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もう一つの楽園  作者: 村野夜市


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勇者と戦うには、それなりに準備も必要だ。

僕らはいったん、村に帰ることにした。


ルクスはさっそく、剣の手入れを始める。

アルテミシアも、矢をたくさん作った。


僕はといえば、元々、戦いにはむいてないし。

準備、といっても、これといって、ない。

心の準備?くらい?


だけど、じっとしているのも落ち着かない。

ルクスやアルテミシアを手伝おうかと思ったけど、ルクスには、剣は危ないから触るな、と言われ、アルテミシアには、君の作った矢は、鏃が鈍すぎて、使い物にならない、ときっぱり断られた。


ブブは、そんなふたりの間を、ちょこまかと動いて、手伝っている。

有能な使い魔であるブブは、なにかと気が利いて、お役に立つらしい。

だから、ふたりも、ブブのことは邪魔にしないで、あれこれ小さな用事を頼んでいる。


………仕方ない。


家にいても邪魔になるだけだし、僕は、ふらふらと外に出かけた。


だけど、道を歩いていても、頭の中は、もやもやだらけ。

せっかくのいいお天気なのに、ちっとも気は晴れない。


勇者と戦う、なんて。

勇者と戦う?なんて。

いったい、どうしたらいいんだ?


誰かに尋ねてみたいけど。

勇者に対する必勝法、なんて。

誰も知ってるわけ、ないよね?

ましてや、ここは、勇者の帰りを待ってる人たちの子孫の村、なわけだし。

勇者と戦う!とか。

言えるもんか。


だいたい、勇者と戦う、なんて、そういうことするのって、やっぱり、ワルモノ?な人たちじゃないの?

それじゃ、僕ら、ワルモノ?になっちゃうんだろうか。


勇者なんて、あっちこっちで、ワルモノ退治してきたんだろうし。

めちゃくちゃ!強い、よね?

そりゃ、そうだよね。


そんなのと、戦う、だなんて…


無理だよ。無理。

無理無理無理。

無理だ、って言いたいよ…


言っても、無駄だろうけど。


やる気まんまんの、ルクスとブブ。

仕方ないな、と言いつつも、黙々と準備をするアルテミシア。

その仲間たちに、僕は、イマイチ、ついていけてない。


勇者を闇から解放するためだ、ってルクスは言うけど…


そりゃあね、今までだって、いろいろと、戦い、は、あったよ?

壁とかさ。怪物とかさ。

こんな僕だって、それなりに、戦ったことも、ありますともさ。


だけど、やっぱり、僕、根本的に、むいてない、って思うんだ。

戦い、とかはさ…


ルクスもアルテミシアも、僕の力なんか、あてにしてないだろうけどさ。

もちろん、だからって、僕だけ置いて行かれるのも、イヤなんだけどさ。

邪魔にしかならないとしても、ついて行くけどもさ。


ふぅ。


ため息が出た。

こんなにいいお天気なのに。


うつむいて石蹴りなんかしながら、ぼつぼつと歩いてると。

いつの間にか、アニマの木のところに来ていた。


あ。しまった。

今、一番、来たくないところに来てしまった。


けど、僕を見つけたご先祖様たちは、ふわふわとこっちへ近付いてきた。


「やあ。賢者様。ごきげんよう。」

「いいお天気じゃのう。」

「石蹴りか?わしも、子どものころは、ようやったのう。」


………僕、子どもじゃないけど。


ご先祖様たちは、孫を見るような目をして僕を見た。


「なんじゃ?悩み事か?」

「友だちと喧嘩したか?それとも、恋の悩みか?」

「ずばり!恋の悩みじゃろう?」


からかうように言って、一斉に笑った。


むぅ。

僕はちょっと腹が立って、そのまま何も言わずに、くるっと、後ろをむいた。

その僕の背中に、ご先祖様たちは言った。


「まあ、なんじゃ、何でも話してくだされや。」

「わしら、聞くことしか、できんけども。」

「なんでも、聞いて差し上げますから。」


………。


このまま戻ったところで、また邪魔になるだけだし。

僕は、ちょっと拗ねた気分のまま、そこに腰を下ろした。


膝を抱えて座っていたら、ご先祖様たちは、僕の周りに、同じように腰を下ろした。

っても、地面からほんのちょっと浮いたままなんだけど。


非番のご先祖様って、暇でいいよね?

僕のこと、からかって、楽しくていいよね?


そういう意地悪なことを言いかけたんだけど。

ぎりぎり、思いとどまった。


そしたら、ご先祖様は、僕の気持ちをまるで見抜いているかのように言った。


「なんじゃ?

 言いたいことは我慢せんほうがええ。」

「じじいに八つ当たりしてすっきりするなら、そうしなされや。」

「あんたのお役に立つなら、わしら、喜んで、八つ当たりされましょうとも。」


八つ当たり、八つ当たりって…そう繰り返さなくても…


「まあ、なんじゃ。

 わしら、生きとった時間は、あんたより短いじゃろうけども。

 この世におる時間は、あんたより、うんと長いじゃろうから。」

「人生の先輩じゃ、と思うて、なんでも、相談してくだされ。」


う。

それは、確かにそうだ。


だけど、対勇者必勝法、なんて、聞くわけにいかないしな…


勇者、か。


何気なく顔を上げたら、目の前は花畑だった。

白っぽくかすむように見えるのは、たくさんの小さな花だった。

勇者の好きな花だ、って、確か、ご初代様が言ってたっけ。

この間はまだ蕾だったけど、いつの間にか満開になっていた。


それにしても、勇者の好きな花にしては、ちょっと地味だな、って思った。

勇者、っていうからには、もっと、どばーん、と派手な花が好き、って印象じゃない?


風より疾く、鳥のように身軽で、雷のように鋭い剣の使い手。

誰より優しく、皆を思い、世界を守ろうとした。


ご初代様の言っていたのを思い出した。


すごく立派な格好いい感じ。


その勇者は、この花が、好きだった。

勇者の胸を飾るような大輪の花ではなくて。

むせ返るような、甘く香り立つ花でもなくて。

風に揺れるこの小さな花が、好きだった。


勇者って、本当は、どんな人だったんだろう。


そりゃあ、みんなが、こんなに帰りを待ってる人なんだもの。

勇者の後ろに付いて、戦おうって、思えた人なんだもの。

みんなの信頼と、希望を一身に背負うような、そんな立派な人だろうさ。


だけど。

世界を救った、とか、立派な人だった、とか、それだけじゃなくて。


何をきれいだって思って、何を美味しいって思ったのかな。

何の歌が好きで、嬉しいときには、どうしていたのかな。

どこか痛いときには、どうやって耐えて、悲しいことは、どうやって乗り越えたんだろう。


勇者のそういうのを、僕は、何も知らないなって思った。


「ねえ、勇者って、どんな人だったのかな?」


僕は思わず、尋ねていた。











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