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もう一つの楽園  作者: 村野夜市


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ご先祖様たちをアニマの木に送って戻ってきたら、食事の支度ができていた。

こんなふうにごはんを食べるのは久しぶりだな、って思う。

あの、ルクスが晩ごはんに帰ってこなくて、森に探しに行ったとき以来、かな。


どこも具合が悪くなくて、みんなとごはんを食べられるのは、なにより幸せだな。

なんて、改めて思った。


「お前、さっき、どこ行ってたんだ?」


指についたソースを舐めながら、ルクスは何気ない感じに僕に尋ねる。

本当、いつもの夕食時の会話って感じ。


「ルクス。指を舐めるな。」


アルテミシアにぼそっと叱られて、ルクスは、慌てて、ああ、悪い悪い、と言うけど。

舐めてしまった指を確かめたら、もうそこに何もついてなかったから、知らん顔をしてパンを取った。

それから、一部始終を見ていた僕のほうをちらっと見て、アルテミシアに気付かれないように、小さく笑ってみせる。


そしたら、ふいに、森の郷にいたころのことを思い出した。

ルクスのお父さんも、よく、あんなふうにソースのついた指を舐めながら、僕らに尋ねたっけ。

今日は、君たち、どこへ行ってきたのかな、って。

そしたら、やっぱり、ルクスのお母さんに、お行儀が悪い、って、叱られて。

僕らのほうを見て、こっそり肩をすくめて笑ってた。

それが、今のルクスの仕草にそっくりだったんだ。


故郷からは遠く離れているけど。

ルクスのお父さんとも、もう何年も会ってないけど。

ふと、あのころの、あったかい感じが、胸の中に蘇った気がした。


「うーん、君たちが連れてきちゃったご先祖様を、アニマの木のところに連れて行ってきた。」


僕も、ベリーを食べながら、普通に答えた。


「物を口に入れたまましゃべるな。」


すかさず、アルテミシアのお小言が飛んできた。


ふふ。

なんだか、叱られたのも嬉しくて、思わず肩をすくめて笑っちゃった。

ルクスとふたり、目を見合わせて、小さく笑う。

うん。僕ら、幸せだね。


「俺たちが、連れてきた?」


ルクスが怪訝そうに僕に尋ねた。

やっぱり、自覚なかったか。


「そうだよ。

 この部屋に入りきれないくらい、たくさん、いたんだ。」


「げ。

 そんなのいつの間に、ついてきたんだ?」


「ステルステントの範囲に入っちゃったんだと思う。

 そしたら、闇の呪縛が解けて、自由になったんだろうね。」


「闇の呪縛?」


あ。

そこから、だよね。


僕は闇に捕らわれた勇者と、勇者を探しに行って帰ってこなかった人たちのことを話した。


「それで、その勇者を探しに行ったやつら、ってのが、ついてきたのか?」


「そうだよ。」


「王様と、その王様を探してたやつらのほうは?」


「そっちはいなかった。」


もしかしたら、その人たちも闇から解放されてたかもだけど。

ルクスには、大勢、村のご先祖様たちがついてきてたから、それ見て、どこか余所へ行っちゃったのかも。


「そんで、その勇者、もいなかったんだな?」


「いなかった。」


ルクスは、むうと唸って、食事の手を止めた。


「そんじゃ、明日、その勇者を探しに、もっぺん、行くか。」


そう言って僕を見る。


「それに、今日行ったのは、目印の木のところまでだった。

 けど、ステルステントを使えば、その奥にも行けそうじゃないか。

 もしかしたら、勇者は、もっと奥で捕らわれてるのかもしれねえし。」


それは、そうだよね。


「それに、今日は、結局、穴も見られなかったからな。」


あっさりそう付け足すけど。

僕はちょっと、げ、っと思った。


「まさか、穴も見ようって思ってる?」


「どんなものか、見てみないと、塞ごうにも塞げないだろ?

 大さとか、深さとか、何にも分んねえんだから。」


やっぱり。

塞ぐつもりなんだ。


「簡単には、塞げないかもよ?」


「それも、実物を見てみないと、分からねえからな。」


…ルクスはそう考える人だよね。


危ないから近付くなって言われたら、僕は、近付かない、を選ぶんだけど。

ルクスは、危なくないようにする、を選ぶんだ。


「心配するな。

 俺だって、ちゃんと慎重にやるようにする。

 軽い気持ちじゃ危ねえ、って、思い知ったからな。」


それから、さっきから黙々と食事をしているアルテミシアに言った。


「お前も行くだろ?」


「ああ。」


アルテミシアはたった一言、即答した。


「ブブもいく!」


ブブは、さっきから、両手にクッキーをひとつずつ持って、片方ずつかじりながら、味の違いを確かめていた。

すっかりクッキーに夢中になっていると思っていたけど、話しは聞いてたみたいだ。

自分から、そう言い出した。


「お前も、来るよな?」


「もちろん。」


僕も即答だった。


「今日はごめんな?

 本当に、ちょっと、思い付きを試してみよう、って、それだけだったんだ。」


ルクスは申し訳なさそうに付け足した。


「いいよ。

 もう気にしてない。」


だって、ルクスだもの。

悪気とか、意地悪とか、そういう気持ちは、持ってないって、よく知ってる。


「じゃあ、明日に備えて、今日はたくさん寝るんだぞ。」


アルテミシアは僕らにそう言って、ちょっと笑った。

その笑顔の端っこに、仕方ないなあ、というのが混じってる。


じゃあ、明日に備えて、今日はたくさん、寝ないとね?

ルクスのお母さんもよくそう言ってたっけ。って、思い出した。

その顔は、今のアルテミシアに、どこか似てたかもしれない。







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