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もう一つの楽園  作者: 村野夜市


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夏至祭りも過ぎて、僕らの旅は続いていた。

エエルの少ない場所へ、少ない場所へと目指して行くから、荒れ地の旅が多かった。

そうやって、アニマの苗木を植えるのに適した土地を探して歩いたんだ。


荒れ地の旅は、いつまでやっても、なかなか慣れなかった。

ピサンリと旅をしていた頃は、馬車に乗って移動していたけれど。

今は僕ら、歩いて旅を続けていた。

僕らはあまり荷物は持ち歩かないし。

苗木は、ブブの疑似アマンに保護してある。

アルテミシアは、足が軽くなる護符を毎日作って渡してくれたし。

どうしても疲れて歩けなくなったら、ラブリーフライングソーサーちゃんのお世話になった。


僕らの連れて行くアニマの苗木は、みんな小さく弱くなってしまっているから、あまりにもエエルの少ない場所だと、根付かない。

アニマの木があれば、そこにエエルは供給されるはずなんだけど、そもそものアニマの木を植えるためには、その地のエエルが必要なんだ。

だから、苗木を植えるのに適した場所を探すのは、なかなかに難しかった。

エエルのたくさんある場所なら、アニマの木もしっかり根付くんだろうけど。

そういうところには、アニマの木は必要ないし、エエルが濃すぎると疑似アマンって問題も出てくる。

なかなか、思うようにいかなかった。


それでも、少しずつ、少しずつ、アニマの苗木に適した土地を見つけては、僕らは苗木を植えていった。

そうして、少しずつ、少しずつ、荒れ地を肥沃な地へと変えていった。

それは、とてもとても、ゆっくりした歩みだったけれど。

一歩ずつ確実に、前には進んでいたんだ。


渡れるくらい大きなアニマの木を見つけたら、ルクスは王都にも帰っていた。

一応、王様だし。

いろいろと、仕事もあるみたいだ。


ついでに、例の、僕らを追ってる連中、の続報を聞いてくることもあった。

ただ、みんな律儀にルクスの命令を守って、その連中についてわざわざ調べることはしてないみたいだから、大した情報はなかった。

正体も人数も、相変わらず不明だった。

ただ、どこそこに現れた、と、住民が報告してきた、程度の情報だった。

それも、もうずいぶん前の話しだったりして、あまり有益とは言えなかった。


それに、渡れるほど大きなアニマの木には、滅多に出会えなかった。

エエルの枯れた土地をわざわざ狙って旅していたのだから、当然と言えば当然だけど。

植えたばかりの苗木では、渡りには使えなかった。


王都のみんなは、変わらず元気みたいだ。

民たちも、疑似アマンだらけの環境にも慣れて、すっかり、日常を取り戻しているらしい。

平原の民の、困難にも力を合わせて乗り越えていく力は、本当にすごい。

王都にもまたいつか、行ってみたいなって思った。


そうやって、夏が過ぎ、秋が過ぎ、冬至祭りが過ぎて、春がきた。

僕らの旅も、大きな問題もなく、淡々と進んでいった。

苗木も少しずつだけれど、順調に、減っていってる。

一見、何の問題もな…


ないわけないでしょ!


婚礼式は?

どうなったの?


あれから、ずいぶん日が経ったけど、ルクスもアルテミシアも、婚礼式のことは、すっかり忘れてしまってるみたいだ。


僕らは確かに気の長い民だけど。

気が長いにもほどがある。


そりゃあさあ。

旅を続けてて、落ち着かない毎日だけどさあ。

婚礼式したからって、その後の毎日が何か変わるかって言ったら、多分、このまま四人で旅を続けることに変わりはないんだろうし。

だったら、わざわざそんな面倒なことしなくてもいい、って多分、アルテミシアは思ってるだろうけど。


それでいいの?ルクス。


あんなに大泣きしたくせに。

まさか、このまま婚礼式は立ち消え、なんてことはないよね?

ちゃんと考えてるっぽかったから、安心してたのに。


アルテミシアのほうは、元々、そんなに乗り気でもなかったから、もうわざわざそんな面倒なことは、自分から言い出すつもりはないだろう。


だから、今ここで君が頑張らないとなんだよ。

このままだと、永遠に、婚礼式なんか、できないよ?


相変わらず、僕はひとり、気をもんでいた。


夏くらいまでは、僕も、けっこうしょっちゅう、聞いていたんだ。

婚礼式は?いつするの?って。


だけど、その頃は、まだ、追手?のことも心配だったから。

それを言われると、まあ、仕方ないなあ、今はそれどころじゃないっかあ、って思ったんだ。


秋は秋で忙しくてさあ。

ちょうどそのころ、苗木を植えるのによさそうな土地を、立て続けに見つけたりして。

今は、先にこっちだ、って言われたら、まあ、仕方ないなあ、今もそれどころじゃないっかあ、って思った。


冬至祭りはさ。

すっごく楽しかった。


たまたま少し大きな街を通りかかってさ。

久しぶりに宿をとって、屋根と壁のあるところで眠ったんだ。

冷たい風に吹き晒されることもないし、あったかい暖炉もあるし。

ふっかふかのベットと、いい匂いのするシーツ。

もう、幸せ過ぎて、寝込みそうだったよ。


お祭りの屋台なんかもたくさん出ていてさ。

僕ら四人で出かけたんだ。


もちろん、僕とブブは、途中で、はぐれてあげたさ。

せっかくのお祭りなんだもの。

ルクスとアルテミシア、ふたりにしてあげよう、って。

道に迷ったわけじゃないよ?

僕は相変わらずあれだけど、ブブは、ちゃんと道、憶えられるからね。


先に宿に帰っといたら、少しして帰ってきたふたりは、青い顔、してた。

そうして僕は、勝手にいなくなるな、って、こっぴどく、叱られた。

ふたりとも、いなくなった僕を、探し回っていたんだ。

ごめん。なんか、作戦は失敗だったみたい。


ふたりきりにしてあげたかったんだ、って言い訳しようとしたんだけど。

血の気を失ったふたりの顔見たら、それも引っ込んじゃった。

心配をかけてしまったのは、僕の過ちだ。


ちゃんと、先に帰る、って言えばよかったのかなあ。

だけど、そんなこと言ったら、ふたりとも、帰る、って言いそうだし。


アクセサリーを売ってた小さな屋台の前で、ふたりは、互いへの贈り物を選んでたんだ。

なんか、もう、僕は、お邪魔でしかないよね、って思っちゃった。

それって、もしかしたら、僕も、なんかちょっと、淋しかった、のかもしれない。


おわびに、なにかできないかな、って思ったんだけど。

僕、いまだに、お金とか、あんまり持ってないし。


そうだ。


久しぶりに、僕は笛を吹くことにした。


疑似アマン騒ぎの後は、この笛もあまり吹かなくなってたんだけどさ。

この辺は、そんなにエエルも濃くないし、少しなら大丈夫なんじゃないかな。


郷の冬至祭りでよく歌ってた歌。

その歌、一曲だけなら。


そっと、息を吹き込んだら、懐かしい音がする。

ずいぶん長く吹いてなかったのに、その音は少しも変わってなかった。


馴染んだ曲だから、もう指が覚えている。

夜だから、煩くないように気を付けて、僕は、静かに笛を吹いた。


ルクスもアルテミシアも、驚いた顔をして僕を見ていたけど。

アルテミシアは、その場に立つと、笛に合わせて歌ってくれた。


久しぶりだ。アルテミシアの歌。

なんてきれいなんだろう。

ふたりを困らせて怒らせてしまったけれど。

やっぱり、今夜は、素敵な夜だ。


僕らの歌が、やわらかな渦を巻き、拡がっていくのが分かる。

歌にのせた祝福が、街を覆い、さらにその先へと拡がっていく。


今夜は冬至祭り。

世界に小さな幸せが、たくさんたくさん降りますように。


そんなふうに、冬至祭りも過ぎていった。


翌日には、また普通に旅を再開して。

寒い冬は辛かったけど、助け合って、なんとか乗り越えた。


そうして、風の中にあたたかな気配を感じて、黄色い花が咲き始めたけど。

そのころには、ふたりとも、婚礼式のことはすっかり忘れたみたいだった。

僕は、どうなったの、って聞きたかったけど。

なんだか、言い出せずに、また日だけ過ぎていった。








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