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あの森に施されているのは、森の民の封じの秘術だ。
恐ろしい穴を封じるために、大昔にどこかの森の民が作った。
だけど、その封じの術があっても、恐ろしい穴は、エエルを吸い取ろうとする。
そのぐらい力が強い。
あの森の木は、ずっと、低い声で何かを呟いている。
そんな森は初めてだ。
それも、強力な封じのためなのかもしれない。
森全体が、穴を封じるために力を貸してくれているんだ。
そうしないと、とても危険だから。
僕自身、エエルについては、いまだによく分からないことも多いんだけど。
人にも獣にも、木にも岩にも、生き物にも、そうじゃなくても、この世界のありとあらゆる物に、エエルは含まれている。
そのエエルが足りなくなると、命も物質も、世界そのものも、崩壊してしまう。
もしかしたら、その穴にエエルを吸い取られることで、人の心も闇に捕らわれてしまうんじゃないかな。
僕の知ってるルクスは、この世で一番、闇なんてものからは遠い人だと思う。
そんなルクスすら、この闇には捕らわれかけた。
それって、ルクスの中にある、生きる力を、穴に吸い取られてしまったからなんじゃないか。
きっと、いにしえの勇者も、その仲間たちも、同じように、穴にエエルを吸い取られてしまったんだ。
そうして、あの闇に捕らわれているんだ。
だけど、どうしたら、その人たちを助け出せるって言うんだろう。
穴を封じた森の民は、かなり力のある術者だと思う。
そんな人ですら、この穴は、閉じる、じゃなくて、封じる、しかなかった。
穴はそのくらい強力なんだ。
そんなことを考えながら戻ってきた。
ルクスもアルテミシアもどこかへ出かけたらしい。
ルクスには特に、何日も、僕の世話をさせてしまっていたから。
申し訳なかったと思う。
きっと、やりたいことだって、たまっていただろう。
ブブも、ルクスについて行ったらしかった。
最近のブブは、僕でなくても、ルクスにもアルテミシアにもついて行く。
そもそも、ブブは、わりといつも気ままに動いていたし。
ずっとベットで寝ていた僕に、付き合うこともない、って思う。
夕方。
そろそろ夕飯の支度を始めようかなって思ってたころだった。
ルクスとアルテミシアとブブは、三人、連れだって戻ってきた。
「おかえり~、あるじさま~。」
ブブはそう言って僕に飛びついてくる。
おかえり、なのは、君でしょ、って言いたくなるけど。
ようやく、ベットから起きられたから、僕が、おかえり、なのかな、ってちょっと思った。
「おかえり、ルクス!…アル、テミシア…」
ブブに続いて入ってきたふたりに、僕は目を丸くした。
いや、ふたり、じゃなかった。
ぞろぞろぞろ
ぞろぞろぞろ
ぞろぞろぞろぞろぞろぞろぞろぞろ…
ふたりの後ろから、ぞろぞろと、ご先祖様たちが、ついてきていた。
きょろきょろと物珍しそうにあちこち見回しながら、楽しそうに会話している。
「いやあ、こりゃまた、大きな家だねえ?」
「こんな立派な村に、なっとるとはねえ。」
「いやいや、驚いた、驚いた。」
ご先祖様たちは、次々と家の中に入ってきて、そのうちに、家の中は、ご先祖様でぎゅうぎゅう詰めになった。
初めてここに来た日の夜、ご先祖様たちが、僕らのことを見に来たけど。
あのときの再来か、ってくらい、大勢、いた。
いや?
よく見ると、ご先祖様、にしては、ずいぶんものものしい格好だ。
鎧を身に着け、腰には剣を帯びて…まるで、戦支度のような姿をしている。
いや、でも、これ、ご先祖様だよね?
みんな、アニマの木のところにいるご先祖様たちのように、軽く宙に浮いているし。
「いったい、こんなに大勢、どこから連れてきたの?」
僕は思わずルクスに尋ねた。
だけど、ルクスは、は?と首を傾げてきょとんとしている。
それは仕方ない。
ルクスにもアルテミシアにも、ご先祖様は見えないから。
「ふたりとも、今日は、いったい、どこに…」
行ってきたの、と聞こうとしたけど、聞くまでもなかった。
こんなに、いっぱい、憑いてきてるんだもの。
「森に、行ったの?」
僕がそう尋ねると、ルクスはちょっと、しまった、って顔になった。
「あ、ああ、今日はアルテミシアもブブもいたし。
それに、あの、目印の木のむこうには、行かなかった。」
それにしたって。
…どうして僕には声をかけてくれなかったんだろう…
僕は、少しだけ、仲間外れにされたような気がした。
ルクスはそれを感じたのか、慌てて言った。
「いや!あのさ!
お前は病み上がりだったし。
無理させたくなかった、というか…」
ルクスの言いかたはだんだんと言い訳がましくなっていく。
「いや、あのさ、まだうまくいくかどうか分からなかったし。
ちょっと試しにやってみて、うまくいけば、お前にも一緒にやってもらったら、いいかな、とか…」
「思い付いたら、じっとしてられないんだ、このバカは。」
アルテミシアは容赦なくそう締めくくった。
「…分かったよ。
それで?何をしたの?」
「あ!
それなんだけどさ。」
僕が話しをむけると、ルクスは、嬉々として話し始めた。
「あの、森?だっけ?
あそこ、ステルステント使って入ったらいいんじゃね?って思ってさ。」
ステルステント!
確かに。
瘴気にも気付かれないあれなら、闇にも気付かれないかも。
「で、行ってみたわけだ。」
「いきなり、ラブリーフライングソーサーちゃんを貸せとか言われてね?
何に使うの、って聞いたら、森に行くって。
まあ、懲りないやつなのは、昔からだし。
あたしも一緒に行くなら、ってさ。」
「い、いやいやいや。
あの森の危険は、俺が、ちゃあんと下見してあったからさ。
アルテミシアやブブを危険な目に遭わせることもない、って、思って。
やばけりゃ、すぐに引き返すつもりだったんだ、うん。」
でも、ルクスの予想通り、ステルステントの中なら、闇に捕らわれることもなかった。
それどころか、ステルステントには、森の結界も利かなかった。
それで、三人は、行ってみたんだそうだ。
目印の木のところまで。
「なんか、嘘みたいに、すいすい、行けたんだ。
そんで、約束通り、木のところまで行って、引き返した。
それだけだって。」
それだけなのに、なんだって、こんなに大勢、ぞろぞろ引き連れてきちゃったんだろう。
僕が、じっ、と見たら、ルクスは慌てて付け足した。
「…ちょっと、高いところに行けばさ、その、穴?が見えるかと思って。
けど、ステルステントを消すのも危ないだろ?
だから、こう、ステルステントを維持したまま、フライングソーサーにぶら下がって…」
ルクスはその仕草をやってみせた。
つまり、ステルステントは、その間、とてつもなく、広くなった。
「なんだ、不思議な光の中に、突然、おった。」
「仲間も大勢、おった。」
「なので、そのままついてきた。」
ご先祖様たちも口々に説明してくれた。
それで、なんとなく、いきさつは分かった。




