表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
もう一つの楽園  作者: 村野夜市


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
457/474

457

素敵な申し出だ。

とても、とても素敵な。


もちろん、あの夢は、ただの夢じゃなくて、僕は、大精霊とちゃんと会って、約束してきたんだ。


目を覚ました僕は、急いでオルニスのところに飛んで行った。


「花嫁衣裳?」


オルニスは首を傾げて聞き返したけれど、僕が説明する前に、ああ、と分かったように頷いた。


「なんだ、あの人たち、まだ、式、挙げてなかったの?」


「そうなんだよ。」


「意外と、愚図なんだな、あの元王様は。」


その言い方はひどいと思うけど、まあ、事実だから仕方ない。


ふぅん、とオルニスは僕を見た。


「だけど、君は?

 本当に、それでいいの?」


「どういうこと?」


僕は慎重にオルニスを見つめた。


「いや。別に。

 ただ、王様がそんなに愚図愚図してるんなら、君にもチャンスはあるんじゃないの?ってことだよ。」


僕は軽く肩をすくめた。

そんなことは、もうとっくの昔に、決着が着いている。。


「アルテミシアの幸せは、ルクスの手の中にしかないんだ。」


もしも、僕の力でアルテミシアを幸せにできるなら、僕は全力でそうしたい。

だけど、そもそもアルテミシアの幸せは、僕の手の中にはない。

ゼロになにをかけてもゼロなように、そもそもないものは、どうしようもないんだ。


「そんなことは、分からないだろ?

 僕はあの元王様より、君のほうが、ずっと彼女を幸せにできると思うよ?」


「それを決めるのは、君や僕じゃない。アルテミシアだ。

 そして、アルテミシアの望みは、もうずっと昔から、変わらないんだよ。」


でも、そういうアルテミシアの変わらないところも、僕は大好きなんだ。


「僕はさ、ルクスとアルテミシアが幸せそうにしてるのが、一番嬉しいんだよね。」


だからさ、やっぱり、あのふたりの恋は叶ってほしいんだ。

ふたりとも、もうずっと長い間、その思いを抱えてきてるんだもの。


だけど、オルニスはまだ、どこか納得いってないみたいだった。


「人はさ、幸せになるために、この世界に生まれてくるんだ、って、うちのじいさんはいつも言ってた。

 だから、自分が幸せになるにはどうしたらいいかを、一番に考えろ、って。

 君を見ていたら、いつももどかしいんだ。

 君は、君自身の幸せを、もう少し優先してもいい、って、僕は思う。」


僕は、オルニスが僕のことを心配してくれてるのが嬉しかった。

そして、こんな友だちのいる僕は、やっぱり幸せなんだって思った。


「有難うね、オルニス。僕のこと気遣ってくれて。」


「…バカだね、君は…」


オルニスはどこか諦めたみたいに呟いた。

僕はなんだか、オルニスのことを失望させてしまったみたいで、申し訳ないなって思った。


「ごめんね?

 僕はさ…

 幸せになる一番の近道は、誰か自分の大切な人を幸せにすることだと思うんだ。」


ふたりの幸せのために、僕にできることはあんまりない。

それはちょっと、残念だけど。

代わりに、せめて、心から祝福を送りたい。

アルテミシアがそう望んでくれるなら。

族長の代わりだってなんだって、やりとげようって思うよ。


「だから、僕はもう、じゅうぶん、幸せなんだよ。」


オルニスは軽く肩をすくめて、小さなため息を吐いた。

それから、口の中で言うみたいに、もごもごと言った。


「まあ、いいさ。

 君がそう言うんなら。」


どうしたら、オルニスは機嫌を直してくれるかな。

ちょっと困って黙っていたら、オルニスはこっちを見て、すごく優しい目をして微笑んだ。


「でも、僕は、君のそういう優しいところ、大好きなんだっけ。」


「それは、どうも、有難う。」


反射的にお礼を言っちゃった。

だって、大好きなんて言われたら、やっぱり嬉しいもの。


オルニスは、やれやれ、って口に出して言ってから、笑ってくれた。


「花嫁衣裳?

 そりゃまた、無理難題を言うね?」


「ごめんね?

 でもさ、これだけは、なんとかできないかな、って…」


だって、大切なふたりの婚礼式なんだもの。


「僕らの郷じゃ、郷のみんなが少しずつ、花嫁の衣裳を縫ったんだよね?」


「うちもそうだったよ。

 下手くそな人が縫ったところが悪目立ちしてさ。

 僕はせめて、上手な人だけ集めてやりゃあいいのに、って思ってたなあ。」


「その下手くそなのも、味のうちなんだ。

 お祝いの気持ちは、裁縫の上手下手とは関係ないよ。」


「下手くそでも丁寧にやりゃあいいよ?

 けど、下手なやつに限って、雑なんだよなあ…」


オルニスはため息を吐いてから、分かった、って言った。


「街の連中に頼んでみるよ。

 下手くそでも大勢に縫ってもらうのがいいんだろ?」


「それは助かる。

 ここは、僕らの第二の故郷だと思うんだ。

 みんなに縫ってもらえたら、いいお祝いになると思うんだよ。」


「ほんっと、君って、他人のことには、よく気が付くよねえ?」


それって、ほめてる?

それとももしかして、なんだか呆れてる?


オルニスは、街の人に頼んで、新しい布を用意してもらった。


ルクスとアルテミシアには知られないように、僕らは、夜中にこっそり厨房に隠れて、その布をドレスの形に切った。

それから、それを街の人に渡して、なるべく大勢の人に縫ってもらえるように、お願いした。


街の人は、快くそれを引き受けてくれた。

そして、あっという間に、素敵なドレスに仕上がって戻ってきた。


針目はどれもとても丁寧で、きれいな仕上がりだった。

平原の民ってのは、みんな器用な性質なのかもしれない。


そうして、思ったより大勢の人が、アルテミシアの花嫁衣裳を縫ってくれていた。

何よりそれが、嬉しかった。



















評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ