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ヘルバの木のある石の街に着いたのは、ちょうど、もうすぐ夏至祭りってころだった。
久しぶりに戻ってきたけれど、街はあまり変わっていないようだった。
懐かしい景色にほっとして、僕らは、久しぶりに、背筋を伸ばし、フードをはねのけて顔を出した。
初夏の風が、汗ばんだほっぺたに心地よかった。
ふと、目の前を歩いていた人が、手に持っていた小さなゴミを道端に投げ捨てた。
お行儀の悪いことをするものだ、と思わず顔をしかめたときだった。
ゴミは、するするとゴミ箱に吸い込まれていったんだ。
よく見ると、道のいたるところにゴミ箱があって、落とされたゴミは、するすると吸い込まれていくんだ。
これは、昔、僕のかけた魔法、にどこか似てる気もする。
というか、あれがさらに、進化?している?
ゴミ箱を覗き込むと、ゴミ箱の中に吸い込まれたゴミは、生ごみは土になり、壊れた物は新品同様に修復されている。
へえ~、と思わず感心した。
しばらくすると、小型の馬車くらいの大さの箱がやってきて、ゴミ箱の傍に止まった。
するとゴミ箱の中から、土だけが、大きな箱にむかって、吸い取られていった。
大きな箱の中には、もう既に、土がたくさん入っていた。
そっか。
あれは、あっちこっちのゴミ箱から、土だけ回収してまわっているんだ。
大きな箱は、土を回収すると、また次のゴミ箱に移動する。
そうして、次々とゴミ箱から土を回収していった。
その後から、今度は違う箱が来て、今度は修復された物を回収して行った。
感心するくらい鮮やかな技だ。
次々とやってくる箱は、種類別に物を回収して、どこかへ運んでいく。
さっきの箱も、この箱も、誰かが何かをしているわけじゃない。
みんな自分で動いているんだ。
よく聞くと、なんだか鼻歌みたいな歌が聞こえてきた。
箱を動かしているエエルたちの歌だった。
エエルたちは、この作業を楽し気に繰り返しているんだ。
これはたぶん、昔、ピサンリと僕のかけた魔法だ、と思う。
だけど、ずいぶん、立派になった?というか、進化、している。
ピサンリと作った魔法が、こんなふうに続いていて、さらに進化までしていて、僕はなんだか嬉しかった。
あのころここにいた僕らの痕跡は、ちゃんと残っているんだと思った。
前に来たとき、ここの人たちは、生えてきたアニマの木や疑似アマンともうまく折り合いをつけて暮らしているように見えた。
ここには、あえて魔法を使おうとする人たちはあんまりいないんだけど。
代わりに、この場所に仕掛けられている魔法たちが、自ら進化しているんだ。
街中はどこを見てもとてもきれいだった。
ゴミひとつ落ちていない。
これもエエルのおかげなんだなって思った。
ルクスもアルテミシアも、この不思議なゴミ箱たちを、驚いたように見ていた。
ことにアルテミシアは、久しぶりに目をきらきらさせて、すごく感心しているみたいだった。
「魔法って、繰り返しているうちに、エエルたちが、勝手に進化させることもあるんだね?」
「確かに。」
アルテミシアは頷いてくれた。
「それは、研究院にいたころも、よく言われていたことだ。
エエルは、人の喜びの感情が大好きなんだ。
だから、喜ばれると、もっと、もっと、喜ばれるようにする。
そうして、魔法も、エエルたちがより進化させていく。」
「だけどさ、
あれはどうなんだろうな?」
ルクスの声はちょっと暗かった。
「あいつら、気にせずに、どこにでもゴミを投げ捨ててやがる。
エエルたちが働けば働くほど、人のほうは、横着になるんじゃねえか?」
確かに。
道端にゴミを投げ捨てるのは、お行儀のいいことじゃない。
「便利だってのが当たり前になると、喜びとか、感じなくなるんじゃね?」
「そうだな…」
アルテミシアも、悲しそうに頷いた。
「そうなると、エエルはますます人を喜ばせようと、さらに進化をすることになる。
彼らの目的は、人の喜びの感情なんだ。
けれど、人は次第に、ちょっとやそっとじゃ、喜ばなくなっていって…
やがて、無理をし過ぎたエエルたちは、消滅してしまう、かもしれない。」
「!!!
それは、だめなんじゃない?」
僕はひどく焦った。
アルテミシアは悲し気に首を振った。
「だけど、それを止める方法は、ないんだ。
人は便利さに慣れてしまうものだし。
エエルは、一度、喜びの感情の味を知れば、もっともっと、それを受け取りたいって、なるものだから。」
…なんてことだろう…
なんとかならないのかな、それ。
「エエルというのは、そういう存在なんだ。
そこは、どうしたって変えられないからな。」
………。そうなの?
しょんぼりとうつむいた、そのときだった。
ころころころ…
どこからともなく、小石が僕のほうへ飛んできた。
あ、れ?
思わず顔を上げた僕を、素早くルクスが抱え込んだ。
ばらばらばら。
そのルクスの背中にむかって、小さな石がいくつも飛んできた。
そっちのほうを見ると、子どもらしき背中が、何人か走り去るのが見えた。
子どもの、いたずら?
だけど、人に石投げるなんて、よくないよね?
投げられた小石を、ゴミ箱たちが律儀に回収している。
そんなに大きな石じゃなかったから、あたっても怪我はしないかも、だけど…
それは、明らかに、僕ら目掛けて投げられた、ものだった。
「…ってっ…
おい、逃げるぞ。」
ルクスは短く僕らに言った。
見回すと、路地や建物の陰から、こっちを見ている人たちの目がたくさんあった。
みんな自分たちの姿を隠すようにして、僕らの様子を伺っていたんだ。
???
どういうこと?
きょろきょろする僕に、アルテミシアはばさっとフードを被せた。
走れ、とルクスの命令が聞こえた。
僕らはマントを全身に巻きつけるようにして、走り出した。
その僕らの背中に、小さな石が、またいくつか飛んできた。
ここもまた、いつの間にか、僕らは、追われるもの、になっていた。




