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もう一つの楽園  作者: 村野夜市


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ブブの疑似アマンに、アニマの木は、五百本くらいいた。

いつのまに、こんなに、って思ったけど。

トゥーレから王都に行く途中の森で、そういえば、せっせとアニマの木を救出したっけ。

王都の過密なアニマの木の方は、もうぜんぶ、特命隊に任せてきたんだけど。

それなしでも、こんなにいたんだ、って改めて驚きだった。


壁や怪物にエエルを吸い取られていたアニマの木たちは、みんな、休眠状態に入ってしまっていて、主もぐっすり眠ってしまっていたんだけど。

疑似アマンの平穏の中、ゆっくり休んだ主たちは、少しずつ、復活していたんだ。

ただ、眠りから覚めた彼らは、木が苗に戻ってしまったみたいに、幼児の姿に戻ってしまっていた。


けど、幼い姿でも、彼らももう立派なアニマの木だ。

いつまでも、疑似アマンで保護しているより、ちゃんと、土に植えてあげたほうがいい。

ブブの疑似アマンは、彼らにとっては、安全安心なゆりかごみたいなもの。

成長すれば、いずれ、外の世界に行くんだ。


それにしても、元気に駆け回る主たちを見ているのは楽しかった。

これまでに会ったアニマの木の主たちは、もうみんな、一人前の姿になっていて。

大きく育ったアニマの木の傍に、静かに佇む、って感じだった。

だから、こんなふうに駆け回るのは、初めて見た光景だ。


彼らは、元々、精霊だったり、人だったり、ひとりひとりに物語がある。

ただ、アニマの木の主になったときに、それ以前の存在だったときの記憶は、ほとんど失くしてしまう。

ここにいる彼らは、みんな、同じころに生まれた子どもたちのように見えた。


ひとしきり確認してから、戻った。

アルテミシアとルクスは、テーブルに大きな地図を広げて、作戦の相談をしていた。


「やあ、アニマの木は、何本くらいいるんだ?」


僕の顔を見るなり、アルテミシアが尋ねた。


「五百、はいると思う。」


「へえ。けっこういたんだな。」


ルクスはちょっと感心したみたいだった。


「そうか。

 それだけいるなら、やっぱり、あれを使うか?」


アルテミシアは、何かを企むような目をしてルクスを見た。


「よし。いっちょ、やるか?」


ルクスもにやりと笑って、僕を手招きした。


近付いてみると、地図には、小さな丸が、たくさん描かれていた。


「この、丸、は?」


「アニマの木を植える場所だ。」


こんなに?


僕は息を呑んだ。


丸は本当に、地図のいたるところに描かれている。

いったい、いくつあるんだろう?

ざっと見た感じ、百以上はありそうに見える。


「あの子たちは、まだ若木だからな。

 発生させられるエエルの量も少ないだろう?

 それに、この土地は、極端にエエルが少ない。

 まばらに植えたんじゃ、あの子たちを保つエエルが足りなくて、みんな枯れてしまう。」


「一度に大量に植えることで、互いに互いのエエルを補って、共生できるんじゃないかと思うんだ。」


なるほど。

それも一理あるのかもしれないけど…


「こんなに植えて、大丈夫なの?」


アニマの木が過密になり過ぎて、王都は大混乱だったんだ。

だから、わざわざアニマの木を植え替えて、減らしているくらいなのに…


「ここには人は棲んでないからな。

 大きな混乱はないだろう。

 それに、あの強い結界は、外にエエルを漏らさない。

 森の外にも大した影響はないだろう。」


「いずれはここを、エエルを大量発生させて、そのまま貯蔵する土地にしよう、とかも考えてるんだ。

 まあ、いろいろ、無事に済んだら、だけどな?」


なんとまあ。

そんな先のことも考えてるんだ。


「闇の壁とか、怪物とか、瘴気とか、いろんなやつ、相手にしてきたけどさ。」


ルクスはちょっと真面目な顔になって言った。


「闇のやつらには、けっこう、魔法が効く。」


「強力な魔法を使って、なるべく短期決戦でいこうと思う。

 持久戦になると、あたしたちには、不利だ。」


なるほど。それも確かに。


勇者は、平原の民だ。

一般的に、平原の民は、森の民より、体力も、筋力も、根気も、持久力も、瞬発力も、敏捷性も、勝っている。


???


ってか、僕ら、勝ち目あんの?


あ。

だから、魔法、使うのか。


森の民が、他の種族よりもしなにか、秀でているとしたら。

それは、魔法との親和性だ。

森の民は、旧い民だから、まだこの世界にエエルが溢れていたころに、たくさん、魔法を使っていた。

その性質は、ほとんど魔法を使わなくなった僕らにも受け継がれていて、だから、僕ら、魔法を使うと、そこそこに効果を期待できるんだ。

逆に、平原の民は、ほとんど魔法を使わなくなった種族だから。

彼らは、魔法を使おうとはしないし、それに、魔法に対する抵抗力も弱い。


そうか。

だから、ルクスとアルテミシアは、こんな作戦を考えたんだ。


「こんなにアニマの木を植えて、ここ、疑似アマンが発生したりしないかな?」


「ぎりぎり、発生しない間隔にしてある。

 それが、この丸なんだ。」


そう言って、ルクスは、地図の丸を指差した。


「もし、このまま、アニマの木がこの場所で大きく成長したら、ここは疑似アマンだらけになるだろうけどな。」


「それでも、結界で囲って、外から何も入り込まないようにしてある。

 危険なことはない。」


疑似アマンは、そこに迷い込みさえしなければ、危険なことはない。


「アニマの通路を通って、精霊たちがやってくるかも。」


「しかし、その精霊たちも、結界の外には行けない。」


「迷い込んだら最後、精霊たちの棲む不思議の森、みたいになる可能性は、あるかな。」


「まあ、そんときは、そんときだ。」


そんな先のことは、後から考えればいいか。

今はまず、勇者をなんとかしなくちゃ、だ。


「とにかく、今は、大量のエエルを確保したい。」


それには、このくらいのアニマの木が必要なんだろう。


分かった。と僕は頷いた。


「じゃあ、明日から、早速、苗木を植えていくか。」


「あ。

 それなんだけど…」


僕は、あの元気に駆け回っていた子たちを思い出した。


「もしかしたら、一本一本、植えなくてもいい、かも、しれない。」


ちょっと、思うところが、あった。









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