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翌日。
僕らはステルステントを使って、森に入って行った。
ぎりぎり、目印の木までは、このまま行くつもりだった。
「前に来たときにはさ、森に一歩踏み込んだところから、ものすごく帰りたくなってさ。」
僕はその話しをした。
「ご先祖様たちに護ってもらってたから、なんとか歩けたんだけど。
ルクスはそれもなかったのに、よくあんなところまで、行けたね?」
「あー、なんか、そこまでは行くぞ、って決めてたからな。」
ルクスは、なんでもないように言うけど。
それって、すごく強い意志だよね。
「あの日、狩から戻ってくる途中にさ、ばあさんと会ったんだ。
そのばあさんがさ、俺に、目印の木のところへ行ってくれないか、って、頼むもんだからさ。」
「えっ?
おばあさんに、頼まれたから、行ったの?」
「あ?…ああ…」
なんかそれ、ご初代様の話しとはちょっと食い違ってるけど。
「なんかさ、昔、大事なものを、その木の傍で失くしたんだと。
それがないと、どうしても困るって、言うもんだからさ。」
だから、無理してルクスは行ったんだ。
誰かのため、ってなったら、ルクスはこんなに頑張っちゃう。
ルクスは昔から、そういう人だ。
郷でも、旅の途中の村や街でも、それから、王様になってからも。
いっつも、ルクスはそうだった。
「しかし、あのばあさん、どこのばあさんだったんだろうな?
あれから、顔、見ねえんだけど。
元気にしてっかな?
まさか、俺、探し物を見つけてやらなかったから、がっかりして、具合悪くなんてしてねえよな?」
元気だよ、すごく。それは心配いらない。
ルクスは困ったように首を振った。
「俺、結局、ばあさんの探し物?見つけられなくてさ。
それを謝りたかったんだけど。
どこのばあさんかも、分からねえ。」
それは、ご初代様だよ、って教えたほうがいいかな。
「まあ、あれから、あのばあさんにも会わねえしなあ。
それもあってさ。
もし、竜に話しを聞けるなら、ばあさんの失くし物のことも、聞きたい、って思ってて。」
そっか。
「おばあさんは、いったい何を失くしたって言ったの?」
「剣。」
「剣?」
それはまた、意外に物騒なものだね?
「大事な人の形見、なんだと。」
そっか。そういうことか。
「だけど、あの辺に、剣なんて、落ちてなかったしなあ。
それは、ステルステントでうろついてたときにも、探してたんだけど。
どこにもなかったよなあ?」
確かに。
剣が落ちていたら、僕らだって気付くと思うよ。
「剣は見つかってないけど。
ルクスは、そのおばあさんの大事なものを、ちゃんと見つけてきたよ?」
あんなに大勢のご先祖様たちを、連れて帰ってきたんだもの。
「大事なもの?
なんかあったっけ?」
ルクスはきょとんとしてるけど。
ルクスって、そういう人だよね。
気付かないうちに、誰かを助けていて。
それを、全然、いい気になったりしないんだ。
「ルクスはさ、あのあたりで捕らわれていたご先祖様たちを、救出したんだよ。」
「あ。それな。
けど、俺、それは、狙ったわけじゃないからなあ…
勝手についてきた?
いや、そういう言い方は、失礼か。」
もしかしたら、いや、もしかしなくても、おばあさんは、それを狙ってやらせた、んじゃないか、と思うんだけど。
なんだか、それを打ち明けると、おばあさんのことを悪く言うみたいだし、とりあえず、黙っていた。
目印の木は、やっぱり今日も、ひょーん、と立っていた。
なにかなあ、見慣れてきたからだろうか。
妙に、この木には、愛着を感じる。
なんだか、ちょっと、懐かしい、みたいな。
「さてと。」
僕は、仲間たちを見回して言った。
「ステルステントなんだけどさ、解除しないで、ここでみんな、待っててよ。」
えっ?と驚く仲間たちが、何か言う前に、僕は続けた。
「大丈夫。みんなここにいるって、僕、分かってるし。
見えなくても、不安になったりしない。
それよりさ。
もしも、僕がなにかまずいことになりそうなら、手を掴んで、テントに引っ張り込んでくれたらいいと思って。」
テントの外に出ると、外の人からは、テントの中の人は見えなくなる。
気配もしないし、声も聞こえない。
だけど、テントの中の人からは、外の人もちゃんと見えているんだ。
「危なかったら、即避難、でいこうと思って。
竜と戦う必要なんかないわけだし。
竜がもう、話しが通じないくらい狂暴化してるんなら、ここにいても仕方ないし。」
一晩考えた作戦がこれだなんて、ちょっと、情けない気もするけど。
でも、それが一番いい、って、思ったんだ。
「…分かった。」
アルテミシアは、ちょっと複雑そうな顔をしていたけど、とりあえずうなずいてくれた。
そうしたら、ルクスも渋々、うなずいた。
「分かった。
俺たち、なるべく近くに、お前のすぐ横にいる。
こう、手を伸ばして、構えてるから。」
「ブブも!ブブも、て、のばす!」
「なら、安心だよ。」
ルクスが全力で勝てなかった相手に、たとえ僕ら全員だとしても、戦いたくなんかないんだ。
「じゃあ、そういうことで。よろしく。」
僕は仲間たちに手を振ると、さくっと、テントから、外に出た。




