表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
もう一つの楽園  作者: 村野夜市


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
459/475

459

ルクスはゆっくりと立ち上ると、懐から、木の実をひとつ取り出した。

あの、王様だったルクスに僕が持って行った、千年にひとつの、願い事を叶える木の実だった。


ルクスは、アルテミシアを見つめて言った。


「婚礼の贈り物を、受け取ってくれ、アルテミシア。」


さっきまであがりまくりだったけど、ようやく少し、落ち着きを取り戻したらしい。

なんとか誓いの言葉を言えて、本人もほっとしたんだろうか。


ルクスは、ひとつ深呼吸をしてから、木の実を割って、言った。


「この世界に、二度と滅びの訪れることがないように。

 恒久的に続く世界を、俺は願う。」


木の実から溢れ出した光に一瞬、世界が昼間のように明るくなった。


「その願い、聞き届けましょう。」


その光の中、厳かに、大精霊の応えるのが聞こえた。


「わたくしは、今このときより、この世界の守護者となり、常しえに、この世界を守り続けましょう。

 世界は、もう二度と、滅びを迎えることはありません。」


大精霊の証言が、世界に鳴り響いた。


本当に?本当に、そんなことが、あり得るの?


僕は、驚きと、どきどきで、胸がいっぱいになった。

だけど、本当に、それがあり得るなら、なんて、嬉しいことだろう。


もっと、早くそう願っておけばよかった。

今になってみれば、どうして気付かなかったのかなって思うけど。


婚礼の贈り物にそれを選ぶなんて、やっぱりルクスはとことん、王様だ。


「これが、俺からお前への贈り物だ、アルテミシア。

 永遠に続く平穏。

 お前がお前のやりたいことをやり遂げられる世界。

 お前に捧げる贈り物は、それしかないと思った。」


「ふぇえ~!」


妙な声が出ちゃった。

ルクスを笑えないや。

みんな、声の出所を探してきょろきょろしたけど、僕だと分かると一斉に笑い出した。


それにしても。なんて、でっかい贈り物なんだ。

流石、やっぱり、ルクスだと思った。


もちろん、ルクスは、アルテミシアだけじゃなくて、この世界に棲む、ありとあらゆるモノのために、それを願ったんだろうけど。

いや、どうかな?

もしかしたら、ルクスは、本当にアルテミシアたったひとりのために、それを願ったかもしれない。


「お前がさ、願い事はよくよく考えて言え、っつたろ?

 軽々しいことは言うな、って。

 だから、俺、ずいぶん迷ったんだ。

 だけど、これは絶対、やっといたほうがいいと思ってさ。」


ルクスは僕のほうを見て言った。


「いや、それはさ、大金持ちになりたい、とか、世界征服をしたい、とか、そういうことには使うな、ってことじゃないの?」


オルニスはちょっと呆れたみたいに言った。


「はあ?

 大金持ちだあ?

 必要なものは、作りゃあいいだろ。

 世界征服?

 俺はもう、王様は真っ平ごめんだ、っつーの。」


ルクスはからからと笑い飛ばした。


「俺の願いはたったひとつ。

 愛する人の望みの叶う世界が、永遠に続くこと。

 あ、研究だの、実験だのは、自力で頑張ってくれ。

 失敗や挫折だって、大切なお前の経験だ。

 俺はそれをお前から奪おうとは思わない。

 ただ、もし、お前が困ってるときは、一緒に乗り越えてやる。

 それを叶えられる世界こそ、俺の望みだ。」


ルクスはアルテミシアの目を覗き込む。

ふたりの視線は互いを捕らえて、互いに見つめ合った。

ふたりにとって、今は、ふたり以外のものは、この世界にはなにもないに違いない。


「俺にとっては、思うままにならないものなんて、お前の心だけだ。

 だけど、それはもう、永遠に、この手の中にある。

 だったらもう、俺、最強なんじゃね?」


まったく、今の君以上に最強な人はいないと、僕も思うよ。


「あー、やれやれ。

 さてと。そろそろ戻るか。」


オルニスは、わざと、思いっきり呆れ果てた、みたいに言った。

そのときだった。


かさっ、という場違いな音が、その場に響いた。

その場違いさに、おや?っと思った次の瞬間だった。


それは、一息に階段を駆け上ると、叫び声をあげながら、真っ直ぐに剣を突き出して、ルクスへと迫っていった。


あっという間だった。

何が起こったのか、分からなかった。


ただ、その剣はあまりにも大きくて、重そうで、切っ先がふらふらと上下に揺れていた。

そんなことだけ、目に入っていた。


真っ先に反応したのは、アルテミシアだった。

いつもと違って、動きにくい花嫁衣裳だったけれど。

アルテミシアは、ルクスの前に自ら躍り出ると、迫りくる剣から身を翻して、襲撃者の肩を掌で突いた。

がちゃんと大きな音を立てて大剣を取り落とした少年を、アルテミシアはそのまま組み伏せた。


「アルテミシア!大丈夫か!」


ルクスは叫びながら、剣を木の下に蹴り落とした。


ルクスもアルテミシアも、今日は剣も弓も身に着けていなかった。

婚礼衣装にそれは似つかわしくなかったから。


こんなふうに襲撃されるなんて、思ってもみなかった。

このまま戦いが始まるのか、と焦ったけれど。

幸か不幸か、少年のほかに、襲ってくるものはなさそうだった。


少年は、まだ年端も行かない、と称されそうな年頃だった。

剣は少年の背丈くらいあった。

どう見ても、からだに合った武器には思えなかった。

少年が剣に振り回されているように見えた。


武器も自由も奪われた少年は、悔しそうにそのルクスを睨みつけて叫んだ。


「ワルモノの、森の民め!セイバイしてくれる!」


「成敗?

 お前、その言葉の意味、ちゃんと知ってんの?」


ルクスは少年の傍にしゃがむと、顔を覗き込むようにして、尋ねた。


「子どもは、こんな夜中に出歩くもんじゃねえ。」


それから、木の下に蹴り落とした剣を見下ろして、ため息を吐いた。


「あんな物騒なもん、いったい、どうしたんだ?」


「お!俺は!勇者だっ!

 伝説の剣を!手に入れたんだっ!」


少年はそう言って暴れたけど、アルテミシアの手からは逃げられなかった。


「ああゆう危ないモノは、もう少し、木の剣かなんかで練習してから、使え。」


ルクスは近所の悪戯小僧にするように、少年の頭をぐりぐりと強めに撫でた。


「くそっ、なにしやがる!」


少年は悔しそうに睨みつけたけれど、アルテミシアの力には敵わなかった。


「離してやれ、アルテミシア。」


ルクスはアルテミシアにむかって言った。


「こいつはまだ、俺たちの敵じゃねえ。」


アルテミシアは頷いて、少年を抑える力を少し緩めた。


その途端に、少年はアルテミシアの手からするりと脱け出すと、素晴らしい速さで逃げ出した。

けれど、逃げる途中、いったん振り返って、僕らを思い切り睨みつけた。


「お前らに殺された王子殿下の恨み、その身に思い知るがいい。

 セイギのテッツイは、お前たちに、下されたのだ!」


…は、い?

セイギのテッツイ?


いや、待って待って待って。

殺されたって、誰のこと?

もしかして、レグルス?

いや、レグルスは生きてるし。

ってか、レグルスって、王子だっけ?

王様だよね?

だけど、他に、王子、とかいたっけ?

うん?それは、なんの話しだ?


聞き返す前に、少年はもうとっくに消え去っていた。

ルクスの蹴り落とした剣は、少年が拾って行ったみたいだった。


「ねえ、あの子、なんか、妙なこと、言ってた…?」


振り返って尋ねようとした僕は、息を呑んだ。


「アルテミシア!」


誰の叫び声かは分からなかった。


アルテミシアは、ゆっくりとその場に崩れ落ち、ぎりぎりルクスがそのからだを支えたけれど、ルクスの腕の中で、辛そうに目を閉じたまま、荒く呼吸をしていた。










評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ