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もう一つの楽園  作者: 村野夜市


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翌朝。

まあまあ、すっきりと目覚めた。

約束通り、ご初代様は、回復エエルを送ってくれたんだろう。


朝食を済ませると、僕らは出かけることにした。


家を出ると、そこにずらっとご先祖様たちが整列していて、びっくりした。


「あ、朝っぱらから、何事?」


「我らの勇者を救出してくださるというのに。

 せめて、お見送りくらいさせていただこう、と。」


僕らが、前を通ろうとすると、ご先祖様たちは、王様の近衛兵みたいに、一斉に剣を捧げる礼を執った。

うへえ。僕、こういうの苦手。やめてほしいなあ。

おまけに、これ、見えてるの、僕だけとか。

なんの拷問?


すると、ぱちぱちぱち、といきなり拍手の音が聞こえた。


「わあ、かっこいい。

 もっと、やって、やって~。」


嬉しそうに歓声を上げたのは、ブブだった。


そっか。

ブブには見えるか。


喜んでいるブブに、ご先祖様たちの間に、柔らかな笑いが巻き起こった。

全種族共通。子どもの笑顔は最強だ。

ブブは子どもじゃないんだけどね。

ちょっと、ズルいよね。


ご先祖様たちも、一斉に拍手を始める。

盛大な拍手に送られて、僕らは、出発することになった。


「なんだ?なんかあるのか?」


喜んでいるブブを見て、ルクスは、不思議そうに僕に尋ねた。


「ご先祖様たちがね。見送りに来てくれたんだ。」


「なんだ?こんな朝っぱらから、わざわざ?」


「まあ、あの人たちは、眠る必要がないから、朝も夜中も関係ないんだけどさ。」


昨夜も、夜中にやってきたし。


すると、ルクスはいきなり、くるっと振り返って、大きく手を振った。


「おう!任せとけ!」


いや、ルクス、ご先祖様がいるのは、そっちじゃないんだけど…

というのは、黙っておいた。


ご先祖様たちは、はっとした顔をして、あわてて、ルクスが手を振っているほうへ集合し直してくれた。

ルクスには見えない、って、ご先祖様たちも分かってるけど。


「よろしく、お頼み、申します。」


全員、声を合わせてそう言うと、揃って丁寧にお辞儀をした。


「ご武運を!」


誰かがそう叫んで、剣を持ち上げた。

すると、周りも次々とそれを真似し始めた。


「ご武運を!」

「ご武運を!」

「どうか、ご無事で!」


なんか、すごい盛り上がってる。


いやあの。

僕ら、べつに、戦いに行くわけじゃないし。

ご武運とか、いらないんじゃないかなあ…


とか、余計なこと言って、水を差すのも、あれだし。

とりあえず、黙っておいた。


森まではそう遠くない。

入口に着くと、アルテミシアは、ステルステントを張った。

瘴気でいっぱいの王城を進んだときみたいに、僕らは、テントの光から外に出ないように気をつけて、ゆっくりと森の中を進んで行った。


ルクスが言ってたように、テントの中だと、結界の影響はまったく受けなかった。

前来たときには、あんなに進まなかった足が、今日は、普通に森を歩くみたいに、するすると前に進む。

結界の力ってのは、すごいもんだな。


森の中には、取り立てて、危険そうなものもなかった。

まるでよく手入れをされているみたいに、整然と木の並ぶ森だ。

日差しも風も、申し分ないくらい、よく通っていた。


「こんなに整った森なのに、音が、まったくしないんだよな。」


ルクスがしみじみと言った。


「生き物の気配を、微塵も感じねえ。」


そうなんだ。

人も獣も。鳥も虫も。草花も。

木のほかには、なんにもないんだ。この森には。

そして、その木も、低く唸るばかりで、歌を歌わない。

結界の影響は受けなくても、どことなく、重苦しい感じは残っていた。


目印の木には、本当にあっという間に辿り着いた。

この間、ルクスを背負って苦労して歩いたのと、同じ距離だなんて、とても思えないくらいだった。


そこでいったん、足を止めて、ルクスは、みんなの気持ちを確かめるみたいに、全員の顔を見渡した。


「この先へ、進んでも、いいか?」


もちろん。

今日はそのために来たんだ。

僕らは、一斉に頷いた。


ルクスは剣を取り、アルテミシアも弓を手に持った。

そこからは、警戒を最大にして、僕らはまた進み始めた。


それにしても。

ルクス、アルテミシア、ブブ。

みんなが一緒にいるのって、なんって心強いんだろう。

大切な人を危険な目には合わせたくない。

僕だって、そう思うけど。

たとえ、危険な場所だとしても。

仲間と一緒なら、乗り越えられる、のかもしれない。


いにしえの勇者も。その仲間たちも。

きっと、そう思って、この道を歩いただろう。


闇に捕らわれた千年の時を耐えた人たちも。

きっと、仲間と一緒だったから、乗り越えられた。

仲間の絆の力ってのは、きっと、ある。


僕は仲間たちの背中を見て歩いた。

みんなの背中が、目の前にあるのって、どうしてこんなに強くなれるんだろう、って思った。


目印の木の先の森は、どうなってるんだろう、って、かなり警戒はしてたんだけど。

行ってみれば、そこも、手前の森と、大差ない感じだった。


結界の影響を受けなければ、そこも見通しのいい、整えられた森だった。


僕らは恐ろしい穴を警戒しつつ、勇者を探して歩き回った。

あれだけ見通しもいいんだし、森の中じゃ、決して迷わない、ルクスとアルテミシアもいる。

僕らは、丁寧に丁寧に、勇者を探して歩いた。


思ったより、森は広くはなかった。

もしかしたら、結界で護られた場所より外側は、エエルを吸い取られて、森は枯れてしまったのかもしれない。

つまり、森は、きれいに、結界の内側にしか残っていなかった。

その範囲なら、一日もあれば、丁寧に見て回ることも可能だった。


そうして。

一日中歩き回った結果。

結局、僕らは、恐ろしい穴も、勇者も、見つけられなかった。










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