の風がひんやりと気持ちいい。
この時刻、ヘルバがよく外のベンチに座って、風を浴びていたのを思い出す。
ヘルバも、この朝の風が、好きだったのかな。
見慣れた景色は以前と何も変わっていなかった。
だけど、僕らを取り巻く世界は、ずいぶん、変わってしまった。
今の僕らは、この世界を自由に歩き回ることすら難しい。
見慣れた街には、僕らの命すら狙う人たちの目が、無数にあって。
僕らは、その目に見つからないようにしないといけないんだ。
もう一度、自由を取り戻すために。
これは、大事な一歩だった。
ゆっくりと、足を踏みしめる。
じゃりっと、足元で音がして、はっとする。
家の中じゃ、気がつかなかったけど。
足音、ってのも、気配を気取られる原因になるよね。
ブブみたいに、ちょっと浮いたところを、飛べるといいんだけどなあ。
そう思った瞬間、すいっと、僕らの足が浮いた。
バランスを崩した僕は、転びそうになったけど、ルクスがなんとか捕まえてくれた。
「なんだ?これは?俺たち、浮いてるのか?」
「あー、うん。
これは、いきなり、成功しちゃったなあ。」
具体的に考えられたのがよかったのかもしれない。
エエルは、即座にそれを、叶えてくれたんだ。
周りには誰もいなかったけど。
僕らは声を潜めて話した。
やっぱり、これは、今後の課題だなあ。
「このまま、大精霊のところへ行こうか。」
僕は、浮いているのの高度を上げて、ちょっと浮いてるのを、もっと浮いてる、にしてもらえるようにお願いした。
いや、本当、まどろっこしいけど。
とにかく、あの、お願い、なんだ。僕の魔法は。
エエルたちは、ひょいひょいと、ルクスと僕を持ち上げてくれる。
この辺りのエエルとは、最近、いろいろと練習してるからか、馴染みもよかった。
僕の意志は、わりと素直に伝わりやすい。
「お?おおーーーっ、すげーーー。」
素直に喜ぶルクスに、しぃ、と、注意する。
一応さ、声を立てないのも、練習だよ?
そうして。
あの婚礼式の日以来、来ていなかった場所に。
僕らは再び、立っていた。




