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もう一つの楽園  作者: 村野夜市


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ステルステントの中に入ってしまったおかげで、闇に捕らわれていたご先祖様たちは、取り戻せたらしい。


「それで?その穴、は見えたの?」


「いや。それが、見えなかった。

 だいぶ、高くまで上ったんだが。

 高く上がれば上がるほど、今度は、樹冠に隠されてしまうからな。」


そりゃ、そうだ。


しかし、この人数…

よっぽど広い範囲をカバーしてしまったんだろうね。


僕は、ご先祖様たちを見回して言った。


「あの。

 とりあえず、みなさんの帰りを待ってた人たちのところへ、行きましょうか?」


「ほう。

 君は、わたしたちが見えるのかね?」

「知り合いのところへ連れて行ってもらえるとは有難い。」


僕が説明するより、そのほうが早いだろうしね。


「あの。

 今からちょっと、出かけてもいいかな?」


ルクスとアルテミシア、帰ってきたばっかりだけどさ。


「もうじき、夕飯だぞ?」


「そんなに遅くならないよ。

 ちゃっちゃと行ってくる。」


「じゃあ、早く帰ってこいよ?」


僕は食事の支度は任せて、ご先祖様たちをアニマの木に案内することにした。

だって、ずっとここにいてもらうのも、なんだか、あれじゃないか。


夕焼けの道を歩いていると、ご先祖様たちは、みんなきょろきょろとあちこちを見回した。


「こんな場所に、こんな立派な村を作り上げとるとはなあ。」

「あれから、どのくらい、経っているのだろうか。」


「勇者のおかげで一回持ち直した世界が、もう一度滅びかけて、今またそこから立ち直りつつあるところです。」


ふぉお~、ふへぇ~、という声が一斉にあがった。


「あんたは、森の民、じゃないのかい?」

「珍しいな。森の民とは。」


いつの時代も、森の民は、珍しい存在なんだな。

僕は、あはは、と軽く笑ってごまかした。


アニマの木の見える辺りに来ると、ご先祖様たちは、もう案内もなしに、一直線に飛び始めた。

アニマの木にいたご先祖様たちも、それに気付いて、こっちへと飛んできた。


「ほう!」

「はぅわ!」

「ひょえ!」

「ふひっ!」


あっちこっちで歓声が上る。

知り合いだった人たち同士、抱き合って泣いている。


いやあ、よかったよかった。


あとは、ご先祖様たちに、お任せして。

そろりそろりと引き返しかけた僕のところに、ご初代のおばあさんが近付いてきた。


「わしらの長年の夢を叶えてくださって、有難うございます。」


おばあさんはそう言って、丁寧にお辞儀をした。

僕は、あわてて手を振った。


「い、いやいやいや。

 叶えたのは、僕じゃなくて、ルクスだし。」


…というか、ルクスも、今日のところは、そんなつもりはなかったのかもだけど。


「とにかく、待ってた人たちに会えてよかったよ。」


「ほんに。

 嬉しゅうて、嬉しゅうて、わしもこのまま、転生してしまいそうじゃ。」


それは!

引き留める、べき?


「やはり、あなた方は賢者様じゃ。

 あなた方に相談してよかった。」


え?

もしかして、最初からそのつもりで、ルクスを森に行かせたの?


いや、まさかね。

森に行きたいって言い出したのは、ルクスのほうだろうし。


あ、れ?

でも、ルクスってば、どうやって、おばあさんから、話しを聞いたんだ?


おばあさんは、僕の顔を見て、にやりと笑った。


「ブブさん、とおっしゃったか。

 あの方にも世話になった。

 お礼を言うておったと、お伝えくだされ。」


ブブ?

そっか!

ブブなら、おばあさんのこと、実体化できるかもしれない。


僕が畑の番をしていた間、ブブは退屈して、ルクスとかアルテミシアとかにくっついて行ってたっけ。


森の結界のことなら、村の人から聞いてたっておかしくはない。

それを、もっと詳しく調べるために、ルクスはブブに頼んだのかも。


いやでも、ルクスのほうから、ご先祖様に話しを聞く、なんてこと、思い付くかな。

だとしたら…?


もしかしたら、おばあさんのほうから…


「森の民は、いつもわしらを助けてくださる、不思議な方々じゃ。」


おばあさんは、とても嬉しそうだ。


まあ、いっか。

なんにせよ、うまくいったっぽいんだしさ。


「じゃが、森の民のお力でも、勇者を連れ戻るのは、無理じゃったか。」


おばあさんは、ちょっとだけ残念そうに付け加えた。


「え?

 あの中に、勇者、は、いないの?」


そういえば、と僕も見渡してみた。

ルクスが連れてきたご先祖様は、けっこうな大人数だけど、その中に、あの夢で遭った勇者の姿はなかった。


そっか。

勇者はまだ、闇に捕らわれたままなんだ。


「他にも、帰ってない仲間は…?」


「他にはおりません。

 勇者だけ、戻っておらん。」


そう、なんだ。


たまたま、勇者だけ、ステルステントに入りそこねた?

なら、もう一度、ステルステントを使って、森を探しに行ってみようか。


とりあえず、その方法なら、危険はなさそうだし。


僕は帰ったら、ルクスとアルテミシアに、そう言ってみよう、って思った。






















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