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もう一つの楽園  作者: 村野夜市


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わいわいがやがや。

昔も今も、人も木も。

子どもってのは、騒がしいものだと、決まっている。


「じゃあ、みなさ~ん、自分の苗木は、ちゃんと、持ちましたかあ?」


僕は、みんなに聞こえるように、声を張り上げた。


「は~い!」


と声を揃えて応える子どもたち。

なんて、可愛いんだろ。


彼らは、ブブの疑似アマンにいたアニマの主たちだ。

総勢、九十九本。

五百本以上いる中から、なるべくよく育っていて、丈夫そうな子たちが選ばれた。


アニマの木の移植は初めての試みだ。

いろいろ、書物とか読んだから、知識は一応、ある。

多分、大丈夫だろう、とは思うんだけど。


なにせやったことないことなのに。

いきなり、こんなに難しそうな土地に。

こんなに大勢いっぺんに植えるなんて。


もっと、なんでもなさそうなところに、一回、やっとけばよかったんだけど。

なんて、後悔したって、いっつも後の祭り。

そもそも、なんでもなさそうなところには、アニマの木を植える必要とか感じないわけだし。

やっぱり、なんかありそう、な場所に植える、ってのは、もう、宿命、だよね?


あとはもう、ぶっつけ本番でも、やるしかない、って、なんだか、いつものパターンだ。


だけど、やるからには、きっとうまくいかせてみせる、って、僕は気合だけは、入っていた。


「これから、疑似アマンを出ます。

 もし、怖い、とか、行きたくない、とか思う人がいたら、手をあげてください。」


子どもたちは皆、固唾を呑んで周りを見回したけれど、手をあげる子はひとりもいなかった。


「じゃあ、心の準備はいいですね?

 行きますよ?」


「は~~~い。」


ここは元気に手をあげて返事をする。

この返事の仕方は、ブブ譲りだな、とちょっと思った。


子どもたちを引率するみたいに、僕は先頭に立って歩き出した。

目の前に、疑似アマンを出る扉が開く。

あの先は、こことは違う、過酷な外界だ。


安全安心なゆりかごの外へ、彼らを連れて行く。

彼らは皆、傷つき、力を失って、ここへ来た。

外の世界は、きっと、怖いだろうと思う。

だけど、誰ひとりとして、足を止めることはなかった。


結界の要の木の周りには、ご先祖様たちが、壁になって護ってくれている。

あの内側には、外で起こっているエエルの変化は届かない。


闇にエエルを吸い取られずに、森のエエルの量を増やす。

そうすれば、森の結界も強化できるし、僕らにとっても、有利になる。


これはそのための作戦だ。


疑似アマンから出た子どもたちには、ひとりずつ、村のご先祖様たちがついてくれた。


九十九人のご先祖様たちは、九十九人のアニマの主と手を繋ぐ。

はじめましてぇ、よろしくぅ、なんて言ってる組もあって、ちょっと微笑ましい。


「じゃあ、みなさん、打合せした通りに。

 それぞれの位置に連れて行ってあげてください。」


「承知した。」


ルクスの描いた森の地図。

アニマの木の発生するエエルが、互いに干渉せずに、一番いい状態で相乗効果をもたらす。

精密な計算によって求められたその位置には、小さな丸がつけてある。


ご先祖様たちは、その丸の位置に、アニマの主を連れて行くんだ。


「…なんか、不思議な光景だな。」


横で見ていたルクスは、首を傾げてそう言った。


ご先祖様も、アニマの主も、ルクスには見えないから、今のこの状況は、アニマの苗木が、ふよふよと宙を飛んで移動している、って感じに見えてるのかも。


その光景を想像して、僕もちょっと笑った。

確かに、それは、不思議に見えるかもなあ。


「木が、自分で歩いていって、自分を植えるとはねえ。

 森の民のあたしでも、初めて見たよ。」


アルテミシアも感心したみたいに言った。


「そういやさあ、ヘルバの蔵書に、そんなこと、書いてあった気もするんだ。

 木の主を喚んで説得すれば、木は、自ら歩いて移動する、って。」


ルクスは思い出したみたいに言った。


「あれ、俺、なんかの比喩か、おとぎ話だと思ってた。」


「森にいたころ、森の手入れは、族長の秘術だったからな。

 族長以外は誰も知らない。」


「多分、この秘術には、エエルがたくさんいるんだろうな。

 あのころの世界じゃ、エエルを使うこと自体、禁忌だっただろ?

 おおっぴらにはやりにくかったのかもなあ。」


「エエルの少ないこの場所で、あれが可能なのは、彼らがアニマの木だから、ってのもある。

 アニマの木ならば、自らの移植に使うエエルは、自ら発生させられるんだな。」


「苗木なのも、かえってよかったのかもな。

 大木を移動するのとは、必要なエエルが違う気もする。」


ふたりの話すのを聞いていて、僕はいちいち、なるほどなあ、と思っていた。


その間にも、ご先祖様とアニマの木の主の組は、次々と所定の位置へとむけて、出発していく。

その最後の組に、僕もついていくことにした。


最後の組は、一番遠く、ほとんど森の端まで行く組だった。

アニマの木の主は、不安そうな様子もなく、ピクニックに行く子どもみたいに、楽しそうだった。


そこへ行く道々、先発したアニマの木を見かけることもあった。

ご先祖様は、しげしげと地図を眺めて、アニマの木の主に、苗木を植える場所を指示していた。


「おーい。

 順調ですか?」


「おや。賢者様。

 はい。これから、植えるところです。」


そう言って手を振る人たちに手を振り返しながら、僕らも、目的地へと進んだ。


実際に歩いてみると、ルクスのつけた丸は、絶妙な位置にあった。

互いの姿は直接見えないけれど、互いの気配は感じ取れるくらいの場所。

これなら、アニマの木の主たちも、いつでも仲間同士、情報交換できるだろうし、淋しくなったりもしないだろう。


そうして、とうとう僕たちも、目的の場所に辿り着いた。


「じゃあ、ここ。

 ここの辺りに、植わってください。」


ご先祖様の指示に、アニマの木の主は、はーい、と手をあげた。


僕は、木が根を下ろしやすいように、軽く地面に穴を掘った。


「…っぃょっ、っこいしょっ!」


アニマの木の主は、そう呟きながら、自分の苗木をその穴の中に置いた。


すると、木から、するすると根が延びて、あっという間にそこに根を張った。


「おおお~~~っ。」


僕ら三人、同時に、感嘆の声を上げて、それから、同時に笑った。


アニマの木をたくさん植えたからか、辺りには、少しずつエエルの気配が漂い始めていた。

唸り声しかあげなかった森の木々も、口ずさむように、かすかに歌を歌いだした。


「木を植えたら、水をあげないとね。」


僕は、水のエエルの気配を手繰って、雨を喚んだ。

元々、森ってところには、水の気配はあるものだし。

そんなに難しいこともない。

森の木々は、新しくやってきた子どもたちを歓迎するように、雨を降らせる力をくれた。

結界の内側、静かな森に、優しい雨が降り注いだ。


植えたての苗木の葉っぱに、小さな雫がいっぱいついて、きらっ、きらっ、と光る。


「う、わ~、なにこれ?

 すっごく、いい感じ~!」


アニマの木の主は、嬉しそうにそう叫ぶと、やわらかな風に乗って、楽しそうに舞い上がった。


「あはははは…」


うんと高いところから、笑い声が聞こえてきた、そのときだった。


ふぉん、と目の前のアニマの木が光った。


ふぉん。

ふぉん。ふぉん…


連鎖するように、森のあっちこっちに光が灯る。

定着したアニマの木が、光り始めたんだった。







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