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もう一つの楽園  作者: 村野夜市


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怪しげなやつらに追われている。

その報せに、とりあえず逃げだした僕らだったけど。

そこから数日、怪しげなやつら、は、僕らの周囲には現れなかった。


僕らの旅は、いたって平穏に続いていた。


「ねえ、その、怪しげなやつら、ってのは、どういうやつらなの?」


とにかくびっくりして、早く逃げなくちゃって、頭いっぱいになってて、実際のところ、詳しいことは何も知らないな、って、何日かしてから、ようやく気付いた。


ルクスもアルテミシアも揃って首を傾げた。


「さあなあ。

 王都の連中も、調査?とかしてくれてるらしいんだけど…」


「みんな、忙しいからな。

 特命隊のやつらも、出払ってるし。

 王都の民だって、ほっとくわけにいかないだろ?

 民の暮らしは、毎日続いていくんだからな?」


い、いやいや、そりゃそうだけどさ。


「まあさ。

 俺たちとしては、その報せだけで、じゅうぶんなんだ。

 だからもう、こっちのことには、余計な人員は割くな、って言ってきた。」


「自分たちの身は自分で守るさ。」


ええっ?

それで、いいの?


呑気に答えるふたりに、僕は逆に心配になった。


「敵の正体も、人数も、何も分からない、ってこと?」


「敵、ってさ、そもそも、敵かどうかも、本当のところは、分かってない。」


「ただ、あたしたちを探してる、ってだけだからね。」


「もしかしたら、ただの熱狂的なフアンかも知れないしな?」


ふたりは顔を見合わせて、からからと笑う。

僕はなんだか、腹が立ってきた。


「そんな!

 あんなに焦って、逃げてきたのに?」


「いや、そりゃ、あそこの連中に、迷惑はかけたくなかったからな?」


う。それ言われると弱いけどさ。


「あの結界の森は、まだ、できたばっかりだ。

 あの近くで、不用意な事態を引き起こしたくはなかったんだ。」


アルテミシアはちょっと説明するみたいに言ってくれた。


「あの結界は確かに強固だけれど、これまでは、内に闇を封じていたのが、これからは、内側から膨れ上がるエエルを抑え込むようになるからな。

 いわば、力の流れは逆になるわけだ。

 その状況に、あの結界がどこまで耐えうるかは、まだ、未知数だしな。」


「そのために、全部の木に護符貼って、結界を強化もしてきた。

 要の守もいることだし、問題はないと思うけどな。」


「ただ、エエルの暴走は、ある意味、エエル不足と同じくらい厄介な問題だ。

 可能なら、今は、なるべく、結界の森には余計な負担をかけたくなかったんだ。」


ふたりは代わる代わる言った。


つまりはさ。いろいろ考えて、急いで出発したんだ、ってことだよね?

それは、もう、分かったけどさ。


「せめて、婚礼式くらい、やったらよかったのに…」


僕は、むぅ、と口を尖らせた。


そのくらいの時間は、あったんじゃないの?

まあ、結果論だけどさ。


「ごめんな?」

「ごめん。」


ふたりは、息ぴったりに謝った。


ふんっ。

仲良しじゃないかっ。


なんか、余計な心配しかかったけど、いらなかったよ。

まあ、いらない、って、分かってたけどさ。

ちゃんと!分かってた!けどね!


むっつり押し黙ったら、ルクスが困って宥めるように言った。


「まあまあ。

 もう、ここまで待ったんだからさ。

 あと、もう少しくらい待つのなんか、どうってことないじゃないか。

 せっかくの婚礼式なんだから。

 やっつけで済ませりゃいい、ってもんじゃないだろ?」


それは!…その通りだけどさ。


「あたしは、やっつけでも、よかったんだけどね?」


アルテミシアは相変わらず飄々とそんなこと言うんだけど。


「バーカ。俺はそんなんじゃ、認めねえ。」


ルクスはきっぱり言い切った。


僕は、思わずルクスの手を取りたくなった。


よかった。

ルクスがそう言ってくれて。

あのときは、ルクスのこと役立たずだって思ったりもしたけど。

ちゃんと、考えてたんだね?よかったよ。


「婚礼式なんて。

 お互いの気持ちを誓い合えれば、後のことは、どうでもいいって思うんだけどね?」


アルテミシアはとことん効率主義だ。

それに、ルクスは、自信たっぷりに返した。


「心配するな。

 お前の気持ちは、わざわざ誓わなくったって、もう分かってる。」


うへっ。

君たちの会話にあてられて、僕、鼻血が出そう…


それにしても。

婚礼式のこって聞いただけでおいおい泣いてたのに。

いつの間にルクスってば、そんなにしっかりしたんだ。


ルクスは真面目な顔をして、アルテミシアを見つめた。


「一生に一度の大事な婚礼式なんだから。

 せいぜい、準備もちゃんと、整えたいんだ。」


「婚礼式は、一生に一度とは限らないぞ?」


うっ。

アルテミシア!

今、ここで、それ、言う?

いや、それ、一般論、だよね?


ルクスは、にやりと笑った。


「ああ。お前のは、どうか知らねえ。

 けど、俺は、生涯に一度だ。

 いや、この先何度生まれ変わっても、お前以外のやつとは結婚しない。

 まあ、生まれ変わるたびに、婚礼式くらいは、やるかな?

 そうだな。

 お前の花嫁衣裳なら、何回でも見たいからな。」


うへっ!!!ぐはっ。くへっ。

僕はもう、さっきからダメージ受けまくりですけど。


このルクスの台詞には、流石のアルテミシアも黙り込んだ。


ちらっと見たら、大きく目を見開いて、軽く唇も開きっぱなしになってて…

それから、みるみる、頬を真っ赤に染めた。


うっ。

なにその顔。見たことないよ?

初めて、アルテミシアのこと、可愛い、って思ったよ?


「けど、今生は、これ一回きり、だ。

 だから、ちゃんと、準備したいんだ。

 世界一、きれいな、幸せそうなお前の花嫁姿を、見せてもらえないかな?

 どうか協力してほしい。」


ルクスは真剣な目をしてひざまずくと、アルテミシアに懇願するように胸に手を置いて頭を下げた。

僕らの最上級の誓いの礼。

こんなことされたら、流石のアルテミシアだって、頷くに決まってる。


「あ。その…

 ごめん…」


ええっ?

ごめん?

なに、その、ごめん?

ごめん、なの?


おたおた焦る僕とは対称的に、ルクスは頭を下げたきり、微動だにしない。

いや、もしかして、あんまりびっくりして、気を失ってるのかも…


アルテミシアはそのルクスの前に自分も膝をついて言った。


「ごめん。

 あたしはさ、そういうの、なんか、疎くてさ。

 悪いけど。その。

 よろしくお願いします。」


訥々と言って、アルテミシアは、丁寧にお辞儀した。


気を失ったのかと心配したルクスだったけど。


「おう。任せとけ。」


顔を上げてにやっと笑ったかと思うと、いきなりアルテミシアを、ぎゅっと抱き寄せた。


う。

もしかして、準備の間、ずっとこれ、僕、横で、喰らい続けるんですかね?


もう、とっとと、くっついて、くれないかな…












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