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もう一つの楽園  作者: 村野夜市


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真夜中。

僕はご初代様に起こされた。


ご初代様は、今日ルクスが森から連れて来たご先祖様をひとり、連れていた。


「ちょっと話しがある。

 顔を貸してください。」


顔を貸す?


「あ…うん…」


なんだか聞き慣れない言葉遣いに戸惑いながら、僕は仲間たちを起こさないように、静かに外に出た。


家の外には、闇に捕らわれていたご先祖様たちが、大勢いた。


「すまんのう。

 この方たちが、お前様に、どうしても頼みたいことがあるとおっしゃってのう。」


ご初代様は、僕に小さい声で謝った。


「あとで、特大の回復エエルを送っておきますから。」


あ。それは、助かります。

昼も夜も寝なくていいご先祖様たちの相手をしていると、どうしても、寝不足になるからねえ。


ご初代様と一緒に僕を起こしにきたご先祖様は、みんなの代表みたいだった。

一歩前に進み出ると、僕にむかって言った。


「わたしたちを闇から助けてくれたあのお方には、いくら話しかけても、通じなかった。

 しかし、あなたは、わたしたちとも話しができると聞いて。

 是非、お話ししたいことがあるのです。」


「あ、はい。

 みなさんのお話しは、伺おうと思ってました。

 けど、やっぱり、ずっと待ってた人たちと再会するのが先かな、って思って。

 お話しはその後にしようかな、って。」


だって、みんな、もうずっとずっと待ってたんだもの。

この人たちの帰りを。

多分、千年とか、そのくらい長い間。


「それはそれはお優しい方なのじゃ。この賢者様は。」


ご初代様は、横から、何故か自慢げにそう言った。


闇に捕らわれていたご先祖様…それにしても、この呼び方、長いよね?

まあ、いいや。

ご先祖様は、むぅ、と頷いた。


「確かに。それはとても有難かった。

 離れ離れになっていた夫婦や恋人、我が子と再会できた者もおります。

 みな、感涙ひとしおでした。

 もっとも、我が子も孫も、自分よりじいさんばあさんになっていて、びっくりいたしましたがねえ。」


ご先祖様は、がっはっは、と豪快に笑ってから、丁寧にお辞儀した。


「それにしても。

 本当に、有難うございます。

 あなたは、わたしたちの恩人です。」


「いや、あの、それに関しては、僕は、なんにもしてませんけどね?」


ステルステント持って行ったのはルクスだし。

ステルステント広げたのも、ルクスだし。

いや、けど、そのとき、ルクスは、それで誰か助かる、とかは、思ってなかったみたいだし。

みんなが助かったのって、本当、なんかの偶然か、超ラッキーだったんだし。


そもそも、ステルステント作ったのは、匠だし。

いろんな機能のついたラブリーフライングソーサーちゃんはアルテミシアのだし。


むしろ、僕は、いろいろと役立たずで、物事をかえってややこしくしてしまうばっかりなわけで…


「お礼を言われると、かえって恐縮です。」


思わずそう言ったら、何故か、ほう!と一斉に感心された。


「なんとまあ、謙虚なことか。」

「これぞ、人の鏡。」

「森の民とは、やはり、立派な人たちなのだな。」

「森の民を賢者と呼ぶ理由が分かりました。」

「我ら、見習わねばなりませんな。」


………。

まあ、いいや。

いらないことを言ったら、また話しが進まないから。

ここは黙って、下むいてよう。


「その賢者様に、我ら、達ての願いがございます。」

「どうか、勇者様を、お救いください。」

「賢者様なら、きっと、おできになりましょう。」

「我らと世界を救ってくれた勇者を!」


彼らは一斉にそう言って、みんなして、地面にひざまずいた。


っても、地面からはほんの少しだけ浮いてるんだけど。

普段は、ぷわぷわとそこいらじゅう、高いところにも浮かんでるのに。

一斉に、低いところにずらっと並ばれたら、それだけでも、迫力があった。


「あ。

 いやいやいや、そういうの、やめてください。」


僕は慌ててみんなを見回して言った。


「それに、それはもう、明日、行ってみよう、って、さっき仲間たちとも相談してたし。」


「なんと!」

「なんとまあ!」

「先手を打っておられたとは!」

「なんと、慈悲深い!」

「流石は賢者様だ!」


なんだかこっちを見上げる目が、みんなして、ちょっとうるうるしている。

なんだろうね?平原の民の、この、一体感?みたいなの?


彼らは、すごく仲間を大切にする。

もちろん、他の種族が仲間を大事にしない、ってことじゃないけどさ。

平原の民は、ことさら、仲間と一緒、とか、連帯、とか、一体感、とか、そういうのに重きを置くんだ。


エエルの少ない世界でも、彼らはとても繁栄させていた。

それって、彼らのこんな性質のおかげなんじゃないかな、ってちょっと思う。


それはさておき。


「あの。

 じゃあ、せっかく来てもらったことだし、ちょっとお話しを聞いてもいいですか?」


せっかくだし、今のうちに、話しを聞いてしまおう。


「もちろん!なんなりと!」


一斉にみんな揃って、同じことを言った。

異口同音、ってのは、こういうのを言うんだ、って、感動した。


「あの。じゃあ、いきなり、本題ですけど。

 勇者って、どこにいるか、分かります?」


すると、ご先祖様たちは、一斉に首を振って、声を揃えて言った。


「分かりません。」


そっか。

そうきっぱり全員に返事されると、すごくきっぱり納得するよ。


「我らも、さんざん探したのです。」

「しかし、見つかりませんでした。」


ご先祖様たちは、追い打ちをかけるように、口々に言った。


「ただ…

 あるとき、一匹の竜が現れて、我らに言いました。」


あの代表のご先祖様が、記憶を辿るように言った。


「勇者は、闇に捕らわれてしまったのだ、と。」


「いや、けど、みなさんも、闇には捕らわれていたわけで…

 それを、偶々、偶然、ステルステントで、助け出せたわけで…

 つまり、勇者も居場所さえ分かれば、ステルステントを持って行けば、助け出せるんじゃないかな、って思うわけで…」


僕はもたもたと説明しようとした。

代表は、僕の言うことを分かるような分からないような、ちょっと首を傾げながら言った。


「竜は言いました。

 勇者はもう、戻らない。

 けれど、みなさんはまだ、助かるかもしれない。

 だから、あの木の傍にいて、助けをまつように、と。」


「あの、ひょーん、と一本、背の高い木、です。」

「この木は竜が護っているのだ、と。」

「なんだったか?ケッカノカメ?だとか…」


みんなが口々に言い足した。


ケッカノカメ?

あ。


「結界の要、かな?」


だとしたら、それは、森の民が植えたというあの目印の木のことだ。

多分、あの木は、あの森の強力な結界の要になっていると思う。

そこは結界の力が一番強くなる場所だから。

闇に捕まらないために、そこにいるのがいい、って言ったんだろう。


竜が護っている?

そっか。

ルクスはあの木の傍で怪物に襲われたって言ってたけど。

もしかして、それは、あの木に宿る竜のことかな。

けど、もし、竜なら、ルクスは、分かるはずだし。

だけど、ルクスは、竜、じゃなくて、怪物、って言った。

恐ろしい怪物、って。


そうか。

もしかしたら、この人たちみんな、一斉に闇から解放されたのって、偶然、じゃないかもしれない。

先を見越して、あのあたりに集合させていたから…?

仲間と協力する、のが得意な平原の民にとって、仲間と一緒にいる、ことは、長い時間を安全に待つために、すごく有効だったんじゃないかな。


結界の要を護る竜は、多分、大昔に結界を作った森の民の秘術だろう。

つまりは、彼らに助かるように助言したのは、その大昔の森の民だ。


その森の民は、言ったんだ。

勇者は、もう、戻らない。

闇に捕らわれたのは、目の前にいるこの人たちも同じだったはずだけど。

どうして、勇者だけ、戻らないんだろう…


「…勇者を捕らえた闇と、みなさんを捕らえていた闇は、違うのかな…?」


尋ねるというわけでもなく、そう呟いたら、みんな、不安そうにお互いの顔を見合わせて、首を振っていた。

だよね。分からないよね…


ルクスじゃないけど。とにかく、行ってみるしかないか。


「まずは、明日、行ってみます。」


僕はみんなに宣言するように言った。


「…わしらに、なにか、お手伝いできることは、ないじゃろうか?」


ご初代様は、恐る恐る、そう申し出てくれた。


確かに、ルクスを連れ戻しに行ったときは、ご初代様やご先祖様たちに、ずいぶん助けてもらった。

みんなの力がなかったら、無事に戻れたかどうか分からない。


だけど、今回は、アルテミシアもブブも、それからルクスも一緒だ。

ラブリーフライングソーサーちゃん、っていう頼もしい味方もある。


それに、あの森にはまだ、確実に恐ろしい穴があって、ご先祖様たちだって、近付けば無事じゃ済まない。

だけど、ルクスは、明日は、あの目印の木よりも先へ、進むつもりだ。


「いや。明日はとりあえず、僕らだけで行きます。」


少し考えて、僕はそう答えた。


「でも、一回で済むとは限らないし。

 なにかまた、手を貸してほしいことがあったら、お願いします。」


「もちろんです。」

「なんなりと言ってください。」


ご先祖様たちは、一斉に返事をしてくれた。








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